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正しさとは。

 シオン達を取り囲んでいた、黒騎士の姿を模した石造りのゴーレム達が動き出した。一斉に大槌を振り上げ、シオン達に殺到し始めたのだ。

 シオンとマサヤはその攻撃を身軽に躱し、トモエは魔術で迎撃してそれに対抗する。エリスとアユミは、エリスが発動した結界魔術によって接近を阻んでいる。エリスのほうは最も安全だろう。


 シオンもゴーレムに反撃するが、岩石の身体を断ち切り破壊するのは生半可な威力では成し得ない。一太刀一太刀に相応の力と魔力を込めなければ倒す事が難しい。そのうえこのゴーレム達も厄介な事に並々ならない強さをしていた。

 その巨体からは考えられない程に機敏な動きをし、大槌を巧みに操ってみせるのだ。シオンは錬金魔術については詳しくないが、これ程の数のゴーレムを術者が常に操る事はできないはずだ。ある程度の行動パターンを組み込み自動で動いていると考えるべきだろう。にも関わらずこれ程の動きをされるとは。素人目に見ても恐ろしい技術だ。


「へぇ、ただの木偶の坊じゃないのね? ちょっとだけ見直したわ」


「貴様の評価等我には関係ない。此の力は唯、我が君の為に在る」


 その光景を作り出した黒騎士を、悪態混じりに褒めるヴァルキリー。それに対して素っ気なく応える黒騎士、ユート。やっぱり仲が悪いのかこの二人。


「くっ、最後の異界人がマツリの側に着いてるとか! しかもこれっ……強過ぎるだろ!?」


「予想の遥かに斜め上の展開だな! キャラクターは重度のチュウニビョウキャラと見た! 俺が言うのも何だが個性的な面子ばかりだな!?」


 悪態を吐くシオンに笑いながら軽口を叩きつつ魔術を発動し近付くゴーレムを屠るトモエ。チュウニビョウってのはよくわからないが個性的ってのは認める。本当にお前が言うなってヤツだが。てか、案外余裕あるなお前?

 そう思っていたのも束の間、マツリの側にいる二体の上級精霊が、それぞれ魔法をトモエに向け放ってきた。マツリのほうも動き出したか。


「やはり精霊達も俺を優先して狙うか! フハハハハハ! 軽くピンチだな!?」


「笑ってる場合か! 打開策はないのかよ!?」


 トモエはどうにか精霊とゴーレムの攻撃を迎撃できてはいるが、攻めに転じる事はできていない。このままではジリ貧だ。


「最も効果的であろう手段は、やはり術者を叩く事だ! 術者の意識が無くなればゴーレム達も動きを止めるはずだ!」


「成る程、案外シンプルな答だな! 術者自身がデタラメな強さじゃなければだけどな!」


 この大量のゴーレムを生成した張本人、黒騎士、ユートを倒せばそれらゴーレムも止まる。しかしそれがどれだけ実現困難な事であるかも理解している。相手は身体能力が断トツに優れているマサヤと互角に渡り合える剣技を見せつけていた人物なのだ。そんな輩を簡単に止められるとは思えない。

 というか、自身がそんなに強いというのにこんなにも大規模な錬金魔術まで使えるとか、理不尽にも程がある。意味がわからない。今までマツリがとんでもない強さだと思っていたが、ユートも負けず劣らず大概な強さをしている。バランスが悪過ぎるのではないか神々の権能よ。


「……ああっ! 納得いかねぇっ!!」


 唐突に声を荒げたのはマサヤだ。それまで迫り来るゴーレムの相手をしていたが、それらを振り払い無視しながら真っ直ぐに黒騎士の元へと駆け出した。

 トモエの解決案を実行してくれるつもりなのだろうか。しかし何に納得がいかないのか?


「てめぇっ! ユートって言ったか!」


 そして黒騎士、ユートに肉薄し振り下ろされた剣を、ユートは両の剣で受け止める。互いの剣がぶつかり、またしても鍔迫り合いが始まる二人。そしてユートに向かい怒気を孕みながら語りかけるマサヤ。


「我の事は黒騎士と呼べ。その名を口にする事が許されているのは我が君だけだ」


「知るかんなもん! てめぇ、俺達と同じ異界人なんだよな!? ならてめぇ、マツリに洗脳されてるわけじゃねぇんだよな!?」


 呼ばれ方を訂正させようとするユートを無視し続けられたマサヤの言葉にシオンははっとした。そうだ。今までは唐突な展開とゴーレムの相手でいっぱいいっぱいで考えが及ばなかったが、ユートも異界人であるならばマツリのイーヴィティア神の権能の影響は受けていないはずだ。

