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相方になった男は演技が上手い

「れーつ♡こっち向いてっ?」


 俺は本当に困っている。目の前の偶像に恋をしてしまったからだ。


時を遡り3年前_____

「本当ですか!近藤さん!ついにメジャーデビューさせてくれるって!」

 

 灰島烈、24歳。アイドル志望。俺は机から勢いよく身を乗り出した。もういても立ってもいられない。何故なら俺は中学生の頃からアイドルの研修生を続け、その後グループを転々とし続けるプレデビュー期を過ごしていたからだ。どこのグループに行っても「なんか違うな」とプロデューサーに言われ続けこのままだと一生メジャーデビューできないんじゃないかと思う日々が8年続いた。


「あっそういえば俺はどこのグループでメジャーデビューするんですか?」

「それなんだけど、古内入れ」


 プロデューサーの視線の先を追うとそこにはクリーム色の髪にマリアブルーの瞳をした可愛らしい顔立ちの男がいた。自分より2.3歳くらい下だろうか。


「こっこれから宜しくお願いします!俺ほんとメジャーデビューが夢で「お前とは会社に組まされたから組むだけだ。俺は元々アイドルはやるつもりじゃなかった」


 被された。しかもすごく不機嫌に。

「え……」

「チッメジャーデビューだなんだか知らないが俺の夢はドームツアーでも武道館でもない、俳優だ」


 誰が天使のような顔をした男からこんな言葉が飛び出ると予想しただろうか。いや、外見からの偏見は良くないのだが。それにしたって印象最悪すぎる。


「近藤さん、えっと…」


 俺は助けを求めるようにプロデューサーを見たが、プロデューサーは笑っているだけだった。


「ははっその子は古内行人、21歳。俳優志望だ」


 いや、いやいやいや。


「あの、俺たちこれからアイドルやるんですよね?俳優やりたいにしたってもう少しアイドルやる気ある子がいいんですが…」

「まぁでも古内は踊れるし歌えるし大丈夫でしょ」


 そういう問題じゃない。やる気だけあっても実力がなければ、とはよく言うが実力があるだけでやる気がないのも問題だろう。


「というか他のメンバーは?既存グループに混ざるんじゃなくて新しくグループを作るってことですよね」

「もうメンバー紹介は終わったぞ」

「…は?」

「デュオでやってもらう。お前と古内で」

 

 机と椅子だけの簡素な部屋に沈黙が落ちた。1秒、2秒。


「はぁぁああ!!?」


 最初に言おう。

 出会いは最悪、アイツの口は悪いし、態度も悪い。おまけにやる気もなくてコイツと2人でアイドルなんてできるのかよ。そう、思っていた。 



「古内、デビュー曲のフリ合わせたいんだけど…」


 かなりの気まずさと苛つきを含んだ関係は全く改善されないまま2週間が過ぎた。しかし俺も新しく分かったことがある。


「どこ?2番?サビのとこ踊りきれてないもんなお前」

 

 意外とこの男アイドルの練習はしっかりやるし、協調性もある。ただの我儘な世間知らずの坊っちゃんではないらしい。


「その意外〜って顔やめてくんない?毎回されるとウザいんだけど」

「あんなにやる気のなさを醸し出してたのに」


 目の前にクリーム色の金髪が揺れる。見た目だけ見ればまさに絵本から飛び出してきた王子のようである。


「俺がやる気ないのと手を抜くのは別。実力ないって思われるの嫌だし、関わってくれる人達に失礼だろ」

 

 コイツの性格は協調性のある負けず嫌いであった。本当に意外だ。


「なぁ、そこまで悪い奴じゃないのになんで最初会った時に俺の話の途中で被せてきたんだよ」

「同じ夢だと思われたら迷惑だろ」


 前言撤回かもしれない。普通に口が悪い。


「…俳優目指してるんだっけ?その紙もオーディションのセリフ?」


 俺は机の上に置かれた、おびただしい量の文字が書かれているプリントを指した。俳優をやりたいという気持ちは多分本気なんだろう。


「あぁ、セリフが3行しかない分少ししか見てもらえねぇから工夫しないと」

「何の役?」

「BLの実写ドラマの後輩役、オーディションのオファーが来たんだよ」

「BL?」

「あぁ、普通のドラマより若手が起用されやすいんだ」

「へぇ」


 俺は間の抜けた相槌を打った。芸能界については色々勉強してきたがまだドラマや映画の世界についてはよく分かっていないからだ。


「ごめん。あんまよく分かんないけど頑張って」

「…は」


 一瞬沈黙が生まれた。一応芸能界に長年いるのにそんなことも分からないのか、的な呆れだろうか?

