急にドラマのオーディションに参加させられた件
「でさ、ほんとに謎なんだけど…なぜ俺もオーディションに…?」
俺は目の前にそびえ立つ高いビルを見上げた。突然港区に連れてこられたと思ったらこれである。
「このオーディション自体が事務所から声がかかって受けれるものなんだよ。多分俺がアイドルデビューするのに合わせてドラマに起用したいんだと思う」
「なるほどね。…なんで俺も?」
「昨日プロデューサーから烈も連れて来いって連絡入ったんだよ」
全然オーディション用の台本とかもらってないし、なんなら俳優の練習もしてないけど大丈夫だろうか。いきなりオーディションしますとか言われないよな?
「ほら、突っ立ってないで行くよ」
年下に手を引っ張られる恥ずかしい状況である。
「ドラマのオーディションやったことないんだけど、えっどうしよう」
「別にやるって決まったわけじゃないでしょ。俺の保護者かも」
「もっと意味分かんないんだけど」
疑心暗鬼の状態で古内に先導されながらビルの中をどんどん突き進む。
「ここだ」
古内が若干手を震えさせながら扉を開けるとそこには2人、審査員が座っていた。
「えっ…!矢田川さん!」
黒い髪の下に銀色のピアスを光らせた三白眼の男がチラリとこちらを見る。矢田川樹、俺がインディーズ期に所属していたグループの一つ「Run in to」で一緒に活動したことのある先輩だ。
まぁその「Run in to」は俺ともう2人を抜いてのメジャーデビューになったんだけど。
「久しぶりだね〜灰島。けど今日は候補生でしょ?ここでは審査員として僕に接してね〜」
「は、はい…!」
ん?待て。今なんて言った?候補生?
「すみません。1つお聞きしてもよいでしょうか?」
「古内くんだね。どうぞ。といっても灰島烈がなんでいるかでしょ?」
矢田川さんの言葉に古内が静かに頷いた。
それもそうだろう。突然オーディションに連れてこられた俺も困惑だが、古内もオーディションを受けないはずの俺が参加することになって困惑してるはずだ。
しかも俳優志望でかなりオーディションにかける思いはあるだろうに、こんな練習もしてない奴がオーディションを受けるとか多分内心ブチギレてるんじゃないだろうか。
「それについては私が言おうかな。」
少し小太りの眼鏡をかけた審査員の一人が口を開いた。
「このドラマの監督を務める日形だ。よろしくね。」
「はっはい。古内行人です。よろしくお願いします!」
「今日灰島君も来てもらったのは古内君がが灰島君とアイドルとしてやっていけるかも審査するからなんだよね」
「えっ…?」
古内が本当に困惑した声を出した。俺も分からない。何も聞いてないからね。
「日形監督〜。それじゃあ2人とも分からないと思いますよ」
「あはは、まぁそうだよね。僕がよく原作のあるBLドラマの監督をやらせてもらってるのは知ってるかな?」
「は、はい存じております。前作のストリップのストーリーと演出が大好きです」
ヤバい、どうしよう。俺見てない。これ俺にも聞いてるのかな。
焦ってすごい瞬きをしてたら矢田川さんと目があった。矢田川さんが察したように笑ってくれる。誠に申し訳ないです。
「そこでよく君たちの事務所のハッピークラスター所属のアイドルから演者を起用することが多いんだよね。しかも主演には新人アイドルを起用することが多い」
「知っています。今回もそうですよね」
「そうだね。で、今回の役はアイドル役!君は今までアイドル経験ないでしょ、演技と同時にアイドルできそうかも僕の意見が欲しいらしいんだ」
「なるほど。それで烈…灰島烈が一緒なのは?」
「本来はここにいる矢田川君が主演の先輩アイドルを演じるんだけど今日限りで古内君がその役をやることにしたんだ。そしたら君たちがどんな2人組のアイドルになるか見えてくるかなと思って」
すごい。いきなりすぎる。無茶苦茶すぎる。流石芸能界…なのか?
「すみません、でもあくまで僕は役を演じるんですよね?それで僕たちの感じが分かるんでしょうか…」
「まぁものは試しだよね!それと、渡してた台本は3行だったと思うけどアドリブで続けていいからね。私が適度なところで止めるから」
え、これ俺もアドリブしろってことだよね。てか俺そもそも1行も台本ないんだけど。
「分かりました。やります。」
あっ…これここで断れないやつだ。空気読めない奴になる。てかここで拒否権ないわ。
向こうで矢田川さんがずっとニコニコしてるのが余計に怖い。
よくよく考えたら俺矢田川さんが演じる役を勘でやるんだよな。やばくね?
「どうぞ」
「古内行人です!よろしくお願いします!」
あ、これ始まる感じだ。
「は、灰島烈です!よろしくお願いします!」
これどっちから話すんだ!?普通は古内が3行続けてオーディションするけどこれもはやエチュードだよな!?
