13話 奇襲
「はぁー……良い湯だった……生き返った」
俺は風呂に入り終わり、寝室へ向かう廊下を歩いていた。
風呂問題。
これは泊まり込みで仕事をする人種にとって大きな意味を持つ題材だ。
この業界には2種類しかいない。
風呂さえ入れば、疲れが取れて泊まり込みでも案外平気でいられる人間。
つまり風呂に入らなければ1泊しただけで疲れが出て仕事にならないのだ。
そしてもう一つが、風呂に意味を感じない人間。
某天才監督はTVアニメ制作期間中に数カ月風呂に入らなかったと聞いた事がある。
俺は会社で寝泊まりは問題ないがやはり風呂だけは入りたい。
(ここが天才と凡人の違いなのだろう。俺はやはり凡人、もっと勉強と練習をしないと駄目だな)
「今頃、スタジオのみんなはどうしているだろうか?」
なんだか1人、風呂に入ってしまっている事に申し訳ない気持ちになってしまった。
(後で虎之助さんたちも風呂に入れてもらえるようにガルドフ団長に頼んでみよう)
「あれ?ハルカだ」
俺の歩く先にあるガルドフ団長の部屋の前でハルカがドアをノックしている。
「ハルカ、何しているの?」
「こんばんは。ちょっとガルドフ団長に用事があって」
(あれ声が違う?)
何か音声が加工されたような音だ。俺は首を傾げた。
(この感じどこかで聞いた事あるような……どこだっけか)
「早く休んだ方がいいよ」
「あ、うん」
(耳にお湯でも入ったのかな?)
俺は顔を傾けて、耳をポンポンと出て叩き水を出そうとしてみた。
扉が開きガルドフ団長が出てくる。
「ハルカ、こんな時間にどうした?」
「ちょっと魔物との戦い方について重要な相談したい事があって」
「重要な相談?……わかった、まぁ入れ」
(ガルドフ団長の声は普通に聞こえる……なんでハルカだけ声が変に聞こえるんだろうか?)
俺はまた首を傾げながら考えてみた。
「それじゃあ」
ハルカが俺に微笑んで中に入ろうとする。
(あっ、思い出したこの声……)
俺は思わずハルカに声をかける。
「あのさ、ハルカ。なんで魔物みたいな声になっているの?」
そう、あの戦ったガーゴイルの声と同じだったと思い出したのだ。
「「!!!」」
次の瞬間。
ハルカの姿から魔法使いの魔物に変化する。
「クソがぁ!何故見破られた!この完璧な変身魔術を見破られた事など一度もないというのに!」
(なるほど変化の術みたいなものか。いや声、凄く変だから気付くよ)
「魔物めかぁ!どうやって潜り込みやがった、ふざけた事を!不愉快極まりないぞぉ!」
ガルドフ団長が、素早く殴りかかり魔法使いの魔物を吹っ飛ばす!
壁に強打した所で、更に顔面に膝蹴りを加える!