 古内行人は数回瞬きを繰り返すとやがて怪訝な顔をした。


「アイドルデビューする大事な時期なのに怒らねぇのかよ」


 呆れじゃなかったらしい、良かった。


「それが夢なんだろ?あとお前が俳優で売れたらグループの知名度上がるじゃん。頑張って」


 また沈黙が落ちた。地雷が分からない。怒らせたらまた暴言飛んできそうだな…。


「…あのさ」


 少し間を置いて古内が口を開いた。俺はその出だしに肩をこわばらせた。


「オーディションのセリフちょっと聞いてくれない?」

「ん?オーディション?」


 全然怒られなかった。最初の印象に引っ張られるけど意外と喧嘩腰じゃないのかもしれない。


「いいけど俺的確なアドバイスとか感想言えないよ」

「いーよ、素人目線大事だし」


 バッサリ素人って言ったな。いや素人だけども。

 古内はすうっと空気を吸って吐いた。そして次の瞬間人が変わった。


「せ〜ん〜ぱぁいっ♡今日もカッコいいですね♡」


「ェ」

 古内のダウナー系の低い声が甘ったるい砂糖菓子のような声に変わった。表情もいつもの仏頂面じゃなくなっている。可愛い。顔面を適性の方向に使うとかなり凶器になる。


「へへぇ…♡どうしたの先輩?急に褒めたりなんかして」

 

 すごい。照れが一切なく繰り広げられる。まるで別人だ。

 古内が一歩こちらに詰めた。手を少し伸ばせば触れられる距離。


「あのね、だいすき」


 胸のところで満面の笑みを浮かべる古内がいた。ふんわりと花の匂いが香る。

 見に覚えのない心臓のざわめきと、耳裏が急激に熱くなるのを感じた。

 脳震盪が起きたように頭がくらくらする。

 

「どう?」


 声はいつもの古内に戻っていた。しかし先程の声が頭から離れない。


「…おい、聞いてる?」


 心臓がうるさい。脈が早い。顔中に熱がこもる。


「アイドルみたい」

「は?え、いやドラマの役やってんだけど」

「あれだ…えーと、可愛い?」

「ハァ!?つかなんで疑問形」

「男に使ったことないから言葉が合ってるか分からくなって」

「なにそれ褒め言葉?」

 

 目の前の男はクリーム色の金髪を揺らし、意味が分からないといった困惑の表情を浮かべた。


「もっとちゃんとした感想あるだろ」

「ない。でもオーディション受かると思う。」

「根拠なさすぎるだろ」


 下からハァと1つ大きなため息が聞こえる。


「てかアイドルみたいって言ったよな。これでアイドルしようかな」

「ェ!!」

「どっから声出てんだよ。アイドルやるなら愛想よくとあるだろ。俺見た目的にはこういう感じだろうし」


 いやそれはその通りなんだけども。実際にそれをやられると困る。俺の調子が狂うかもしれない。


「やめよう。死人が出る」

「でねーよ」


 すごい呆れたような声が返ってきた。地声がダウナー系の低音な分余計に呆れられてる感がある。


 地でいるときは別になんとも思わないのに役に入った途端なんであんなにも心がざわつくんだろう。


 

「やるからにはちゃんとアイドルしたいし」

「でもボロが出るかも」

「大丈夫、俺演技上手いから」


 古内は地味にイラッとくる傲慢な笑みを浮かべたが本当に演技が上手いのでなんとも言えない。


「オーディションいつなの?」

「明後日」

「あさってぇ!?!」

 

 うるせぇよという言葉が聞こえてくるような表情をされた。すごい、本当に表情の使い方が上手い。

 新曲の歌の収録が2週間後でミュージックビデオの撮影が来月だから全然オーディションの方が早いな。


「じゃあ曲のフリ今日は合わせなくていいよ」

「何言ってんの?やるから」

「いやでも明後日だしさ」

「いいって言ってんのに」


 古内が不満そうな声を出した。あんなに俳優業にしか興味ありませんな感じだったのになんでだ。


「ねぇ古内、お前演技上手いのになんでアイドルやろうと思ったの」


「…事務所の後ろ盾がないとろくにオーディション受けれねぇし、受けても落とされるんだよ。そんな時にここの事務所からアイドルやるなら事務所に所属させてくれるって言われたんだ。ほら、大手だろ?ここの事務所って」

「まぁ実績ないアイドルがいきなりメジャーデビューさせてもらえるくらいだしね」

「だからアイドルとしてもちゃんと結果出さないとなんだよ」


 その言葉は責任感から来てるのか、それとも焦りから来てるのか。事務所をそのうちクビにされるんじゃないかと思っていたからその気持ちは分かる。


「頑張れ」

「止めないんだ」

「やるだけやろう。ギリ倒れない程度に」

「ははっお前ヤバすぎ」

「お互い今が一番頑張り時でしょ」

「それは同感。…あ」

「何?」

「1個アドリブ思いついた」

「え、なに?オーディション?」


 言い切る前に両肩を押され、そのまま壁に押し付けられた。かの壁ドン。

「えっ」

「一緒に頑張ってくれてありがとう、烈♡」 


 またあの演技の声と表情。しかしその言葉は嘘に聞こえなかった。

 この男のことがまだよく分からない。


「それアドリブじゃなくてお前の言葉を代弁させてるだけだろ」

「えっへへ♡気づいたぁ?」

「もーーう…マジでさぁ…やめろ調子狂うから!」

「は?何が?」

「何がじゃねぇよ!!」 

 

 俺がこの男の表向きのキャラクターを好きになるのはもう少しだけ先の話。そう、このオーディションがあったドラマが原因である。

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