表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/170

黒騎士、ライバルといがみ合う。

「あー、やっと休めるぜー」


 我等一行が野営地を予定としている洞窟内の安全を確保し、トモエとエリスが魔物避けの魔術を施している最中、疲労困憊の様子のマサヤが大の字になってその場に倒れながら声をあげた。シオンも岩壁にもたれ込みひと息ついている。フッ、情けない。


 我が君、マツリが皆に特訓を強いてから四日が経過した。

 我々が滞在しているこのフロアは第四階層だそうだ。常に霧雨が降り続ける、地面の泥濘んだ湿地地帯。出現する魔物は強いというよりも厄介な特性を持つものが多い。特に地面に姿を隠し近付く者に奇襲を仕掛けてくるスライムがその代表だろう。

 だが、感知能力に優れている我とシオンの前ではその奇襲も意味を成さない。フッ、我が能力を以ってすればこの程度の隠密看破など造作もない。だから我以上の感知能力だと我が君に評価されたからと言って調子に乗るなよシオンめ。


 しかし、我と我が君以外の異界人パーティーにとってはこのフロアは既に攻略してきた場所。多少は勝手知ったるといったところのようだ。

 だが、全員が我が君より課せられた特訓内容による行動制限を伴った戦闘を繰り返しているが故に疲労はその時の比ではないだろう。特に術者タイプではないこの二人は肉体的負担が他の者よりも大きい様子だ。


「フン、この程度で根をあげているようではまだまだだな」


 そんな様子の二人を一瞥し鼻で笑ってやる。軟弱者どもめ。ざまぁみろ。


「んな事言うならお前も生身で同じ戦闘してみろよ。ちょっとはオレ達の苦しみが理解できるだろ」


「無意味な鍛錬に身を費やすつもりはない」


 シオンの抗議を一蹴してやる。やれやれ、愚かな提案だ。我が秘術は貴様らのような汗水流しての肉体労働等不要であると知っているだろうに。


 それにしてもやはりこのシオンという男、気にくわん。この世界の現地の人間でありながら、神の権能を持つ我等異界人に匹敵する実力を有する数少ない男。その事自体は評価している。しかし……。

 ルキュシリア神の権能を持つエリスの手によって特殊なスキルを与えられ、彼女の力を借りる事でその真価を発揮する。逆に言えば、エリスの協力を得られない場合は大した実力は出せないという程度だ。

 すなわち、所詮はルキュシリア神の権能の付属品でしかない。その程度の輩がでしゃばりおってからに。心底気にくわん。


「……何だよ、何か言いたい事でもあるのかよ?」


 迂闊な事に、シオンの事を考えているうちに無意識にそちらに目を向けてしまっていたらしく、本人から苦言を言われた。フン、シオンのくせに生意気な。


「貴様程度の輩に特別意識を向けるわけがなかろう」


 我は適当に誤魔化しながら余所の方を向く事にした。下らんな。これ以上構ってられん。


「そうかよ。ま、どんな時でもマツリばっかり見てる騎士様だしな」


「貴様……」


 それ以上口に出したら許さんぞ、という気持ちを暗に込めて視線をぶつける。此奴め、我を脅すつもりか。


 以前の休息の際にマツリとエリスが入浴している時に起きてしまった忌まわしき事件……いや、まあ、全面的に我が悪いのだが。

 我はその時の出来事を皆には固く口止めさせている。あんな事をマツリの耳に届かせるわけにはいかない。黒騎士という我の硬派なイメージを崩させるわけには。もう既にかなり瓦解している気がするが、ともかくとして、だ。

 今シオンはその事を暗にネタにして脅しをかけてきているのだ。おのれ卑劣な。


 直接口に出して注意するわけにはいかないので、必死なアイコンタクトで伝える。我の目は兜越しだが。




 話せばただではおかんぞ貴様!


 ならお前こそ少しは態度を改めろ。


 フン、貴様ごときに改めるものなど何もない。


 あー、たった今オレの口が羽のように軽くなっちまった気がするなー。


 よせ馬鹿やめろ! この性悪め!


 それが人にものを頼む態度かよ?


