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新たな世界を君と。  作者: かっつん
第一章『もう一つの光』
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第一章 3『出会いと困惑と事件』

 数刻前、ミナトが決意の一歩を踏み出した。

 そうして、ロマノフに案内された方角とは逆、西側の街道に向かった。

 ロマノフは竜車の中で、ミナトにこの国の地図を渡していた。言葉が通じたことから文字はどうなのだろうかと思っていたが、杞憂だったようで問題なく日本語になっていた。

 認識的に日本語と言っているものの、その下にはこの世界の共通言語が書かれているのだろう。


 先程ミナトが向かった東側は、商いをしている店が多く、商業が盛んであった。

 西側でも商業自体は多く行われているが、相違点があるとするなら、東では農作物や衣服など、日常生活に使えるものが多かったのに対して、西では武装するための防具や武具、行商人が停泊するための宿が多かった。


「それにしても、こっちゴツイ人ばっかだな」


 宿を行き来する人はあまり見られず、その代わり体躯の良い人が武装具店に出入りする。


「ロマノフのやつ、ご丁寧に宿まで紹介してくれたってのに、ビビってちゃあいけねえよな」


 ミナトの目的地はこの街道を少し歩いたところにある宿泊施設、『ゴンデル』だ。

 ここはロマノフの友人が経営してる宿らしく、安全面ではこの国内でも類を見ないほどらしい。

「ロマノフからの紹介で来た」と言えば、金額は賄ってくれると言っていたから、一文無しの状態のミナトにとってこの上なく嬉しい提案である。


 ミナトが決意の一歩を踏み出したのは、必ず戻ってやるという強い意志があったからであり、痛いのは嫌だし出来るだけ避けたい。そんな思いとは裏腹にゴツイ体躯の人ばかりのこの街道を見た時慌てふためいた。

 性根はそう簡単には変わらないものだ。仕方がないだろう。


「でもなー、殴られたくねぇし。怖いんだよなぁ、こんな時にロマノフがいれば……じゃなくて、一人で行くって決めたんだから、頼ってばっかじゃいられねぇ!」

 

 そう自分を叱咤し、両手で自身の頬を叩く。

 これでようやく迷いが晴れた。早速ここに足を踏み入れて――


「やっぱ無理だ! 怖ぇーよこんなとこ!」


 無理だった。一人でこんな所歩けるわけがない。

 こんな異端な見た目をしているミナトはチンピラ共に絡まれ殴られ刺されで命を落として終わりだ。

 そんな可能性を少しでも感じているから、ミナトは足を踏み出せない。


 そうしてうだうだと悩んでいる間にも人間は変わらずその道に入っていく。すれ違う度に睨まれ、時にぶつかられる。

 入っていないのにこれとは、酷いものだ。益々入りにくい。


「あ〜、せっかく勇気出して一人で来たのにこれなんて、酷い話だぜ。俺を呼んでくれた神様よ」


 ぐずぐずしている間にも時間は一刻と過ぎていく。今のミナトにとって、住所の確保は急務である。

 拠点作り、というのもあるが、何より安息が欲しかった。決して襲われない場所で安全に休める場所を。

 その点、ゴンデルは素晴らしい。ロマノフ曰くの話になるが、安全性という面においては右に出るものはない。


「これじゃあ、ロマノフにも顔向けできねえよ……」


 罪悪感を覚えつつもやはり脚はガクガク震えて動かない。行かなくてはならないことはわかっているが、そうする為の勇気が足りない。

 一人ではやはり安心などできないのだろう。


 ――ドン


 考え込んでいる内にどんどんと人混みは多くなり、ミナトにぶつかる人間も増えていく。

 邪魔、退けよ、鬱陶しい。そんな蔑むような疎んじるような目線がミナトに集中し、メンタルが擦り切れていく。

 当たり前だ。街道ど真ん中、ただ一人で突っ立ってる輩なぞどんな場所でも邪魔に決まってる。

 確かにミナトが悪い。これは自分でもわかっている。

 しかし、誰からも求められず、助けもない。そんな状況はミナトの人生で一度もなかった……はず。

 そんな状況は今のミナトには辛すぎるし重すぎる。


「やっぱ俺ってこの世界じゃあ誰の目にも映らねえただのモブなんだよな」


 ミナトはごく普通の一般人であり、辛いことがあれば涙も出る。

 今は辛いし苦しいし、胸から込み上げるモノが溢れ出てくる。

 そんな時だった。周りの声が一斉に止み、雑踏の音すらも消え失せた。

 聞こえるのは高らかに響く足音だけ。その足音はミナトにどんどんと近づき、やがて背後で止まった。

 

