2度目の洗脳
珍しく、今日は遅れるとメールを送信。
なるべく急いで仕事を終わらせてから、いつもの場所へと車を走らせた。
辺りは、いつのまにか暗くなっており、パーキングに設置してある電灯が、ぱちぱちと切れかかっているのが目につく
突然、何かが壊れる激しい音が聞こえ、外が騒がしい。
運転席の窓を開ければ、逃げ回る海の姿と、ここにいるはずもない狼、餅月あんこの姿が見えた。
なんで、狼がここにいるんだと、慌てて2人の間に車を突っ込み、海にすかさず乗れ!と叫べば、すぐに車に乗り込んできた
しかし、こちらに刀を向けるあんこに、ハンドガンを取り出し、引き金を引けば、彼女は臆することなく、カキンカキンと音を立て、銃弾を弾き返す
銃弾の一つだけが、彼女の頬を掠り、真っ白な頬からツー…と、血が流れた。
真っ赤な血を手の甲で拭うと、彼女は目を血走らせ、鬼の様な形相で俺を睨みつける
彼女の癇に障ったらしく、迷うこともなく、そのまま刀を振るい上げれば、自慢の愛車へと刃を立てた。
昨日、折角洗車しワックスもかけてピカピカにした愛車は、刀の鋭い刃に削られ、フロントガラスは粉々になり、激しい音を立てて崩れていく
ガシャン!と、ガラスの破片が飛び散ったかと思うと、彼女は車の上に乗り、破れた窓ガラスの間から、俺に向かって刀を突き刺した。
咄嗟に急所だけはと、避けたつもりだったが、いつの間にか俺の刀を持った海が、俺に向ける彼女の刃を弾いた。
「あんたの相手は、私だよね?」
いつもとは違う、低い声に険しい顔つき。
海の、あんこを射抜く眼差しは、鋭く、いつのまに、こんなにも逞しくなったんだと、不覚にも嬉しくなった。
いつも、何故か、守れる様に強くなる、とは言っていたが、まさかその言葉が、今ここで実行されるとは、思いもしなかった。
いつも、天明さんと訓練をしていた海は、もう、いつのまにか、強く逞しくなっており、車から降りて加勢しに行こうとしていた俺は、ピタリと足を止めた
変に、俺が行けば邪魔してしまう。
今はボスに連絡するのが先だ。
ポケットからスマホを取り出し、すかさずボスへと電話をかけた
しかし、急にどこからか香る、甘い血の香りが鼻を通ると、段々目の前が霞み、力が抜けた。
そのせいで、手元のスマホを落としてしまい、カシャンと、地面に落ちたスマホの音が耳についた
すぐに、拾い上げようとスマホを確認するけれど、なぜか目の前が二重に見えて、どうしてもうまくスマホが拾えない
何度か手を伸ばし、掴もうと挑戦していれば、不意に突然視界に入ってきた、小さな手
その手は、いとも簡単にスマホを拾い上げると、あどけない声を上げた
「あぁ〜!画面割れてるよ?」
コンクリートの上に落ちたスマホ画面は、先ほどのフロントガラスの様に、割れていた。
あららと、画面をこちらに差し出した少年の顔は、よく覚えている
「…お前、あの時の…」
「あ、覚えてる?お兄さんの連絡待ってたのに、あれから連絡ないからさ。気になってたんだけど、やっぱり僕の洗脳が解けてたかぁ。」
「おまえ、やっぱり…何か、しただろ?」
「あれ、それは覚えてないんだ?僕ね、お兄さんの事、洗脳してたんだよ、でも、次はもう勝手に解かないで?いちいち血を流すのは、面倒なんだからさぁ」
甘い血の香りの正体は、エデンの流した血の匂い、嗅いだだけで、こんなにも朦朧としてしまうのは、こいつが原因らしい
「俺は、鴉は裏切らな、い」
「あはは!!俺は鴉を裏切らないとか言って、気がついたら自分が裏切っていたなんて、滑稽だね」
「なに、いってる?」
「僕にあれだけ情報を漏らしてたのは、お兄さんでしょ?…あれ?ほんとに覚えてないの?んー…洗脳が強すぎたかなぁ?」
「おれが…?ふ、ざけんな!おれは、からすを裏切らない!」
「あーもう、うるさいなぁ。裏切らないも何も、もう裏切ってるんだって!君は大人しく、僕に言われた事を聞いていればいいんだよ。『ほら、海から刀を奪って』」
最後の言葉がやけに頭に何度も響き、理解するよりも前に、勝手に口が動いた。
「…はい、エデン様」