 ぐぬぬぬぬ……覚えていろよ貴様……。




「フフッ、結構仲良くなってるじゃない?」


「仲良くない!」


 我とシオンの無言のアイコンタクトの応酬を眺めていた我が君の呟きに、我とシオンは揃って否定した。おのれシオンの分際で。真似をするな。


「はいはい、準備できたし食事にしようよ。ユート君も出てきてさ」


 そうこうしているうちに、アユミが時空間魔術によってダンジョンの外から持ち込んだテーブルに、人数分の料理が並べられた。

 我の事は黒騎士と呼べ。アユミの言葉に文句を言いながら我は……俺は黒騎士の鎧を開き外に出た。

 この場にいる全員に既に素性を知られている以上、無理に俺の姿をひた隠しする理由もない。料理もまあまあ美味しいしな。


 それまで地面にへたり込んでいたシオンとマサヤも立ち上がり席に着いた。全員が食卓を囲み、誰ともなしに言ったいただきますの言葉を合図に食事を始める。うむ、美味い。


「アユミはあんまり疲れてなさそうだな。結構前線で動き回ってるってのに」


「ん? 疲れてないわけじゃないけどね。君達と違って攻撃手段は時空間魔術だし。それに、まさか今になって成長できるなんて思ってなかったから戦うのが楽しくてね〜」


「え、アユミさん成長したんですか!? 駄目ですよそれは! アユミさんのアイデンティティなのに!」


「どこの話してるのかなーエリスちゃんはー? なに? ケンカ売ってんの?」


「悲し過ぎるだろそんなアイデンティティ」


「そんな事ないわよ。羨ましい体型だわ」


「うむ、貧乳はステータスだ!」


「はいもうこの話題終了ー! これ以上続けた奴はお食事ボッシュートだからね!」


 最初こそ道中の戦闘の話題だったが、いつの間にか脱線しアユミがコンプレックスにしている胸の話題になっていた。やれやれ、下らんな……と思っていたが、まさかマツリがその話題に乗ってくるとは思ってもいなかったので少々驚いた。アユミが強引に打ち切る形で終わったが。

 マツリは自分の胸の大きさが気に入らないらしい。そんな事はない、素晴らしい胸だと力説したかったが自重しよう。黒騎士はそんな事言わない。こんな事で白い目を向けられたくはないしな。なので心の中で叫ぶに留めておくとしよう。大きい事は良い事だ!


「でも、アユミだけじゃなくて全員この短期間でしっかり力を付けてきているみたいで安心したわ。このダンジョンを出た後も鍛錬を習慣づければ、もっと実力が伸びそうね」


「げぇ、こんなキッツいのを外でも続けるのかよ?」


「別にそこまで厳しい内容にしろとは言わないけど……そうねぇ、その時のメニューも考えてあげるわ。全員分しっかりね」


「それってやっぱりキツい内容になるんじゃ……」


 マツリの提案にほとんどの者が顔を引きつらせた。軟弱者どもめ。俺は当たり前のようにマツリの指示した錬金魔術の鍛錬を受けるだけでなく、帝国では剣聖相手に剣技の稽古をしていたのだぞ。それくらいこなせずして何が神の権能か。


「鍛錬はともかくとして……ダンジョンを出た後はどうするつもりなんだ、アユミ? 異界人全員の所在は把握できたんだ。そろそろ予定を固めておいてもいいんじゃないか?」


 シオンが話題を逸らしつつ、アユミにそんな話を振ってきた。

 異界人はこの世界を創世した神々の数と同じ、七人存在しているという話はマツリから聞いている。この場に居る異界人は六人だが、もう一人の異界人の所在は既に把握しているという話だった。ダンジョン探索以前のシオン達が把握できていなかった異界人は俺一人だけだったというわけだ。


「ん、そうだね。とりあえずこのダンジョンから出た後は、予定しているサーグラ国との会談の日までは自由行動。マツリちゃん達もボクの屋敷で寝泊まりしてね」


「わかってると思うが、能力を使って街中の人を洗脳したりすんなよ?」


「はいはい」


 アユミの話を補足するように、シオンがマツリに注意する。マツリは自前の小さな鞄から自らの顔を覆い隠す為のベールを取り出して見せながら頷いた。シオンのくせに我が君に指図するとは何事か。


「サーグラ国に向かう時は、前に言った通りみんなを護衛として雇うからそのつもりでね。それまでにマツリちゃんとユート君も冒険者登録しておいてね」


「ええ、わかったわ」


「心得た」


 俺はこの世界に来た当初は冒険者として活動していたので冒険者証こそ所持しているが、それは敵対国であるヴァスキン帝国の冒険者ギルドで作成されたもの。それをこちらに持ち出そうものなら混乱の種になってしまうだろう。ここ、アーヴァタウタ大国で改めて冒険者登録を行うのが妥当か。

 マツリは冒険者を志望するには些か若すぎるが、冒険者は実力が全て。マツリの身体能力を鑑定して貰えば文句は出ないはずだ。というか、此奴らが推薦してくれるはずなので心配はないだろう。聞くところによるとアユミは相当な地位を持つ人物らしいからな。


