一目惚れ
天明side
かちゃりと扉を開けて中に入れば、甘い血の香りが室内に広がっていた
銀の手錠をした金髪の、海と同じぐらいの年頃の少女は、俯いたまま動きがない
太ももからポタポタと落ちる血は、床に血溜まりを作っており、敵ながら可哀想に思えてくるのは、この子が海と重なるほど幼い子だから
王蓮にあとは任せたと、血液と救急箱を渡されゆっくりと少女に近寄れば、少しだけ動いた頭
「…なに、よ」
俯いたまま、話す事はない!と怒鳴られ確かに王蓮の言っていた通りだと納得した
しかし、今はその出血を止めないと本当に枯渇して死んでしまうだろう
せっかく捕まえた白蛇の情報源に、ここで死んでもらったら困る
海の事を、襲った相手を治療するのは、正直嫌ではあるが、今は仕方がない
そっと近づけば、ほっといて!とまた大きな声をあげる少女にため息が溢れる
まるで、慣れない犬の様にギャンギャンと吠える少女に、苦手だと思いつつそっとしゃがみ込み、彼女の太もものに手を添えた
「っ…!さわらないでよ、へんたい…!」
傷の具合を見て、皮膚の中に銃弾が残っていないか確認しようとしているのに、バタバタと足を動かす少女は、僕の事を変態だと叫ぶ始末
「変態?僕は、傷を治してあげようとしてるのに…失礼じゃない?」
流石に変態扱いは酷い、せっかく治療してあげようとしているのに、まったく口の悪い子だ
「…っ誰?!」
少女は僕の声を聞いた瞬間、勢いよく顔を上げしゃがんでいる僕見た。
その瞬間、彼女のチェリーピンクの瞳が視界に映りこんだ
僕とは違う、薄いピンク色の瞳はどこが柔らかい印象に見え、勝手に思っていた外見とは全然違っていた
視線が重なった途端、急に少女は大人しくなり小さな声で何かを呟いていたが、上手く聞き取れない
「…え?」
しかし、とりあえず大人しくなった彼女の様子に、急いでピンセットで銃弾を取り出し、腕に注射針を刺し血液を投与すれば、みるみるうちに治っていく傷口
綺麗に治っていく傷を眺めながら、家の壁穴もこうやって治ればいいな、なんてついつい関係ない事を考えてしまう
30分が経った頃、ようやく動きを見せた少女は声をかけた途端、急にポッと顔を赤らめたかと思うと、意味の分からない事を言い出した
「あ、あの!!ひ、一目惚れしました!!」
急な一目惚れという言葉に、意味が分からず後ろを振り返るが、そこには誰もいない。
少女に、僕?と指を差すとコクコクと力強く頷き、お名前は!?と目を輝かせた
「僕は、龍天明だけど」
「あ、貴方が龍天明?!…うわぁ、龍家かよ。いや…でも、めっちゃめちゃタイプ!」
名前を言った途端、ボソボソと語りだし少女はうーんと唸り、またこちらに視線を向け、鈴です!と自己紹介を始めるものだから、なんだか調子が狂う
「あー…りん?聞きたいことがあるんだけど」
「はい!なんでも聞いてください!」
「ん〜、じゃあ、君は一体誰なの?」
「私?私は夜野鈴、父が人間で母が吸血鬼の混血です、年は16で、彼氏もいません!」
「…へ〜、混血なんだ?それで白蛇に入ってるの?」
「そうです!…あ、もしかして混血はお嫌いですか?!」
潤んた瞳でこちらにハートを飛ばしてくる鈴は、先ほどの慣れない犬ではなく、完全に懐いた犬
気が強いタイプの扱いには慣れているけれど、こういうタイプは正直、初めてでどう対処していいか分からず、とりあえず苦笑いを浮かべた
「別に、嫌いじゃないけど…」
「そ、そうですか?!ちなみに天明さんは、その…か、彼女はいますか?!」
意味不明な質問だが、真剣な表情で訪ねてくる彼女に、別に嘘をつく必要もなく、正直にいないと答えれば、ぱあああっと花が咲いた様に満面の笑みを浮かべ喜んでいる
「あの!天明さん、私と付き合ってください!」
彼女の突然の告白に呆気に取られ、は?と声に出せば、鈴は手錠に繋がれたままだと言うのに、自分の状況を忘れ、彼女にしてくださいと真剣な眼差しを向け、志願してくる
「…えーと、ごめん」
正直、まあ可愛い子だなぁとは思うが、この状態でOKなんて返事を返す程、僕の神経はおかしくはない
でも異性に好かれるのは嬉しいし、好かれないよりは断然いい
しかし、仮にも相手は白蛇の子、それに大事な弟子を傷つけた子だ、それに好きとか嫌いとかの問題ではなくて、彼女は捕虜なのだ
まさか捕虜に、自分が好意を持たれるとは思っておらず、正直困惑はしている。
「…そ、それは他に好きな人がいるってことですか?」
「…え?」
「そ、それなら諦めます!…いや、でも結婚してる訳じゃないし、まだワンチャンあるか…」
「…いや、そう言う事じゃないよネ?」
「え?じゃあなんでダメなんですか?!」
なんでダメって…君は捕虜でしょ?
自分の立場を忘れるなと、伝えるが彼女は全くめげる事なく質問してくる
「え、捕虜は恋したらダメなんですか?!」
「んー…ダメというか、僕は僕の家族を傷つける子は嫌いだよ」
はっきりとそう言えば、彼女は眉を八の字にして、ぽろりと涙を流し始めた
まさか、泣くほどとは思わず、ギョッとしていれば、彼女はわんわんと子供の様に泣き出す始末
流石の様子に、仕方なくポケットからハンカチを取り、溢れる涙を拭ってやれば、つー…と彼女の鼻から真っ赤な血が垂れた
「優しい…好き」
「ねぇ君、鼻血出てるヨ…?」
なんか、変な子に気に入られたみたいだ




