表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新たな世界を君と。  作者: かっつん
第一章『もう一つの光』
PR
3/9

第一章 2『覚めない夢と醒めない現実』

 ――痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


 この世界は夢でもなんでもない。そう理解したのは、奇しくも自分の愚かさが原因だった。

 燃えるような痛みが、決して無くならない後悔が、認識を否定したがる抵抗が、この腕と、脚の傷に詰まっている。


 その痛みはとても日本で感じられるようなものではない。少なくとも、普通の暮らしを送っていれば間違いなく訪れることの無い痛みだろう。


 ――戻ってやるとあそこまで覚悟したのに。


「……ぁなた! 死んじゃダメ!」


 少女の怒声が耳を貫いた時、ミナトは深い眠りに落ちた。


 ◆◆◆


 ロマノフは鞘に収まっている剣の柄を握りしめ、相対する犯罪者に敵意を向けていた。

 対する犯罪者も短剣をこちらに向け、殺意を剥き出しにして、竜車の停止を催促した。

 ミナトにとって、この世界初めてのトラブル発生だ。


 その中、周りの人間はなんだなんだとヤジを飛ばすように無法者と、それに対峙するロマノフを見つめていた。


「何が目的だ。俺を新鋭団と分かっての挑発か? そうだとしたなら、なんとも舐められたものだな」


 ロマノフの目は真剣だ。ミナトと共に過ごした約二時間も、彼にとっては大事な職務の真っ只中であった。

 

 新鋭団はミナトの故郷における警察のようなものであり、この国の規律、秩序を守るために設立された組織だ。

 その中でも偉い立場にいるロマノフは国の中でも知名度があることは間違いない。

 そんなロマノフに宣戦布告を吹っかけた男は身の程知らずにも程がある、と誰もが思っていた。


「わかってるわ、んなもん。だからしてんだよ、てめぇが邪魔なんだ」


「俺が邪魔? それはおかしいだろう。お前は今、この俺に牙を剥き、その剣を突き出している。それだけでお前は立派な、背徳者だ。それを俺は決して許さない」


 自らを邪魔者と呼ばれ、ロマノフは怒りを抱いた。

 ロマノフは何よりも悪が嫌いだ。特にこういう、自身の非を認めようとしない人間がなによりも。


 ロマノフの声に含まれるのは純粋な怒りだけだった。


「目的を言え。さもなくば少々痛い目を見てもらうぞ」


「あぁ゙〜、それだけは勘弁だな。なんせ、まだ死ぬわけにはいかねえんだ。目的を言うのも、勘弁だぜ」


 男はそう言って、ロマノフの方へ――ではなく、ミナトに向かってナイフを投げつけた。

 そのナイフはミナトの体を貫こうとする。

 夢であるとは言え、ナイフを刺されることには恐怖心を覚えるし、動くことも逃げることも出来ない自身の小心ぶりに嫌気が差す。


 ――死ぬ。


 夢のはずなのに、ミナトは直感的にそう思っていた。

 死への恐怖が増大し、心拍数を上昇させる。目の前のナイフを拒否するようにミナトの心臓はドクドクと、早く、きつく脈を打つ。

 

「……なんだよ、夢なら早く覚めろよ!」


 気づけば、そう怒鳴っていた。

 目の前の恐怖から逃れられない自分を叱咤するものなのか、はたまた危険から逃げたいという欲の現れなのか。

 ミナトは、あまりにも覚めることの無い夢が恐ろしく、とある推測がふと、頭に浮かんだ。


 ――それはおかしいだろう。


 それしかない。夢なら覚めるはずだ。恐怖などちっぽけな感情のはずだ。

 ミナトは怖かったのだ。その事実に辿り着いてしまうことが。

 本当はわかっていた。素直に思い出せる記憶、体内でわかる時間、そして――消えることの無い恐怖の感情。


 そう考えれば考えるほど、足はさらに震えてついに――。


「ミナト!」


 その声が聞こえたのは目の前の短剣が白刃によって弾かれたのと同刻だった。

 ロマノフはミナトの名を声を大にして叫ぶと同時に、その剣の鎬地で短剣を正確に弾き返した。


 死への恐怖は、一時的に和らいだが、次は目の前の犯罪者への恐怖が募り上げる。

 何もしていない俺を何故狙うんだと、ミナトはそう思っていた。


「お前、自分で何したのか分かっているのか!」


「分かってるぜ? お前を殺すための準備段階ってことはな」


「――」


「そもそも、お前を殺そうとしているのは今の話じゃあない。お前の強さを認識したかっただけだ。その男を護った時の剣の裁きを見て、もう大体わかった。それだけだ」


 怒り心頭のロマノフが問いかけた質問は、答えになっていない答えとして返ってくる。

 その答えに、ロマノフも口を開かず、覚悟を決めた眼差しで白剣をただ静かに、男へと向けていた。


「俺も傷つくのだけは勘弁なんだ。目的はもう大体済んだし、俺はずらかるぜ」


 