一歩古内が俺に詰め寄りそっと耳打ちした。
「合わせるからてきとうに喋っていいよ。迷ったら「どうしよう」って喋って」
コイツ頼りになりすぎる。
「どうしよう」
「あっ!れつ〜〜♡♡困りごと〜?俺に頼って大丈夫だよ♡」
「えっえっえ」
そうだった。古内の演じる役ってこんな感じだった…!ヤバい!可愛い!!
「れつ?もうっ!もしかして俺に言えないこと?」
「あ、いや…えっと…」
なんかセリフ言わないと、なんかあるかな。あっ
「2番のサビのフリ分かんなくてさ」
一瞬、古内の目元が柔らかくなった気がした。
「またぁ〜?いいよ♡俺が教えたげるね♡」
古内の手がそっと俺の腰に回る。
「ここに重心置いたまま、右足前に出して♡で、こう♡ねっ?そしたら首のアイソレ入れて」
ふわふわと甘い砂糖菓子のような声が耳を突き抜ける。元々天使のような可愛らしい顔立ちが余計に可愛い。
「なぁ古内」
「ん?なぁに?烈♡」
「可愛いね」
あ。待ってやば、これ今オーディションの途中だ。
古内が目を見開いて俺を見上げた。けどすぐに目を細めて
「ほんと?俺のこと可愛いって思ってくれてるの?嬉しい♡」
あぁ、多分これ演技だ。
分かってる。古内のこの喋り方も雰囲気もきっと演技で、オーディションの為に作ったものだ。
分かってるのに、なんでこんなに本気にしちゃうんだろう。
もう少しこのままでいてほしいって思ってしまう。
まぁオーディションの途中だから隠すけど。
「烈さぁ…」
俺の髪をさらっと耳にかけ、審査員に聞こえない大きさで呟いた。
これ怒られるやつか…?!
目の前の男はマリン色をした目を少し細めて言った。
「もしかして俺の、この喋り方本気で好き?」
「はっ……え…」
「…ふふ、うそ♡冗談だよっ」
冗談じゃなかったらどうすればいいって聞いたらなんて返ってくるんだろう。本気でその演技が好きだと言ったらどれくらい困らせてしまうんだろう。
古内行人は俺の考えを読み取ったように、やんわりと微笑んだ。
「安心して♡この役終わってもアイドルでいるうちは、ずっと"俺"だから」
アイドルという魔法が解けてしまったらその人格は消えてなくなるんだろうか。幻みたいになかったことになるんだろうか。
「ふるっ」
「カット、終わっていいよ!」
呼びかけた途中で監督から終了の合図が入った。
「うん、なんとなく分かったよ君たちの感じ。それと…古内君、君演技上手いね」
「ありがとうございます」
すっと古内が離れていく。もうその表情にさっきの甘さは入っていない。
全部演技。不整脈を落ち着けるようにその呪文を唱えた。
「ふぅん?面白いね。良い演技だったと思うよ古内」
「ありがとうございます」
矢田川さんは普段からへらっとした感じなのに今の表情は真面目な重い雰囲気を持っている。すごいな、俳優って。普段とこんな違う雰囲気が出せるんだ。
「よし、じゃあ今日のとこは一旦終わろうかな。灰島君も突然の協力ありがとうね」
「いえ…こちらこそ演技という演技ができなくてすみません!」
「突然だしね!でも君も途中良い表情してたよ。縁があったら僕の作品に参加してもらうかも」
醜態を晒した記憶しかない。お世辞かな。演技が褒めれないから表情をフォローしたのかな。
「ありがとうございます。是非よろしくお願いします」
でもとりあえずこう言っとこう。場を無難に乗り過ごすのが大事。
「本日はありがとうございました。失礼します」
「ありがとうございました!失礼します!」
古内の挨拶につられて慌てて挨拶をし、帰ろうとしたその時後ろから声がかかった。
「烈、お前はちょっと残ってね〜。あ、オーディション絡みじゃないから古内は帰っていいよ〜」
振り返ると矢田川さんがひらひらと手を振っている。俺は古内に目配せをして先に帰っていいよと合図した。
「場所移動しようか、烈」
そういえば呼び方が灰島から烈に戻ってる。公式の場だからさっき灰島呼びしてたんだ。
「よし、ここでいいかな。誰もいないし」
人気のない廊下で足を止めた。下から見るその表情はより何を考えているのか分からない。
「聞きたいんだけどさ。さっき烈は演技してないよね?」
矢田川さんの落ち着いた声はいつもより冷たく聞こえた。
是非1話目もよろしくお願いします!
できるだけ頻繁に投稿していくつもりです!
(後から少し文章を修正する可能性がございます。ご了承ください。)




