夏休みの終わり
今日は色々とありすぎて、時間も遅くなり焦っていれば、猿田が叔母さんに連絡してくれて、今から送ってくれることになった
いつもの様に猿田と一緒に帰るだけなのに、ボスの『洗脳されているかも知れない』の一言があり、なんだか身構えてしまう
ついさっき、ふたりになるのはなるべく控えたほうがいいと言われたけれど、急に猿田を避けるのも変な話
猿田の事は信じているし、なんとなくだが大丈夫だと思うのは、完全に私の勘だ
しかし、白蛇がどうやって洗脳しているのかも分からない今、やはり不安になるのは仕方のない事である
家に帰る間、赤信号で止まればポケットから小瓶を取り出し、ぽちょんと目薬をさす猿田の姿を見て、目が悪いの?と尋ねればただのドライアイらしい。
最近の流行りに乗ろうと、スマホばかり見てるから目が乾くんじゃない?と言えば、流行に乗るのは大事だろ?と言われた
「お前、あれ知ってる?吸血鬼の話を都市伝説って言って配信してるやつ」
最近は全く動画を見ていないので、なにそれ?と首を傾げれば、マジで知らないのかよと呆れた表情で私を見てくる。
相変わらず彼の言い方にムッとなり、青になったよと前の信号機を指差せば、猿田はすぐにアクセルを踏み込んだ
運転中の猿田の隣で、その動画を検索しようと、EDENの動画サイトのアプリを開き[吸血鬼都市伝説]と検索すると、すぐにそれらしき配信がいくつか出てきた。
けれど、似た様なのが沢山あって猿田が見ている配信者がどれなのか分からない
「沢山あるんだけど、強ちゃんが言ってるやつはどれ?」
「えーっと…なんだっけ、なんか白い仮面被ったやつ」
「白い仮面?うーん…あ!これかな、エコって人?」
白い仮面の配信者を見つけタップすれば、機械で声を変えた動画が再生した。
動画は、吸血鬼についての話を語っており、エコの話す吸血鬼の情報は、昔の映画に出てくる吸血鬼のままで、なんだか最近まで私がイメージしていたのと同じ。
「これ、最近すげぇ流行ってるんだってよ?」
「へぇ〜?でも、この人が言ってる吸血鬼って全部違うよね?」
「まぁね、全部当たってたらそれはそれでまずいな」
猿田によれば、この配信者は最近現れたようで内容はやけに吸血鬼のことばかり。
最初の方は全然人気もなかったけれど、最近では都市伝説好きなオカルト信者がこの動画に目をつけ、少しずつ人気が出てきたらしい
それに丁度この季節は、こういったオカルトやホラーな内容がウケるらしく、こういう内容は結構人気なんだとか
「で、強ちゃんもハマって見てるってこと?」
「まぁ〜…そういうことだな」
「そんなにおもしろいんだ?」
「んー…面白いっつーか、最近は死人が混血を襲うニュースに焦点を当ててるみたいでさ、その謎について詳しく調べようとしてるっぽくて、まぁ俺的に心配してる」
「え、なにそれ?大丈夫なの?」
「分からん、だから俺はこいつの配信を見て見張ってんの!」
「…それ、意味ある?」
この配信者が真相に辿り着かないように、この動画を見て監視しているという猿田に、それは監視じゃなくて、ただのファンじゃん。なんて、思ったけれどそこには触れないでおいた
でも、実際この配信者が吸血鬼のことを調べ始めているのは、あまり良くないんじゃないだろうか?
まぁ、でも私が心配しなくても、そこは王蓮や他の人達がうまく対処するはずだし、気にしなくても平気だろう
チラリとまたエコの配信に視線を戻し、たまたま視界に入った動画の日付を見て、思わず声を上げた
「わっ!なに急に??」
「きょ、強ちゃん!?やばい!後1週間で夏休みが終わちゃう!!」
「はぁ?…そんな事で急に叫ぶのやめてくんない?事故るよ?」
全然日付を見てなかった私も悪いのだけど、たまたま目に入った日付に驚いて声を上げてしまえば、急に大きな声を出すなと注意された
「だって…私、宿題全然してないんだよね…」
「はぁ?!やば…」
すっかり宿題の存在を忘れていたので、全く手をつけていないことを伝えれば、私の焦る理由を理解した猿田は、顔を引き攣らせる私と全く同じ顔をした
どうにか、この1週間で宿題を終わらせるためにバイトと死人狩りを休ませてもらえないかな?と言えば、そこは気にしなくてもいいと言われたが、また私のミスで、迷惑をかけてしまうと思うと、正直申し訳ない
猿田にも、ごめんと言えば、お前の本業は学生なんだから気にするな、なんて優しい言葉が帰ってきた
いつもは、くだらない事ばかりを言っているイメージの猿田だけれど、たまに言う大人らしい言葉に、改めて彼はちゃんとした大人なんだなと実感した
次の日、風太郎にバイトの事で電話をかければ、それは休んでもいいと言われ、宿題が終わるまで休む事になり、ついでに風太郎が王蓮へ連絡してくれるとの事なので、お礼を言って電話を切った。
電話を終え、ノートを開き久々に剣ではなく、シャーペンを手に握ると、なんだか変な感じがしたのは、手が柄を握り慣れたからだろうか
ここ1ヶ月ちょっとで、いろんな経験をしたのは、あの猿田のおかげ。
最初は死にかけはしたけれど、吸血鬼化した事で、体の調子はとても良い
毎日、吸血鬼の血を飲まなければならない事だけを除けば、健康的に毎日を過ごせている
昔のつまらない夏休みは、今年は出会いもあり楽しい夏休みになったけれど、その分怒涛の夏休みでもあった
けれど、その日々も学校が始まればまた変わってくる、この夏休みは終わるけれど、その分また新しい日々が始まるのだから、名残惜しむのはやめよう
とりあえずは、この手元にある宿題を終わらせなければならない。
1週間後の新学期までは、目の前のノートと自分との戦いが始まる




