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blood 血の誓い  作者: さくらもち
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勘違い

「君に…幻覚が効かないのが残念だよ」


了は、透に任せ出来るだけ遠くまで、百合香を誘導し、飛んでくる銃弾を剣で弾けば、君の愛しい人をみたかったと、残念そうに呟く百合香は、自分と同じ赤い瞳を向けた


「それは、残念だネ」


彼女が見せる幻覚は自分が愛する者。

それに加えて百合香は、人の好いている相手を覗き見て、楽しんでいる。悪趣味だ。



こっちに向けて何度も放たれる銃弾を弾き、彼女の元まで近づくと、地面を蹴り上げ高く飛び上がると彼女の背後へ、綺麗に着地し百合香の首筋、背中へ勢いよく刃を突きつけた。


「僕が剣を振るったら、君は出血多量で死んじゃうけど、どうする?降参する?」



彼女の後ろ姿しか見えない為、彼女が今、どんな表情をしているのかは分からない。


肩を震わし百合香は小さく震えたかと思うと、突然、笑い出したのだ

この状態の、何が、そんなに面白いのか全く理解できずにいれば、かちゃりと音がし、首を傾げると、こちらへ向けた銃口



「それは…こっちのセリフなんだけど」



既に、動きを読んでいた百合香の行動に、一瞬驚いたが、小さく息を吐き頭を捻った


構わず剣を振えば、彼女の首を掻き切ることはできるかもしれないが、それと同時に百合香も引き金を引くだろう。


その場合、弾は容赦なく僕の腹を射抜かれる


…だとしても、重傷を負うのは明らかに百合香の方、ならば、多少の傷ぐらいなんてことないはずだ。



「そう?じゃあ、試してみようか?」


すぐに、百合香の首筋に刃を入れ、切りつけると、その瞬間甘い香りと共に、真っ赤な血が飛び散った


けれど残念なことに、咄嗟のところで避けられてしまい、彼女の首筋の傷は思っていたほど深くはなく、浅い。

ならばと、もう片方の剣を振るうけれど、それも素早く避けられ擦り傷程度


──バンっ!バン!バン!



惜しい、そう思った途端百合香が放った銃弾が腹に1発だけあたり、重い痛みに耐えすぐにその場から飛び上がり、彼女と距離を取った


首の傷を抑えこちらへ、ゆらりと振り返る百合香は、出血しているにも関わらず痛みで歪んだ顔ではなく、どこか楽しそうに、口角をあげ笑みを浮かべていた。



「…ふ、ふふっ。君は、本当におもしろい」



一瞬、笑顔の百合香にゾクリと、身震いがした普段笑みを浮かべない人物が、にこりと笑うほど奇妙なものはない。

目の前の彼女の気味の悪さと、腹に埋め込まれた銃弾の異物感が気持ち悪く、傷口を抑えると手のひらに伝わる生暖かい感触


傷口からは、どくどくと脈打つ血が流れておりそれと同時に甘い香りが鼻を通る。

同時にズキっと激しい痛みがやって来て、ぎりりと歯を食いしばり、顔を顰めた。


その様子を楽しげに見つめる彼女は、首の傷を抑えながら、こちらの様子を伺っている


「ねぇ、まだ終わらないでね?」



「僕は、…早く終わらせたいヨ」



彼女は、この状態を楽しんでいるのか、淡々とした表情を浮かべているが、どこか楽し気なのが伝わってくる


小さなため息を吐き、銀の弾丸のせいで、普段よりは治りが遅い射創へ、歯を食いしばると勢いよく指を入れ、このなんとも言えない激痛に耐え、体内から弾を取り出していく。



銀弾さえ取り出せば、じゅううと音を立てすぐに治癒する傷口。


しかし、このままでは貧血になり倒れるのは確実、下手すれば枯渇し死に至る、なんてことに成りかねない。


そんなことになる前に、あらかじめ持ってきていた錠剤を、ポケットから取り出すと直ぐに口へと放り込んだ。



「その能力…便利だね」



血薬で治る様を、見ていた百合香は刀を握りしめると勢いよく迫ってきた。

傷を負っても尚、先ほどと同じぐらい力強い彼女の刀を、双剣で受けとめれば銀の刃のぶつかり合う金属音が、ギリギリと音を立て、赤い火花と共に、嫌な音を奏でた


両腕に力を込め刀を振り払えば、彼女は片手でくるりと剣を握り直し、こちらの脇腹目掛けて銀の鋭い刃が迫ってきたけれど、キンッと金属音をたてて弾き返した。

しかし、彼女は片手に仕込んでいたのか、次は心臓目掛け銃を向け、迷いもなく引き金を引いた


──バァアン!!!!


