紛い物
この世で嫌いな生き物は人間、そしてそれよりも、もっと、嫌いなものは人間と吸血鬼が混ざった存在。
いわゆる、混血種だ。
今、目の前で、必死に私へ拳銃を向ける海からは、なぜだか、人間の匂いはない。
けれど、ほのかに香る混血種の香りがして、苛立つのは、この香りの元が、私の1番嫌いな存在だから
身内とは呼びたくもない、あいつと同じ、混ざり合った香り、うっすらとその香りが鼻について、殺意が芽生えてくる
「今ならまだ許す、それを捨てて一緒について来な」
先ほどから、怖気ついたのか私から逃げ惑うばかりで、私を撃つ気配もない
ただ、構えてばかりの海に声をかければ、海はスカイブルーの瞳で私を射抜いた
「行かない!そんな簡単についていくほど、私は馬鹿じゃないから!」
「へぇ?言うじゃん。ならその手足いらないな。生きて連れて行けばいいって言われてるから、お前も異論はないだろ?」
「連れて行けるならね!」
急に、こちらへ銃口を向けたかと思えば、引き金を引いた海に、刀で弾を弾き返した
「お前の弾は遅い」
こんなもの、余裕で切り落とせると言えば海は車のミラーを引き抜き、私へと投げつけてくる
案外力はあるのかと、感心するがそんな子供じみた抵抗をされても、なにも感じない
もう一度柄を握り直し、駆け足で海の元まで行くと思いっきり海の腕目掛けて切りつけた
両腕を切り落とすつもりで振り翳した刃だったが、ちょうど良いところで海によけられてしまい、盛大に舌打ちがでた
「逃げ足は早いのは認める。けど、弱いよお前」
引き金を引くのも遅い、ただ逃げ惑うだけのこの子のどこが、そんなにも欲しいのかエデンの考えていることは分からない。
ただ、人間から吸血鬼に変化しているのは珍しいけれど、私からすればそんなものは偽物で、紛い物の混血種と変わらない
イライラとムカつく思いを募らせ、海を追いかければ、突然やって来た黒塗りの車が目の前に迫り、咄嗟に足を止めた
「乗れ!」
そう、中から声がして運転席を見れば、鴉でよく見かける猿田の姿
こいつも紛い物だとゲンナリとしていれば、猿田は車から私に向け発砲して来た
何発か打った弾が一つだけ私の頬を擦り、何かが頭の中で切れるのがわかった
「お前らぁ…あたしにこんな真似して、生きて帰れると思うなよ!」
頭に来て、目の前の車を切りつければ、フロントガラスが、ガシャン!!と音を立てて崩れ落ちていく
ついでに車の中に居る猿田へ向け、刀を突き刺せば、いつのまにか刀を握った海に、キィィーンと音を立てて弾かれた
「あんたの相手は私だよね?」
今までとは違う海の強い眼差しに、ほんの少し驚いたが、すぐに海に向かい、刀を向けた
「生意気なんだよ、お前」




