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blood 血の誓い  作者: さくらもち
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交渉、そしてはじまり

ずっと、刀を握った海の姿が頭に焼き付いて、離れない。同時に、一緒に居たにも関わらず、また海を守ることができなかった自分が、余計に情けなく不甲斐ない


能力持ちでもない俺が、能力者相手に敵うわけがないのは理解している。だとしても、俺を守ってくれた海を、救えなかった。それに加えて俺は鴉を裏切り、あの子までも、裏切ったのだ。


いくら、洗脳されていたとしても、その事実がどうしても許せず、同時にどうしても、あの子だけは、何としても俺が守ってやりたかったという気持ちが、沸々と俺を責め立てる





「ねぇ、あんた…いつまでそこでいじけてんのよ?」




誰もいないリビングのソファーに腰掛け、ぐしゃぐしゃと無造作に頭を掻きむしれば、不意に耳に入ってきたのは、鈴の声


俺を見るや否や、あんたは行かなくていいのかと言われ、腹の底から深いため息が溢れでてくる


「お前には…関係ないだろ」


この、自身への苛立ちを、関係のない彼女に向けるのはお門違い。そんなのは頭では分かっている

なのに、今はどうしてもこの感情に蓋をすることができず、ついつい鈴へ返す言葉に、怒りを込めてしまうのだから、俺は本当に馬鹿だ


今の自分が嫌で、話しかけるなと彼女から背を向ければ、後ろからクスリと笑い声が聞こえてきた



「あんたって…本当、子供みたい」



しかし、彼女のこのセリフには、押さえていた感情が、一瞬でプツンと切れ、グッと我慢していた感情が、溢れ出そうになった


自分よりも若い少女に笑われ、あまりにも馬鹿にされた物言いに苛立ち、口を開こうと振り返れば、鈴は音もなく、オレの真後ろに居た。


いきなり至近距離に居るのに加え、俺の目の前でギラリと光る銀のナイフ。

ほんの少しでも動けば、彼女の握る鋭い刃先は、間違いなく眼球に突き刺さるだろう距離に、ひゅ、と一瞬息が止まるのが分かる。


おかげさまで、一瞬で苛立ちは消え去って行き、静かな室内でただ、ごくりと唾を飲み込む音が耳についた。



「…私、あんたみたいにいつまでも、そうやってグジグジして行動しない男って大っ嫌い」


「っ…」


「そんなに後悔する暇があるなら、さっさと海を迎えに行けば良いでしょ?」


今だにギラリと光る刃を向けたままの鈴は、行動とは裏腹に、どこか俺を諭しているようにも見えるのは、気のせいだろうか、



「お前…、俺を洗脳する気か…?」



「はぁあ?…あんたなんか洗脳したって何の特にもならないわよ」


呆れた、とあからさまに嫌な顔をしたかと思うと、鈴はナイフを下ろし、ドカリと俺の隣に腰を下ろした



一体彼女が何を考えているのか全く読めず、未だに警戒を込めて鈴を凝視していれば、テーブルの上にある飴を当たり前のように手に取り、口に放り込んだ。


隣で、コロンと飴が転がる可愛らしい音が聞こえてきて、先ほどの緊張感は直ぐに消し飛んでいく



「協力してあげる」



「…は?」


飴の袋を几帳面に結んだかと思えば、俺の方へと差し出し、唐突に協力すると言い出す。

突然の事に、流石に声にならない声が出ると、ん!と差し出された、中身の入っていない包み紙


ゴミを差し出され、受け取る事なくもう一度聞き返すと、今度は盛大なため息を吐き出し、海を助ける協力をするっていってるの!なんて、捕虜らしからぬ言葉が返ってきた。


「あんたの後悔、私が取り返してあげるって言ってんのよ」


「…お前、白蛇だろ?…そんなこと言って、どうせここから出たいだけなんじゃ…」


「は?私はここから出ていくつもりないし?」


「いや、…何でだよ!」


さも当たり前のように出ていくつもりはないという鈴の言葉に、つい言葉が溢れる


「んー…だってここって居心地がいいし。まぁ、何より天明さんがいるでしょ?だから、私はここを出るつもりはないの!」



「へ、へぇ…」


いつもの高飛車な彼女の表情は、決して嘘をついているようには見えない。

けれど今はそう簡単に彼女の言葉を信じるのは難しい



「で?どうする?…私の提案に、乗る?」


「…もし、例えば、俺がその話に乗ったとして、お前になんのメリットがあるわけ?」


俺に協力した所で、正直鈴には何のメリットもないはずだ。

いくら、鈴も洗脳されていた身でも相手は自分の親戚、ましてや同じ白蛇で、仲間だ。

いくらここが居心地が良く、天明さんに惚れてるとしても、そう簡単に信じて提案に乗るほど、俺も馬鹿ではない


「あんたが…私を、鴉に入れてよ」



「……はぁ?何つった?」


「だからぁ!協力してあげる代わりに、私を鴉に入れてって言ってんの!…推薦ぐらいはできるでしょ?」


「お、お前!鴉に入りたいって言ってんのかぁ?!」


一体どんな提案をされるかと身構えていれば、まさか鴉に入りたいという鈴の言葉に、流石に耳を疑った。

…しかし、正直俺には決定権がないし、いくら俺が推薦したとしても、ボスがN Oと言えばそれで終わりだ



けど、本音を言えば、目の前の少女は正直優秀だ。

洗脳の能力持ちに、戦闘力も高く、その上この気の強さ。実際、ボスがNOと言ってもここに居座る図太さも持ち合わせている。



「…なによ?別にあんたが無理なら他に頼むから良いわよ!」




「何も言ってねぇだろ?…とりあえず、お前の提案、乗るわ」



そう言って、未だに俺に差し出したままの、包み紙を鈴から受け取った。



□□■




『リスナーの皆こんにちわ!今日はね、珍しくライブ配信だよー!皆僕の作った香水は届いたかな?届いたーって言う人は、今から僕と一緒に香水を付けようか!』


蛇のお面をしたエコは、手元にある香水を握るとシュッシュと何度かプッシュし、仮面越しでも分かる程楽しそうだ


赤い瓶に入った可愛らしい香水には、sharkと描かれており、蓋に小さな蛇の巻き付いたデザイン


『皆、僕のデザインした香水つけた?ふふ、良い香りでしょう?』


僕の大好きな香りなんだと、仮面の少年が言えば、コメントは良い香り〜で埋め尽くされていく。

ライブ配信の、視聴者は深夜1時だと言うのに、回覧人数は2万人と、すごい数だ。

人数と、コメント欄に書かれていく香水つけたの文字を確認すると、エコはニヤリと口角を上げる



『準備は整ったね。…皆、僕を楽しませてよ』





スイッチを押し、撮影を止めると直ぐに仮面を外した。

夜の窓ガラスに反射するのは、真っ白な髪に真っ赤な瞳をした見慣れた自信の姿。

ガラス越しでも伝わる、楽しげな表情が目に入り口角が更に上がっていく。



さぁ、始めようか。


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