一瞬鼓膜が震えたかと思うと、火薬の匂いが広がった

間一髪で彼女の弾を避け、拳銃を切り落としてやれば、百合香は盛大な舌打ちを鳴らすと真っ二つになり使い物にならない拳銃を放り投げ、すかさず刀を握り直し、勢いよく刀を振り翳す。


──キンッ!!!!


しかし、双剣で振り払って終えば、ほんの一瞬、よろけ体制を崩した彼女。

その隙を狙い、百合香の上半身に容赦なく銀色の刃を向けた




──ザシュッ


「…っ」


その瞬間、確実に肉を切り裂く感触が手に伝わり、今度こそ彼女の体に深い傷を残した



首よりも、確実に深く傷を刻めば、百合香は身を守るように体を屈めた

それを逃すまいと、彼女の肩へ剣を突きさせば、小さな声で悲鳴を上げた



勝負は完全に決まったが、どうしても聞きたいことがある。



「…ねぇ、どうしてここに乗り込んできたの?」



「はっ…、知らないの?あんた達が、あんこを、誘拐したから…」


「…ゆうかい?まさか、誘拐なんてしてないけど?」


きっと、彼女の言うあんこは、餅月あんこのことだろう

狼のメンバーであるあんこを、鴉が誘拐なんてするはずがない、ましてや、誘拐するメリットがないのだから。



「でも、鴉に連れ去られたって…」



それはありえないよと、ズルズルと大木に背中を預け座り込む百合香と一緒に、膝を降りしゃがむと、目を見て答えた。


血を流しすぎた百合香は、肩を揺らしながら、ぜぇぜぇと息を切らしており、もしこのまま放っておけば、枯渇するのも時間の問題だ



「でも、おかしいなぁ。そのあんこが…僕の大切な子を連れ去ったって聞いたんだけど?」


王蓮が言っていた、あんこが白蛇に洗脳されているのではないかと。


完全に、僕達に誘拐されたと思い込んでいる百合香へ、事情を話せば痛みで歪んだ表情は、明らかに困惑した表情へと変わった。



「…ちょっと、意味がわからない。…じゃあ、誘拐されたって話は…」




それは、誰に聞いたの?そう、確認すれば門番の立花から聞いたのだと答える

だとすれば、1番怪しいのは立花で間違いないだろう。


そう、彼女に伝えれば一瞬だけ目を見開く彼女の瞳は、ゆらゆらと揺れており動揺した様子を見せた。

彼女が仲間を疑いたくない気持ちはよく分かる。僕には洗脳は効かないにしても、鴉の皆が洗脳されていたらと、考え、疑うのは心苦しい事だ。



しかし、同情する前に百合香の状態を何とかしなくてはならない。

いくら、組織の違う者だとしても今はやり合っている場合ではない。

肩に突き刺した剣を、出来るだけ痛みがないように引き抜いてみるものの、体から剣を引き抜くのだから、痛くないはずもなく、彼女は顔を顰め声を荒げた


彼女の傷口から滴る血は、甘い香りを放っており、ついつい喉を鳴らしてしまいそうになるが、本能的に仕方がない。


同じ吸血鬼だから人間と違い、美味しくないのは頭では分かっているけれど、やはり純血のこの香りは絶品だ。


しかし、この香りに騙されて飲んでしまうと、あまりの苦さと不味さに悶え苦しむのだから決して口に入れることはないけれど。



引き抜いた血だらけの剣を、自身の服で念入りに拭きあげると、ぴかぴかの綺麗な銀色へ戻った



「まんまと白蛇に踊らされてたってことだネ」


やられたねと、笑えば剣を引き抜いた事か、白蛇の事に怒っているのか、百合香はギロリと鋭い視線を向けたかと思うと、低い声で白蛇?と呟いた


僕のせいで、両腕が使えない彼女に、鉄分たっぷりの錠剤を、彼女の前に差し出した。

口を開けてと笑えば、明らかに嫌そうな表情を浮かべたものの、彼女は渋々、小さく口を開いてみせる。


錠剤を3、4粒彼女の口の中へ、ポイっと放り込めば、大人しくごくりと飲み込んだ百合香は、ふう…と一瞬、安堵の表情を見せた




「あ、ごめん。邪魔した…?」



これで、出血も治り暫くしたら傷も塞がるだろうと、その場から立ち上がれば、不意に背後から、パキッと枝を踏む、乾いた音が聞こえ、視線を向け音の正体を確認すると、黒のスウェット姿に、銀髪の見知った人物が立っていた。