「で、サーグラ国に着いたらリーフェルトが会談している間にボク達はイサミ君に接触、事情を説明して協力してくれるように頼む方針だね」


 リーフェルト、という人物は確か、アーヴァタウタ大国の王子だったか。国内トップの人物を呼び捨てにしているのはこの際目を瞑るとして。

 そしてイサミという人物が目的の最後の異界人か。確かその権能は、豊穣と狩猟の神、グリア神の権能だったはずだ。


「そう上手く事が運ぶか? 協力って要するに引き抜きだろ? 権能持ちなんだから、サーグラ国の騎士団の重要な戦力になっている可能性が高いだろ。そんな人物を簡単に提供してくれるとは思えないんだが」


 そこでシオンから疑問の声が上がった。権能持ちの人物が既に騎士団に所属しているのなら、騎士団からすれば実力者をおいそれと手放すはずもない。揉めてしまう可能性が高いだろう。


「そこはほら、ボクって神託の巫女だし?」


「出た、アユミさんお得意の職権乱用」


 その質問に対してアユミはフォークとナイフを置き可愛くダブルピースしながら自分の役職を宣言する。エリスがそれに対して笑いながら突っ込むが、こいつ何をするつもりだ?


「あはは、まあ、別に無理に引き抜こうとは思ってないよ。イサミ君を借りるのはジャバウォックとの決戦の時だけにするつもりだしさ。事前にその時の説明でもしておけばいいんじゃないかな?」


 先程の発言は冗談だったらしく、アユミはそれらしい落とし所を語った。確かに、同じ異界人だからと言って全員が常にひと固まりになって行動する必要はない。あくまでもジャバウォックの討伐という目的を達せられれば良いのだ。予定している会談は全員の顔合わせの意味合いが強いのだろう。


「で、サーグラ国との会合の後はいよいよジャバウォックの捜索だね」


「探す方法があるのか?」


「んー、これに関してはちょっと手探りになるんだけどね。でも、一応はその手段は考えてはいるよ」


 この世界に厄災を齎す魔物の王、ジャバウォック。其奴の捜索に関してもアユミには既に案はあるようだ。


「ジャバウォックが生み出しているバンダースナッチの出現頻度が高い地域から探して行こうと思ってるよ。ついでにバンダースナッチの駆除もしながらね」


「ん、まあ確かに、バンダースナッチを生み出し続けているならジャバウォックの近くに多く現れるのが普通か。でもあいつ、お前みたいに空間転移ができるみたいなんだが、その辺は大丈夫なのか?」


「ボクの近くで転移したならそれを感じ取れるよ。転移先も多分把握できる。捕捉さえできれば追跡し続けられるはずだよ」


 アユミが準備していた案を語り、シオンをはじめとした皆が質問する。暫くはそのような形で今後の活動予定を語り合った。ジャバウォックなる魔物との決戦の時は近い、か。


「……ところで、そのイサミって奴のグリア神の権能はどんな能力なんだ?」


 会話が小休止した時を見計らって、俺は疑問に思っていた事をアユミに尋ねた。アユミは神々から直接それぞれの権能の力について聞いているという話だったからな。


「グリア神の権能は主に身体能力強化だよ。特に感知能力に特化してて、普通の人間の感知能力よりもかなり特殊な強化がされているんだって」


 アユミはすぐに俺の質問に答えてくれた。ふむふむ、身体能力強化。主に感知能力、か。


「つまり、イサミって奴はシオンの上位互換みたいな実力って事か」


 それを聞いた俺は、似たような身体能力を持っているシオンを一瞥しながら言ってやった。おいおいシオン君? イサミが参戦したら君の立場はなくなってしまうのではないかなー?


「別に異界人と張り合うつもりはねーよ」


 俺の言葉にシオンは苦い顔をしながらも、否定はせずにそんな事を宣った。負け惜しみか? フッ、無様な奴め。


「一概にそうとは言えないわよ。シオンの融合気功術やエリスの神聖魔術による強化適性は他の人にはない長所だし」


 しかし思いもよらぬ人物からシオンを弁護する声が上がった。ぐぬぬ、シオンめ。マツリに評価されているからと言って調子に乗るなよ。


「だそうだぜ? お前の主人はお前とは正反対な事を言ってるぞ?」


「フン、我が君の心遣いがわからんかこの愚者が。せいぜい憐れみに縋っているがいい」


「フフフッ、あなた達、本当に仲が良いわね」


「仲良くない!!」


 どういう訳か楽しそうに呟くマツリの言葉に、またしても二人揃って否定したのだった。おのれシオンの分際で。真似をするな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