その八 名前が違う 9
家に帰った僕は、母から入試の結果を訊くような興味津々たる態度で迎えられた。
「デート、どうだった?」
「うん……」
起きたことをそのまま言おうかと思ったが、やめた。
「カルト教団の入団式いってさ。生け贄の儀式で、もらった一万円そっくり献金しちゃった。でも隣りの子といちゃつき合って、いい思いしたよ。同級生で幽霊の見える子がいるんだけど、その子の前であの家庭教師だった三田和美さんの命に代えて信仰を貫くって宣誓させられた。そしたらその子、ぶっ倒れちゃって、大騒ぎ。病院にお見舞い行ったら、まったく知らない女の人のご臨終に立ち会わされて。あげくの果てには入院中の女子大生と病室のベッドで……彼女、感極まって叫ぶんだ、僕以外の男の名前を」
これじゃたぶん、母に殺される。
だから、三文字で簡略化して伝えた。
「大成功」
そして僕は、母にウインクしてみせた。
母は、でかしたという感じで、にんまりと微笑みを返す。
「今度、家に連れてきなさい」
あの……もとはといえば、あんたが探して家に来てもらった人なんだけど。
また、和美さんから連絡こないだろうか。
僕はマナーモードを解除したスマホを枕元に置き、待ち受けることにした。
そして深夜。
うとうととまどろみ、夢の世界に浸りはじめた頃、耳元で着信音が激しく鳴って、消灯した自分の部屋という現実に呼び戻された。
暗闇の中、跳ね起きる思いでスマホを手に取り、通話の操作。
「はい」
「……もしもし……あたし」
その声を聞いた僕は耳を疑った。絶対にかかってくるはずのない相手からだ。
「ほんとに、きみなの?」
声の感じは、とくにこちらに親しみは示さないが、それでも切実に何かを告げたいという風だった(まるで幽霊みたいだ)。いや、幽霊じゃないとはっきりわかるのは、以前にも話し合ったことがある少女の特徴的な語りかけだったからだ。
「そう……あたし」
たまげた。ほんとうに黒石御影からだ。
( 続く )