 男はそう言い放ち、腰に掛けていた四本のナイフを竜車に向かって(ほう)って、空を蹴りながら民衆の中へと飛び込んだ。

 ロマノフはその四本が此方に到達するより先に飛び出し、全て叩き落とす。

 そうして――。


「待っていろ! 俺の名誉と国の威信にかけて、お前を必ず牢に捕らえてやる! いつでも殺しに来い、返り討ちにしてやる!」


 ロマノフは度が過ぎるほど怒っていた。その目にはミナトが知りえない憎悪か、あるいは心に決めた殺意が宿っていた。

 相手の見えない民衆に向かって、ただロマノフの怒鳴り声だけが響いていた。


 ◆◆◆


「――さっきはありがとう。本当に助かった」


「いや、困った時はお互い様だ。本当に無事で良かった」


 ミナトはロマノフに対し頭を下げていた。それは先程の死にかけた状況を助けてもらったことに対してだった。

 ロマノフも、その職務上慣れているのか柔らかな笑みで言葉を返してくる。


 ミナトが先刻の出来事でついに理解したことがある。

 それは――。


「これは夢なんかじゃねぇ。リアルだ」


「? ミナト? どうかしたか?」


「こっちの話だから、気にすんな」


 ミナトの達した結論は、この世界の存在が夢ではないことだった。

 鮮明にしっかりと思い出す、ここに来る直前の動きを。

 そのときから夢なはずはない。朝は予定時間の一時間前に起きて、ギリギリになりながらも駅に着き、スマホの充電が無いことがわかり落胆し、好奇心で目的とは違う方の出口へと走っていった。

 この時点で自分の愚かさがよくわかるが、置いといて。

 

 夢の中で恐怖心を感じるのは、暮らしの中でストレスや疲労が溜まるから、という話を聞いたことがある。

 生憎、ミナトは友達との友好関係は良いし、運動のしすぎで疲れが溜まることも少ない。

 この話が本当なのかは分からないが、感じてしまった以上、現実であることを受け入れるべきだ。


「この世界が現実ってんなら、どうしてこんなとこが……」

 なぜこの世界に出てきたのだろうか。それさえ分かれば、きっと元の地球に戻ることも可能になる。


「どうにかして戻る方法を探さねーと」


 ミナトがこの世界に来て初めて決めた目標は戻る方法を探すこと。

 このまま異世界でのんびり、悠長に過ごすのも良いが、先程の一件でそれが出来ない可能性を見出した。だからミナトは戻るのだ。元いた平和な地球へと。

 そう、静かに覚悟を決め、拳を握りしめた。


 ◆◆◆


「それじゃあ、俺はこれから城に戻る。一緒にいてやれるのもここまでだ」


「あぁ、本当にいろいろとありがとう。また会ったらよろしく頼むよ」

 

 ロマノフは、ミナトを一番最初、二人が出会った場所に戻り、竜車から降ろした。

 

 これからロマノフは国の政治を行う人の警備をしに城へ戻るらしく、同行はここで終わりになる。

 つまり、ミナトは正真正銘一人でこの世界を生き抜かなければならない。それは難しいことではあるが、戻るためにはそうする他ない。

 

「約束しよう。何か困れば俺の名を呼べ。俺は耳がいいからな、どこへでも駆けつけよう」


「どんなとこでも駆けつけられたら怖いもんだな」


 ロマノフはそう冗談を言い、それを返すミナトに笑みが浮かぶ。

 寂しい気持ちはある。着いてきて欲しい気持ちもある。だが、ロマノフに頼ってばかりじゃいられない。この世界を生き抜くにはロマノフ以外の人間とも関係を持たなくては。


「じゃあ、俺はもう行くよ。どうか、無事に過ごしてくれ」


「あぁ! じゃあな」


 最後の会話を交し、ロマノフは竜の手綱を引いて、公道を駆け抜けて行った。


「これから、一人だ。それでも、生き抜いてやる」


 不安はある。恐怖も、心配も、それでも戻るとそう決意した。上手くは行かない、きっと、ミナトが出てきた出口だってもう存在しない。

 自身の怯懦(きょうだ)な精神に打ち勝ち、生き抜いて、戻ってみせる。


 強い決意を拳に宿し、確実に一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