狼
トンネルの中を車で通り抜ければ、道を難むように立ち尽くす、おさげ頭。
邪魔だと何度も、クラクションを鳴らすが、退く気配はない
少しだけ窓を開け、退けと再度伝えるが、石川立花は退かないどころか、俺の車に発砲してきた
自慢じゃないが、他の車とは違い頑丈に作られた愛車は、そんな弾では、びくともしない
こいつに構っている暇もなく、そのままアクセルを思い切り踏めば、ドンと鈍い音と共に、車に乗り上げてくる立花の体。
退けと、あれだけ忠告したのにも関わらず、聞かない方が悪い。
そのまま、狼の巣まで直行すれば、大きな屋敷が見えた
相変わらず周りは木々ばかりで、囲われており、こんな所を棲家にしている狼達の気がしれない
門を開けろと、監視カメラに向かって伝えるが、これもまた開く様子もなく、運転席の窓を開け、インターホン目掛け銃弾を撃てば、ピンポーンと音が鳴った
『王蓮、ここに何しにきた?』
低い声で、俺の名前を呼ぶ松彦はこの間、山で手を打ってくれと頼んできた時とは違い、機嫌が悪い
「餅月あんこが、白蛇のガキに洗脳されてるから、教えにきた」
『…洗脳?誘拐したのはお前らだと聞いたぞ』
「悪いけど、俺はあいつはいらないよ」
聞いただけで、確認もせずに動くのは狼らしいと鼻で笑えば、暫く間が空いたものの返事が帰ってきた
『……白蛇について話せ』
「へぇー…話を聞くのに玄関先で済ませる、これが狼のやり方?」
どれだけ、用心深いのか。客人を招きもせず玄関口で済ませるなど、おかしな話だ
ここでは話せないと伝えれば、松彦の代わりに女の声が返ってきた
『王蓮、入れ』
うぃいいいーん、と音を立てて大きな門が開かれると、立花の血のついた車をそのまま、屋敷の中へと走らせた
先ほど、俺が轢いた立花は頭から血を流しており、拭けば?と教えた俺を、ギロリと睨みつけてくる。
今にも飛びかかってきそうな勢いに、リボルバーを掴めば、藤子のやめろという一声で動きを止めた。
話のわかる藤子が、立花と松彦は下がっていろと伝えると、松彦は、変な真似はするなよとでも言いたいのか、チラリと見てくる。
その視線が鬱陶しく、殺しはしないと一言伝えれば、渋々部屋を後にした。
「王蓮…門番の立花を轢くのはやめろ。うちの門が手薄になるだろう」
「だったら、退けと忠告した時点で退くべきだろ」
俺はちゃんと、忠告はしたよ。そう藤子に伝えると、彼女は金色の瞳を細め、そうかと軽く笑う
「で、白蛇の洗脳とはどう言うことだ」
「赤梨エデン、そいつが鴉と狼に洗脳したやつを紛れ込ませてる」
「ほう、それで?」
「あいつの洗脳は血の香りだけで洗脳できる、厄介なガキだ」
「ガキ、か」
ガキ、と聞いて無意識なのか、自身のお腹を触る藤子に、あぁ子供ができたと言っていたなと、伝えればどこか嬉しそうな表情を浮かべた
しかし、今までの鋭さがなくなった彼女の変化に、こうも変わるのかと目を疑ってしまう
「子供ができて、丸くなったんじゃない?」
「そう、見えるか?まぁ、安定期に入るまでは殺しは控えるつもりだ」
「ふーん。でも東山に妹を寄越したのは、どう言うつもり?」
「百合香にも殺すなと伝えている。ただ…自害するのは別の話だがな」
なるほど。自分では手は出さないが、自殺なら殺しとは関係ない、そう言うことか。
「お前らの能力も、厄介だよ」
素直に、思ったことを言えば藤子は、それは褒め言葉だと受け取っておくよと、楽しそうに笑うと、俺の真意を探る様に鋭い視線を向けた
「で、本題は何だ?…それだけを伝えに来た訳じゃないだろう」
「…鴉に、人間から吸血鬼に変化した奴がいる。俺の説では、あんこを洗脳したエデンが海を連れ去ったと考えてる」
「人間?…そいつは、特異体質ってことか」
人間という言葉に、大人しく聞いていた藤子は短い黒髪を揺らし、ピクリと眉を動かした
「そいつを、連れ戻したい。ここには、匂いで居場所が分かる犬がいるだろう?協力してほしい」
「…銀太郎達は犬ではない、シンリンオオカミだ」
パチンと藤子が音を鳴らせば、銀色と黒い狼が奥の部屋から現れた
その姿はやけに夜とも似ていて、もしかしたらこれらと同じ種類かもしれない
「東山にも狼がいたんだが、知らないか?」
「…もしかして、黒いやつ?」
「あぁ、お前のところに行っていたのか。…もちろん、生きているんだろうな?」
「さぁ…?」
その瞬間、藤子の両脇にいる狼が俺に向かって鋭い牙を剥き出し、唸り声をあげるとゆっくりと近づいてくる
俺の言葉を理解しているのか、答えによっては、噛み殺そうとしているのだろう。
ここまで賢い狼に、少しだけ興味が湧いた
「銀太郎、黒助、やめろ」
こいつは、こう見えて動物には手を出さないから安心しろと、2匹を落ち着かせると金色の瞳を向けた
「そいつは、黒丸。とても鼻がきく子だから役に立つはずだ」
そう言って、にやりと笑む藤子はやはり話のわかる奴だと思った。




