挫けない心
3人でネストに向かえば、天明の腕に張り付く鈴の姿を目撃
まるでカップルのように、張り付く鈴に目をぱちぱちと何度も瞬きして凝視すれば、隣の王蓮はため息を吐き、猿田はまたかよと苦笑いを浮かべていた。
天明曰く、白蛇を操っているのは鈴の従兄弟の、エデンという少年らしく、その少年に洗脳をかけられていたらしいのだが…鈴は私を見るや否や、目を釣り上げると威嚇してきた。
「あんた!私の天明さんに手を出さないでよね!」
襲ってきた相手に、突然、師匠に手を出さないで!と言われ、正直意味不明だが、これは流石に私だって、彼女が師匠の事を好いていることは理解できる。
見るからに、分かりやすい反応をする彼女は、師匠しか見ておらず、終始、彼女の瞳の中はハートが浮かんでいた。
「天明、そのガキをうろつかせるなよ」
「そうなんだけど、着いてくるからサ…」
「鍵閉めて閉じ込めればいいじゃん。…いくら洗脳が解けたとしても、そいつを信用するのはやめとけよ」
「っな、失礼ね!私は!天明さんに嫌われるような事はしないから!」
「あっそ…、別にお前には聞いてないけど」
「くっ、私もあんたには言ってないけど?!」
目の前で、バチバチと火花を出し始めるふたりに、あははと、苦笑いを浮かべた。
いつのまにか、私の知らぬ間に王蓮と普通に話す鈴の姿に、なんだか胸がモヤっとした
…ん?モヤ?
もしかすれば、これがあのハルが言っていた好きな人が異性といたら、嫌だと思うってやつなのだろうか?
このモヤモヤする胸を、ぐっと手のひらで抑えるけれど、目の前の2人の光景を見ると、更にモヤモヤが募っていくような気がした。
「海?どうしたの?」
言い合う鈴を呆れたように見ていた師匠は、いつの間にか心配そうに私を見ていた。
「…え?」
「ん?どうかしたか?」
「ど、どうもしてないよ?あ、ちょっと…喉が渇いたなぁ〜!私、飲み物飲んでくるね」
猿田もどうした?と不思議そうにしていたけれど、なんだかその場にはいたくなくて、精一杯の笑顔を見せると、水を飲みにキッチンへと向かった
水を取り出し、ガチャン、と冷蔵庫の扉を閉めると、コップにコポコポと可愛らしい音を立て水を注いでいく。
この水を飲んで、モヤモヤがなくなればいいのに、なんて思いながら、注いだ水を飲み干すけれど、やはり、このモヤモヤは消える事はなかった。
「はぁ…」
「ねぇ、あんた」
もう一度、水を飲もうとペットボトルに手をかければ、不意に声が聞こえてきた
突然声をかけられ、振り向けばそこにはさっきまで王蓮と言い争っていた鈴がいた。
彼女は、私の方へ近寄ってくると、急に頭を下げた
突然の彼女の行動に、身構えていた私は呆気に取られ、ただ彼女の金髪の髪が揺れるのを眺めていた。
初対面の時とは違う彼女の行動に、正直戸惑ってしまうが、鈴はあの時傷つけてごめんと謝罪してきた
「洗脳されていたとはいえ、ごめん。これだけは伝えておこうと思って」
「あ、…うん。」
「なによ?」
「あー…てっきり、殴られるかと思ったから…、私の方こそ、変に構えてごめん」
鈴のことだから、あの時のように襲いかかってくると、勝手に思っていた。
そのため身構えていたけれど、それは杞憂だったみたいだ
「…殴ったりなんかしないわよ。そんな事したら天明さんに嫌われちゃうじゃん」
彼女は、本気で師匠に恋をしているようで、彼が嫌がる事はしないと、心に決めたらしい。
真っ直ぐな目で私にそういう彼女の言葉は、決して嘘や偽りだとは思えない
「師匠の事、本当に好きなんだ?」
「あったりまえでしょ?!…だから、その好きな人の嫌な事はしないの。」
「そっかぁ…」
そう、はっきりと言える彼女が素敵だなって思えたのは、今の私が恋というものを知ったからだろうか?