 そしてその人物はミナトの肩を叩き、口を開いた。


「――あなた、どうしたの?」


 柔らかな強かな少女の声がミナトの耳に突き刺さった。


 ◆◆◆


 ミナトは少女に連れられ、街道の中で特に人気の少ない店、宝物庫の前に訪れていた。

 ここは街道の入口から三分ほど走った所にあり、ゴンデルより近い場所にある。


「……ま、待て待ってくれ!」


「……?」


 ミナトはいきなり顔も見せず連れてこられたことに困惑し、声を荒らげた。

 怒っている訳ではなく、ただの困惑によるものから出た声である。

 しかしその命令に少女は疑問そうな顔を向けながら、こちらに振り向いた

 初めて見るその顔はあまりにも美しく可憐で、見るだけで目が保養される。その長い金色の髪を靡かせて、こちらの感情を見透かさんとする淡緑の瞳も相まってまるで天使かと思わせる。


「い、いや、いきなり連れてこられてこっちも困惑してんだ。理由ぐらい、言ってくれ」


 その純粋な瞳に射抜かれ、ミナトは思わず口篭った。

 淀みながら出た言葉は耳を澄ましても聞こえるか怪しかったが、少女にその言葉は届いていた。


「――あなたが、苦しそうに見えたから」


「――」


 その答えにミナトは言葉が出なかった。どんなお人好しだ。ただ立ち尽くしている一人の男を連れ出して、そんな理由だけで話を聞こうとしていたとは。

 その瞳に嘘はない。あるのは慈悲と温情だけ。ミナトはその目に射抜かれたのだ。


「ここで立ち話もなんだし、中に入りましょう? 人気もないし、話しやすいと思うわ」


 そう言って少女はドアを開けると、そこにはこれまたゴツイ体躯をした人間がいた。

 体長は、座っているからわからないが、見たところ二メートルは超えているだろう。

 年によるものではないであろう白色の髪と、侍が着る(かみしも)と呼ばれる衣装を羽織り、二本の刀を腰に携えている。

 その風格はロマノフと同等かもしくはそれ以上のものを纏っていた。


「ごめんね、約束もなしに急に来ちゃって」

 

「おうアーシュ、それは大丈夫だが、一体なんの用で、そいつァ誰だ?」


「アーシュ……」


 その男は少女――アーシュにそう投げかけ、ミナトに怪訝な目を向けていた。

 サラッと告げられた少女の名前に、ミナトは暫し瞠目したまま、瞳を閉じなかった。


「この子は――って、私としたことが挨拶もしてなかったわね。私の名前はアーシュよ。あなたの名前は?」


 アーシュの口からその名を聞き、ミナトの心のモヤは消えてなくなる。

 そして同時に、アーシュの口から名前を聞かれ、頬を緩ませて自分の名を口にする。


「俺の名前はカサイ・ミナトだ。自己紹介するほどなんの特徴もない、ただの平凡な男の子だよ」


 ミナトは自身のことを自嘲気味に、しかし真剣にそう紹介する。


「ミナトか! 俺ぁグルトルだ! ……で、なんの用でこんな辺鄙な倉にやってきたんだ?」


「俺だって、急に連れてこられて困ってんだ。なんの用かって言われても、なんもわかんねえし」


「……? なんだ、お前が口説いたわけじゃあねえのか」


 グルトルはなにを勘違いしているのか。逆にこんな美貌を持っているアーシュのことを口説き落とせる人間は世界にいるのだろうか。

 いるとすればロマノフくらいなのではないか。いや、彼ですらも無理だろう。


「俺にはそんなメンタル持ってねえし、アーシュ……さんと張り合えるほどの美貌も持っちゃいねえよ。わかるだろ」


 思わずアーシュに敬称をつけて呼んでしまったが、その身に纏う白を基調とした衣装には、位の高さが感じられ、彼女の高位を証明していた。

 

「呼び捨てでいいわ。それに、話すなら敬語もいらない。歳もそんなに変わらないと思うし」


 確かにアーシュは、見た目だけで判断するなら十代半ばに見える。

 ただ、ここが異世界であることを忘れてはいけない。異世界というのは、不合理や不条理が多く、騙されてしまうことも多い。


「私は今年で十八だけど、あなたは?」


「ほぼ一緒だよ。今年で十七だ」


 まさかこんなにも歳が近かったとは。そのことに驚きつつも、親近感が湧き、嬉しくなる。

 ロマノフは今年で二十歳と言っていた。

 初対面からタメ口を使っていたので少し驚いたが、ロマノフはそれを許してくれた。

 それに、グルトルも一見だが四十を過ぎているように見える。

 その中で一個違いのアーシュがいるだけで、一人じゃないという感じがして頬が緩む。


「仲良くするのは構わんが、アーシュ、なんの用でここに来てくれたか分からんと、席の用意もできんぞ」


「わかってるわよ。ただ――」


 アーシュの言葉が紡がれるよりも先に、倉の入口が蹴破られ、光が注ぎ込んだ。


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