「ぐわはぁ!」
魔法使いの魔物は絶命し、塵になっていく。
(斧だけでなく、格闘もできるのか!流石傭兵団の団長だ……今度撮影させてもらおう)
俺は思わず関心してしまった。
いやはや、この世界はアニメーションの参考資料だらけだ。
「スネタ、助かったぞ……まさか魔物の刺客がこんな所まで来ていやがったとはな……対魔物の結界を張っていたとはいえ注意が散漫になっていたか。情けねぇー!情けなねーぞ!」
と、自らの手で顔をガンガン殴り始めた。
「あっ、いえ。役に立てたなら良かったです。そのご自身を責めるのはその変で……」
「これは変身魔術『モシャスラ』だ。ここの俺様が気付かないレベルの変身できる魔法使いはそういやしないんだ。それをいとも容易く見破るとは……スネタ、貴様なかなかやるなー!流石だ!」
俺の背中をバンバン叩きながら褒めてくるガルドフ団長。
しかし力が強い。
(魔物の言葉がわかる特殊スキルが、こんな形で役に立つとは)
凄い力や魔法使えるようなスキルよりも、俺には合っているかもしれない。
「奴ら城攻めが難しいとみると、刺客を送りこんでくるようになったもんだ。賢い奴らなのだ魔物たちは」
「なるほど、野獣ではないんですね……知性のある魔物とはかなり手強いですね」
「おそらく団長である俺様を殺して、順番に他の者も殺すつもりだったのだろうな。スネタ!貴様は命の恩人だ!」
(何もしてないですが……恐縮です)
とりあえず、ガルドフ団長の信頼を期せずして得たようだ。
これはこれで良しとしよう。
「ガルドフ団長、何事ですかぁ!」
騒ぎを聞きつけ、部下の傭兵たちが数人やってくる。
「魔物が侵入してきたぞ、別の種類の結界を張れ!念の為建物内に魔物がいないか捜索もしろ」
「ガッテン承知!」
× × × ×
ハルカや傭兵団全員の無事も確認され、魔物避けの結界が張り直された事もあり、安心した俺は寝室に入った。
(魔物たちは謀略や調略を駆使して攻めてくる。油断できないな……思っていた以上に知性がある)
『コンコン』と、ドアをノックする音がする。
「スネタ、入っていいかな?」
(ハルカの声だ、今度は間違いなく本人だ)
「どうぞ」
ドアを開けハルカが入ってきた。
「スネタ、また助けてくれてありがとう」
「いや、俺は本当に何もしてないよ」
「結界を通り抜けて入れるレベルの変身魔術『モシャスラ』を見破るなんて本当に凄い事なんだよ。もしかしたらガドルフ団長が殺されていたかも……いえ、最悪皆殺されていたかもしれない」
「凄い事かは、わからないけど。ハルカたちの役に立っているのなら俺は嬉しいよ。でも一つだけ、残念な事があってさ」
俺は頭をかきながら言った。
「え?何?」
「魔法をかけようとする時は杖をあんな感じ構えるのを見れたのは嬉しかった……ポージングの勉強になるからさ。でも魔法を出す所、見てみたかったなぁ……詠唱ってやっぱろりするのかな」
(あっ、しまった)
余計な話をしてしまった。
俺はハルカを見る。
やはりキョトンとしている。
「あっ、いやこんな事考えちゃダメだよね、ごめん」
「スネタは、勉強熱心だよね。私見習わないと」
「俺ただの作画オタクだから。気持ち悪いよね、あはははっ」
「そんな事ない!」
「え?」
「気持ち悪いなんてそんな事絶対ないよ。スネタのお陰で団長も、そして私も殺されずにすんだ……またスネタに救われたんだもん」
「あっ……うん、そっか……ありがとう」
「お礼を言っているのはこっちだよー」
ハルカがそう言って少女のように笑う。
「長居して、ごめん。今日はゆっくり休んでね」
と、ハルカが頬を赤らめる。
(そうか魔物が奇襲をかけたんだもんな、疲れているんだな……)
「ハルカも温かくしてゆっくり休んでね、おやすみ」
「うん!おやすみ」
ハルカを小さく手を振りながら部屋から出て行った。
「ベッドだ……フカフカだ」
何て気持ち良いのだろうか……。
ここ数日、イスにクッションを敷いて寝る生活をしていたので、幸せを感じてしまう。
(こんなフカフカのベッドで眠れるなんて、凄い贅沢だ)
そんな事を考えていたが、俺は我に返りガバっと起き上がった。
「俺はなんて馬鹿野郎なんだ……こんな良いベッドで寝れるほど、CGアニメーターとして成功していない、食えていないだろ!」
そして更に俺は気付いてしまった。
「スタジオではみんな寝袋で寝ているんだぞ……俺だけこんな贅沢はダメだ。決して許される事ではない」
俺は慌てて床に薄いシーツを置き、1枚毛布をかけ眠る事にした。
(明日は仕事探しだ、頑張るぞ)
そう決意して俺は眠りについた。
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