トンネルの先は
「で、結局海はその王蓮って人が好きって事ね?!」
「う、うん。」
教室のベランダでハルと外のグラウンド場を眺めながら、王蓮のことが好きだと伝えれば、ハルはとても嬉しそうに微笑んでいた
「はぁ〜!海の初恋の人だもんね!正直、めっちゃ気になる…で、その人って、どんな人なの?!」
どんな人?かっこいい?と興味津々に目を輝かせる親友に、王蓮を頭に思い浮かべた
「うん、落ち着いてて、一見冷たい印象なんだけど、話してみると、なんか、優しい人なんだなぁって思える人」
「へぇ〜!そうなんだぁ〜、ふふ」
「な、に?」
「いやぁ〜、本当に好きなんだなぁって思って」
「な!ま、まぁそうなんだけど、そんな言われたら恥ずかしいって」
「はぁ〜いいねぇ青春」
「うん。たしかに、青春してるねぇ」
急に、やけに聞き慣れた声に2人で勢いよく振り返れば、隣のベランダから、こちらに手を振る玲の姿
「れ、玲?!」
「あ、玲くん?」
あははと、笑う彼はなんだか、すこしだけ気まずそうな表情を浮かべている
「ぬ、盗み聞きぃ?!」
「違う違う!って言いたいんだけど、まぁそうなっちゃうかぁ…本当、たまたま、外の空気を吸いに来たら、海たちの声が耳に入っちゃって、」
鴉のメンバーで、なんなら王蓮の事は、私よりもよく理解している玲に、この話を聞かれるとは思わず、激しく動揺してしまう
「こ、この事は…」
「ん?あぁ、誰にも言わないよ。3人の秘密だね」
ドッドッドッと、恥ずかしさと、恋心を玲に知られたことで、動機が止まらないが、私とは違い玲はにこやかに笑い、それに、俺もいた方が上手くいくかも、なんて言ってくる
「え、玲くんの知ってる人なの?」
「うん、めちゃくちゃ知ってる人」
「そうなの?!海ー!だったら玲くんに協力してもらいなよ!」
こういうのには、仲間がいた方がいいんだから!なんて、言うハルに、いやいや玲に協力はちょっと、無理がありそう…なんて、思うけれど、私のそんな不安を他所に、彼は二つ返事で、いいよ!と、それは嬉しそうに笑みを浮かべた
「俺が、キューピットになってあげる」
□□□
狼と髑髏が描かれた、暗いトンネルの中を怯むことなく、スタスタと歩けば自身の歩く足音がトンネル内に響き渡る
トンネルを抜ければ、暗いトンネルとは違い、急に光が差し込んできて、一瞬だけ眉間に皺を作った
帽子に、サングラスをして、出来るだけ紫外線対策はしているものの、暗いトンネル内に居たからか余計に眩しく感じるのは仕方がない
「おい、ガキンチョ。見ない顔だけどここに何か用?」
トンネルの前に、仁王立ちで立っている、長い黒髪に、まだ夏だというのに、パーカーを着て背中に刀を背負った彼女は、見たところ鈴と同じ年頃だろう
こちらをサングラス越しに覗き、お前純血?と確認してくるあたり、やはり狼らしい
「うん、お姉さんにちょっと用があって」
「へぇ、純血がここに何の様?、…あーうちに入りたいなら、藤子さんに確認しないと無理だよ」
「狼に入るつもりはないよ、ただこっちの協力をしてもらおうと思って」
「は?」
何言ってんだお前と、こちらを怪訝そうに見つめる少女は無視して、僕の後ろに控えるもう1人の人物に声をかけた
『捕まえて、殺しちゃダメだよ』
「はい、エデン様」
音もなく、暗いトンネルの中から、ゆらりと現れた茶髪のおさげの少女は、黒髪の少女に勢いよく切り掛かった。
黒髪の少女は、咄嗟に背中から刀を抜くと、襲いかかる立花の刃を受け止めた。
その瞬間、ギィーーーン!!と金属音が響き、黒髪の少女は、声を荒げた
「おい!立花!どういうつもりだ!」
「…エデン様の為に、あんこを捕まえるんだよ、早くその刀捨てて降参して」
「はぁ?!…立花!あんた何言ってんのか分かってんのか?」
「分かるも何も、私はエデン様の為にいるだけ」
あんこと呼ばれた黒髪の少女は、ズザザと音を立てて、一度暗いトンネルの中へと飛び込むと、カシャンと音を立て、サングラスを投げ捨てた
「昼間はマジで動きにくい!…おい!立花!そいつの味方をするなら、お前は裏切り者だぞ!」
「味方も何も、エデン様は絶対なの」
『立花、早くして』
トンネルに響く、2人の会話を黙って聞いていれば、長引きそうな予感。
ここに長居する気はなく、もう一度立花に、早く人質にしてと声をかければ、立花はすぐにおとなしく返事を返した
「…お前、もしかして能力者か?!」
立花の様子に気がついたあんこは、立花の刀を受けながら、こちらへ声を荒げた
「さぁ?どうだろうね?」
「お前、立花に何した?!」
意外と感のいい彼女に、感心していれば、あんこは立花を押しのけ、こちらへと向かってくる
ものすごい勢いに、一瞬目を開くが目の前で刀を振り上げたあんこに、ニヤリと頬が上がっていく
振り翳した刀に、自ら背中を向ければポタポタと血が流れ、甘い香りが周りを漂い始めた
「何、笑って…」
結構深い傷にも関わらず、笑みを絶やさない僕に目を開き動揺しているあんこは、僕の能力を知らない
流れる血を見て、早く鉄分を摂取しなければ、正直危ないが、その前にやることがある
『おとなしく人質になってよ』
「…はい、エデン様」
これだけ僕の血の香りを、至近距離で嗅いだのだから、洗脳が効かないはずがない
なんなら顔に飛び散った僕の血は、あんこの体内に確実に入った。
それを確認し、すぐに洗脳をかければ、別人の様に大人しくなった彼女に、後ろで刀を直し終えた立花。
彼女はやってくるや否や、すぐに鉄分サプリを僕に飲ませると、みるみるうちに先ほどの傷は綺麗に治っていく
「エデン様、これからどうなさいますか?」
『立花は、このまま狼に戻っていいよ。そしてあんこが、鴉に誘拐された、って伝えて』
「はい、分かりました。」
深く頭を下げた立花は、すぐにトンネルから抜けていった
残されたあんこと僕は、来た道を今度はあんこと2人で戻っていく。
隣をチラリと見れば、先ほどのうるささはなく、大人しい彼女。
洗脳をかければ、自分に忠実になるのだから、この能力は素晴らしいと改めて思う
剣の腕もあり、立花とも互角な腕前の彼女が味方になれば、鴉にも劣らないはずだ。
そして、次は、あの子の番。