「…で、海は好きな人いないの?っあ!!天明さんだったら許さないから!!」
「…いや、師匠の事は好きだけど、鈴の好きとは違うから安心してよ」
「本当ぉお?…じゃあ、あんたが好きなのは…猿田?」
「はぁ?!ないない!」
猿田が好きなのかと聞かれ、すぐさま違うと否定すれば、鈴は知ってる人の名前を上げ始めた
「ふーん?…じゃあ、白鷺風太郎?」
「違ーう」
たしかに、風太郎さんは優しくて良い人だし穏やかでかっこいいけれど、そう言った感情はない
「ってことは、…え、もしかして龍王蓮だったり…」
ここで、急に王蓮の名前が出て来て、内心ドキリとした。
鈴に悟られないように必死に取り繕うが、きっとどうしたって、目が泳いでいるに違いない
「ち、違うから!…てか、なんでそんなに知りたがるの?」
「そりゃ、自分の好きな人と被ってたら嫌じゃん?ライバルは消しとかないとだし、確認のためよ」
「け、消すぅう?!」
「あぁ!違う、殺すとかの消すじゃないからね?」
相変わらず、言うことが物騒ではあるけれど、今の鈴は、急に人を殺めたりは…しないはずだ、たぶん。
「……と、言うことにしとく」
「てか、私、殺さなくても洗脳すればいいだけだし?で?、あいつのどこが良いわけ?あんた、まじで趣味悪い」
「なっ、そんな、ことないもん!」
「ぷっ!!ほらぁ〜やっぱり、あいつなんだ?海ちゃんは、わっかりやすいねぇ」
話を変えたはずなのに、何故か鈴には王蓮のことが好きなのだとバレている。
自分ではまだ一言も、王蓮のことが好きなんて言っていないのに、何故か王蓮が確定な言い方、かと思いきや、趣味が悪いと言われ流石に苛立ち、そんな事はないと、つい言ってしまえば、鈴は吹き出した。
「…だから、いま、それについて色々考えてる所なの。このドキドキと、モヤモヤの意味を」
かまをかけられたと、気がつき、鈴に隠すのもめんどくさくなり、今はまだ考え中だといえば、彼女は、意味が分からないと眉を顰めた
「はあ?なにそれ?考えてどうにかなるもんでもないでしょ?単純に、今みたいにムキになった時点でそれが好きってことじゃないの?」
「た、たしかに…」
「てか、何を考えるわけ?今あんたのそのモヤモヤしてる時点で、アイツのこと考えてるじゃん」
たしかに、鈴の言うとおりだと思う
実際、最初からかっこいいと思ってたし、目が合えば変に緊張してしまうし、あの時助けてくれた時も、正直嬉しかった。
王蓮のことを異性として好きなのかと言われたら、もう答えは出ているのだ
「その通りかも」
「でしょ?いちいち考えてる暇があるなら、アタックするなり、ライバルを消すなりしたら?アイツ顔だけは天明さんに、ちょぉーっとだけ似てるから、あんたが考えてる間に変な虫がつくかもよ?」
「え?」
変な、虫がつく…??
実際鈴に言われて想像してみれば、すごく嫌な気持ちになった。
確かに王蓮は、外見も中身も申し分ない。
私の勝手なイメージで、彼が簡単に誰かのものになるタイプではない…なんて、思っていた。
ただ、そう勝手に思い込んでいたから、余計に鈴の言葉に返す言葉が出なかった。
「ホラ?…やっぱり、取られたくないんでしょ?だったら、すぐ行動よ!好きなら、好きって言って来なさい」
「は?!こ、告白ってこと?!」
「うん。当たり前でしょ?それでダメだったら、また振り向かせればいい話でしょ?」
私だって、天明さんに一度断られてるし、と衝撃の事実を軽々と言ってのける彼女には、驚いた。
一度断られても、それでもめげずに、あんな、彼女みたいに振る舞えるのは、流石にすごい根性だ。
鈴には、振られても諦めるの文字はないらしい、けれど、
「む、むりむりむり!!」
私は、そんなに強くない。
初めて、いいなと思った相手から断られたら、正直言って、立ち直れる自信はない。
断られても、諦めないで振り向かせようと思える鈴には、本当に心から凄いと思う
「ふーん?…まぁ、あんたの恋愛だから私は関係ないし、どうでも良いけど」
「…ごめんね、話聞いてくれたのに」
「べ、べつに?ただの暇つぶしだし!」
結構乗り気で聞いてくれてたと思うけれど、鈴は素直じゃないらしい。
でも、そんな彼女がなんだか可愛く見えて、弟子として、師匠と上手くいけば良いな、なんて思ったのはまだ秘密だ。
「ま、まぁなんかあったら相談乗ってあげるわよ!」
腕を組んで、偉そうにしているが何となく鈴の性格が掴めて来たかもしれない。
偉そうには言っているが、また相談しにおいでと言っているのだろう
なんだか、彼女に対してのイメージもガラリと変わり、未だに捕虜の身ではあるけれど、いい友達になれそうだと思った
「ふふ、ありがとう」
□□□
ある薄暗い部屋の一室で、指の爪をカリカリと噛みながら、目の前で頭を下げる男達にイライラしていた。
「鴉に入り込めたと思えば、連絡が取れないってどう言う事?!…っち。やっぱり血薬は面倒だね、先に狼から潰せばよかった!!」
「すみません!鈴様は洗脳が解ける筈はないのですが…」
「でも、りんから連絡がないよね?…じゃあ、もう洗脳は解けてるってことじゃん!!」
「しかし、まだ洗脳されている者が潜んでおりますから」
「だったら、なんであいつから連絡がない?龍家に先手取られてるって事でしょ?そのくらい考えたら?」
鈴の洗脳と父さんの洗脳が解けている今、正直言ってこっちから動くのは危険だ
どれだけ洗脳をかけても、父曰く万能薬には勝てないと言っていた事が、冗談ではなく本当だったらしい
だったら、龍家さえいなければ、僕の計画は全てうまくいっていた。
けれど、その厄介な血のおかげで全てが水の泡
血薬について、もう少し調べてから行動するべきだったけれど、興味本位で動きすぎた僕のミスでもある。
人間から吸血鬼になった海の血に興味が湧いたばかりに…
「…まぁ、いいや。洗脳が効かないなら、こっちにもまだ手はあるから」