 マツリに洗脳されていないにも関わらず、マツリに忠誠を誓っていると思われる言動。それはつまり、この男は自分の意志でマツリに協力しているという事になるのではないか。


「それが何だと言うのだ?」


「納得できねぇって言ってんだ! 理解できねぇ! てめぇはマツリの言ってる事が解ってて協力してんのか!? あいつの目的が正しいと本気で思ってやがるのかよ!?」


「レシオン! あいつから先に……」


「待て、我が君よ。此奴の相手は我に任されよ」


 マサヤの発言を危惧してか、ヴァルキリーに指示を送ろうとしたマツリだが、ユートはそれを制しながらマサヤの剣を押し退ける。


「良かろう、その問いに答えてやろう、トウドウ・マサヤよ……惚れた女に尽くすのに、それ以上の理由が必要か?」


「……は?」


 マサヤの質問に答えるユートだが……その言葉があまりにも意外なものだったので、マサヤは唖然としてしまった。あ、マツリも似たような表情をしている。


「我はマツリの信念に、力に、聡明さに惹かれ共に在りたいと望んだ。故にマツリに忠誠を誓った。マツリが望むならば世界を敵に回すのも厭わん。それが愛する者の為ならばな」


 聞いているだけで恥ずかしくなってくるような台詞を堂々と宣うユート。その近くで否応なく聞かされたマツリまでも顔を真っ赤にし「バカユート」と小さく呟いた。しかし、


「……本気で言ってんのかてめぇ」


 マサヤはその返答が気に入らないらしく、再び剣を構えユートに迫った。

 程なくして、ゴーレムの進撃に混じって二人の幾重もの剣戟の音が響く。


「冗談でこのような事を言うと思うか?」


「尚更だ! もう一度聞くぞ! てめぇはマツリが間違っているとは思わなかったのかよ!?」


 二人は激しい攻防を繰り広げながら会話を続けた。


「正しいのか間違っているのか等、不毛な問いかけだ。それを決めるのは貴様か? 法か? 神か? 否。己が信念の正否を定めるは己自身しかない。マツリが己が道を歩み続ける限り、我はそれに従うまでだ!」


「聞いてんのはんな事じゃねえってんだよ!!」


 ユートの返答を一蹴し、さらに踏み込むマサヤ。振るわれる斬撃の速度が、威力が目に見えて増す。


「てめぇはマツリのやってる事が本当に正しいと思ってんのかよ!? マツリの意志じゃねえ! てめぇの考えを聞いてんだ!!」


 二人の攻防は、いつしか徐々にユートが圧され始めていた。


「我の意見等関係ない。マツリの意志が我が意志也。何度言えば貴様のその脳筋頭は理解するのだ!」


 が、攻防の合間にユートは双剣を重ね、魔力を込める。その瞬間、双剣がまたも形を変えた。

 瞬時に二つに分かれていた剣はひとつになり、まるでその手のひらから放たれるように伸び、先にある刃がマサヤに迫った。


「ぐうっ!?」


 マサヤはそれをどうにか見抜き回避しようとするも、完全に躱す事は敵わず肩口を掠めた。

 槍だ。それも巨体を誇る黒騎士の身体の倍近い長大さを持った。

 ユートはその槍の中程を持ちくるくると回転させ、ピタリとマサヤにその穂先を向け止めた。


「よくわかった。貴様と我は決して意見は合わん事をな! これ以上の問答は……」


「俺はまだ納得しちゃいねぇ!!」


 会話を閉めようとするユートの言葉を遮り、負った傷も厭わずマサヤが再度吠えながら突貫する。


「てめぇはマツリのやる事が間違っていると解ってて協力してんのかよ!? 惚れたからだぁ!? 本気で言ってんなら腐ってるぜてめぇ!!」


 叫びながら迫るマサヤに対し、ユートは再び手にする槍に魔力を込めた。今度はその形は、幅広い盾となりマサヤの剣を阻む。

 剣が盾にぶつかり甲高い金属音をあげた瞬間、その盾に再び魔力が込められた。しかし今度は全体の形状が変わる事はなく、盾の表面だけが形を変えた。二本の湾曲した突起物が生え、マサヤの剣を捕らえたのだ。


 まずい。ここで武器を失ってしまってはマサヤに勝ち目はない。思わず二人に向かい駆け出そうとしたシオンだが、


「本当にてめぇが惚れた女だってんなら、そいつが間違った事をしようとしているのをどうして黙って見過ごしてやがるんだ!」


 尚も言葉を紡ぐマサヤ。そして彼は思わぬ行動に出た。

 自ら捕らえられた剣を手放し飛び上がり、盾を踏み台にしてユートに迫ったのだ。

 そして、


「惚れた女が間違ってる事しようとしてんなら、それを正してやるのが男ってもんだろうが!!」


 思いをぶつけた咆哮とともに、ユートの兜に覆われた頭を生身の拳で殴りつけたのだった。

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