縄張りと印
相変わらず、暗く薄気味悪い廃墟を眺めながら歩いていれば、所々に十字架に巻き付いた白蛇の絵が、壁や柱など、至る所に描かれていた
「あれなに?」
描かれた絵を指差し、一緒に歩いている猿田に聞けば、彼は白蛇のマーキングだと
「ここは俺らの縄張りだってマーキングしてんだよ、もちろん俺らもしてるよ」
「あ、なんかたまに見かけるなって思ってたんだけど、あれってそういう事!?」
言われてみれば、よく目にしていた気がする
学校に行く間の道の壁や、路地裏などに王冠に乗る鴉のイラストが書いてあったのを、かっこいいなぁ〜なんて眺めていたが、それがまさか組織のマーキングだったとは、思いもしなかった
「いや、気がつくの遅くね?」
猿田の説明に、謎が解けたと言えば相変わらず呆れた顔で私を見てくるけれど、言われないと分からないよと返せば、聞いていた風太郎もそうだよねと、頷く。
「ここは北と南の境目だから、ちょうど白蛇と鴉の境界線なんだよ」
「あの線から超えたらダメ!みたいなやつですか?」
「ははっ、まぁダメってわけじゃないけど、暗黙のルールだよ。自分達の縄張り内で問題を起こせば、容赦しないよってだけだね」
「そうそう、お互い縄張り内では人間や吸血鬼には手を出さない決まりなの」
だから、別に行き来しても問題はないんだよと、微笑むマリになるほど、と納得
「でも、それを無視してズカズカ入って来るのが、あの白蛇。勝手に死人を放って吸血鬼達を襲ったりするから、タチが悪いの」
「しかも自分が混血だって、知らない子達を襲うからよくニュースにもなってるよ。不審者に襲われたとかね」
ニュースはあまり見てないので、そんな大変なことになっていたなんて知らず、ただただ今まで呑気に暮らしていた自分が申し訳ない
それに自分が混血だと、未だ知らずに暮らしている混血の子たちを襲うのは厄介だ。
「ニュースって…やばくないですか?」
「うん。だから、アイツらが襲う前に、こうして俺達が塵にするしかないんだよ」
突然、立ち止まった3人に合わせて私も足を止めれば、近くからグルルと唸る死人の声が聞こえた
右足のホルスターからハンドガンを取り、音のする方に視線を向けると、暗闇の中でゆらりと動く影
「…来た」
風太郎の声と共に、暗闇の中から数人の死人が此方へと向かい走ってくるのが分かり、両手でハンドガンを握りしめると、迷わず引き金を引いた
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王蓮side
「は?…日本に来てんの?」
『あぁ、仕事の都合で暫くこっちに滞在する予定だよ』
久しぶりに旧友に連絡をすれば、アダムは日本に帰って来ていると。
「へぇ?じゃあ近々会おうか」
『そうしよう。久々に会う事だし…飲みに行くかい?』
「へぇ〜…いいじゃん」
12年ぶりに会うのだから、もちろん飲むのは賛成だ。
風太郎も混ぜて、久々に3人で飲む約束を決めると、とりあえず電話を切った
今日は、もう直ぐ行われる株主総会もあり、会社はその準備で忙しないが、後は優秀な透に任せ自室に戻り社長椅子に腰掛けていれば、コンコンと扉をノックする音が耳につく
「社長、龍 明凛様がいらっしゃっております」
日本に来る、とは聞いていたがまさか職場まで来るとは思わず、一瞬顔を顰め…仕方なく扉越しの透へと返事を返せば、静かに扉が開いた
やけに甘ったるい匂いを漂わせながら、派手な服装をした明凛は、コツコツとヒールの音を立て俺に近づくと、自信気な笑みを向けてくる
「久しぶりね王蓮、相変わらずで安心したわ」
久しぶりの中国語に、懐かしさを感じたが明凛の中国語に釣られる事なく、日本語で返事を返していく
「何しにきた?」
「何しに?会いに来たに決まってるじゃない?」
「仕事場に来られても困るんだけど」
「え?…ねぇ中国語で話してくれない?日本語まだ分からないんだけど」
「まず、俺に会いに来る前に、日本語の勉強してこい」
未だに日本語が理解できない明凛には、言葉の意味が上手く伝わらず、彼女は目を瞬かせ首を傾げるだけ
「天明はどうした?」
言葉の壁とは難しいものだと、仕方なく中国語で返せば、明凛はあからさまに嫌そうな顔を浮かべ、当たり前の様にソファーに座り込むと、足を組んだ
「天明は、5階の食堂に行ってるわよ」
来る途中でお腹が空いたからって途中で別れたという明凛に、小さなため息が溢れた
「ねぇ、私達もディナーでも行かない?」
まだ食べてないでしょ?と赤い瞳で見つめてくる明凛に視線を向ければ、どこか自信のある明凛に眉を顰め、行かないと返事を返す。
「別にお腹すいてない」
「ふーん?じゃあ飲みに行く?」
「行かない、まだ仕事がある」
「じゃあ、終わるまでここにいるわ」
やけに引かない明凛に、さらに深く眉間に皺を寄せれば、明凛は楽しそうに微笑んだ
「はぁ…勝手にしろ」
天明と同じく、言い出したら聞かない明凛も面倒臭い。
どうせ、また下らない事でも考えているんだろうと、こちらを楽しそうに見つめてくる明凛を無視し、机の上に積み重なった書類に目を通した