気まずそうにそこに立ち尽くすのは、百合香の弟である隠岐満作。


彼は何を勘違いしたのかすぐに誤ると、近くの大木にそそくさと身を隠してしまった



「つ、続けていい、俺は何も見てないから」



大木の後ろから、耳も塞ぐからと声をかけてくる満作に、何を勘違いしているのだと呆れ顔を浮かべれば、百合香も同じ表情を浮かべていた。



「…アレは、何?」



「…私にも理解できない」



  




□□◾️



「なんっで、あんたと2人でここに居ないといけないのよ!」


ブチブチと先ほどから、拳銃に弾を詰め込む俺の隣で、監視カメラをチェックする鈴は、言葉とは裏腹に王蓮から言われた事はきちんとこなしている。



「そりゃあ…、捕虜を外に出すわけにはいかないからじゃない?」



「捕虜…ま、まぁそうだけどぉ?でも、もういいでしょ?エデンの洗脳は解けたんだし!」


「うん、でも、解けてもまた洗脳されたら一緒じゃない?」


「ま、そうだけど…って、あんた!うざい!!!」


うざい!と大きな声で言われ、意味がわからない、と首を傾げれば、その態度もうざい!と更にうざいと連呼される始末、一体彼女は何をそんなに怒っているのか、よく理解できない。


かちゃりと音を鳴らし、ハンドガンへ弾を詰め込みレバーを引けば、準備は整い、双剣を背中に背負い、腰にハンドガンと予備をセット、それから弾丸も忘れずに入れると、残りのハンドガンを横でうるさい鈴へと渡した。



「え、なにこれ?」


「ボスが、渡してってさ。もしもの時に、武器がなかったら不便でしょ?…ホラ、ここで死なれたら困るし、一応持ってなよ」


「…あんた、さっき私のこと捕虜って言ってたよね?」


「うん」


「こんなの持たせて、もし私があんたを襲ったら、どうすんのよ?」


「あぁ…、それなら大丈夫。俺、君より強いし」


はっきりと、本音を言えば彼女は目を吊り上げ、チェリーピンクの瞳で睨むと、俺に詰め寄り指を差してくる


何事だと、彼女の行動に理解できずにいれば、鈴はまた、ギャンギャンと、大きな声を上げ始めた。


「〜!!あんたさぁ!!ほんとっ、嫌な性格してる!」



「そうかな?君は、短気だねぇ。…はい、ちゃんと受け取って。あ、小型ナイフも渡してって言われてたんだ、はい…コレ」


まだ、話は終わってないの!と、未だにうるさく吠える鈴へ、気にせず頼まれていた小型ナイフを渡せば、何よコレ?と怪訝な顔でこちらに視線を向けてくる


「もしもの時は、これで相手を洗脳してって、…血を流せってことじゃない?」



未だに、はぁ?と嫌そうな彼女に、能力を使えってことだよと伝え、ポケットから鉄分の薬と、サプリ、飴を順番に渡していく


「な、なによこれ?!」


「コレは、師匠が作った錠剤とサプリ。あぁ、嫌ならそれは返して」


「い、嫌とはいってないでしょ?!これは、貰っとくわよ!」 



師匠の名前を出した途端、すぐに懐に隠す彼女を単純だなぁと眺めていれば、俺の視線に気がついた鈴は、また目を吊り上げ眉間に皺を寄せた。




「その飴もいる?」


「も、貰っておく!」



受け取ろうと、手を出した俺の手から、鈴は逃げるように一歩下がると、すぐさま自分のポッケにしまいこんだ。


一言ありがとうと言えば良いのに、素直じゃない行動に、面倒くさい子だなと小さく呟き、監視カメラに視線を移した。



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