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エセティア神の権能。

「……トバリ?」


 アユミの手にかかり倒れた魔族の男、トバリの姿を目の当たりにし、信じられないものを見るかのように目を見開いているマツリ。

 少女のその声に応える者はいない。地に伏した男は、声もなく床に少しずつ血溜まりを広げるのみだった。


 そのトバリの向こうで、こちらもまた崩れるようにその場にしゃがみ込むアユミ。攻撃等は何も受けていないはずだが……。


「エリス嬢! アユミを診てやってくれ!」


「わ、わかりました!」


 即座に飛ばされたトモエの指示に頷き、アユミの元に駆け寄るエリス。トバリを倒した際に使用した時空間魔術は、反動や副作用のようなものがあるのかもしれない。


「恐らくアユミは暫く動けぬだろう。エリス嬢の治癒がどれ程時空間魔術の反動を癒せるか次第だ。マツリ嬢の相手は俺とシオン氏でになるぞ」


「ああ、わかってる……けど、その前に」


 トバリの死に戸惑い動きを止めたマツリに向かい、一歩踏み出すシオン。周囲の精霊達は警戒し身構える。


「マツリ、考え直す気はないか?」


「……何の話よ?」


 シオンの呼びかける声に、未だ混乱しているようだがどうにか返答をするマツリ。


「そもそもオレ達は、お前と和解しようと考えていたんだ。お前の力がどうしても必要だから」


 シオン達がアユミとトモエに会った時に聞かされた、世界に災いを齎す魔物の王、ジャバウォック。ジャバウォックを倒す為に、マツリの持つ権能の力が重要になる可能性がある。その話を聞いてしまった以上、マツリと敵対したままではいけないのだ。

 今はシオン達に敵意を抱いたマツリが攻撃してきて、その流れで戦闘になってしまっていたが、マツリに世界征服なる野望を唆した元凶とも言える魔族の男、トバリ亡き今、マツリが考えを改めてくれたなら、これ以上戦闘を続ける理由はないのだ。


「……意味がわからないわ。前と言ってる事が違うじゃない」


「あの時はオレだって何も知らされていなかったからだ。アユミやトモエに会って、お前達異界人がこの世界に来た理由を聞かされて、お前達の重要性についても教えられた。この世界に危機が迫っている事も。それを解決する為に、お前の力が必要なんだ」


「勝手な話ね。だから私に野望を諦めろと?」


「この世界が滅ぼされてしまったら世界征服も何もあったもんじゃないだろ。解決するまでの間でいい。オレ達に協力してくれないか?」


 説得を試みるシオンだが、マツリの反応は芳しくない。勝手に問題解決の間までと言ってしまったが、そこについては多分アユミ達も納得してくれるだろう。もしもマツリが解決後も世界征服を宣うようであれば、そこからはまた敵同士だ。


「……聞き入れると思っているの? 私の仲間を殺した後で」


「魔族はむしろ人類の滅亡に加担しようとするだろ。あいつがいる間に説得するだけ無意味だっただけだ。そもそもお前は魔族に誑かされて世界征服なんて馬鹿げた野望を抱いていたんだろ。明らかに利用されているだけじゃないか。魔族とも縁を切ってそんな野望なんか……」


「私にはそれしかないのよ!」


 説得を続けるシオンだが、それを遮りマツリの叫びが響く。


「ええ、確かに発端になったのはトバリの言葉よ。でも、でも! 私はその野望を、世界征服を目的にしてこの世界で生きてきた! その為に手段を選ばずにここまで進んできた! 数えきれない程の多くの人々の心を狂わせて、時には命を殺めて、踏み台にしてここまで来たの! それが私の存在理由だから! この目的を成就させる事だけが! それがなければ私は……私はただの狂人でしかないじゃない! 間違った結論に熱中していた愚か者じゃないの! また、私はイラナイモノになっちゃう! 嫌よそんなの! もう私にはこれしかないの! 私の野望は、誰にも否定なんてさせない!」


 マツリの主張は、自らの野望を否定された事への怒りだった。シオンは流れのまま口走ってしまっていたが、彼女の最も許せない領域に踏み込んでしまったらしい。


「……世界の危機? 異界人が必要? ずいぶんな与太話だけど、安心しなさいよ。私が解決してあげるわよ。あなた達を倒して、この世界を征服するついでに!」


 マツリから向けられる、変わらない敵意。交渉は決裂してしまった。


「ふむ、こうなってしまっては致し方あるまい。説得はこの際後回しにし、実力で黙らせこちら側の勝利を突きつけてからにしてやろうではないか」


 様子を見ていたトモエがそんな提案をする。つまりマツリを生かして戦闘続行が不可能な状態にし、捕虜にして言う事を聞かせるわけか。それがどれだけ大変な事なのかわからないわけでもないだろうに。


「単身で複数の上級精霊を召喚し、他の異界人数人に匹敵する戦闘能力を発揮する。いやはや恐ろしい実力だ。しかし今の俺ならばその上級精霊数体を相手取る事も可能だ。戦況はこちらに傾いていると見ているのだが、如何かなマツリ嬢よ? 聡明な其方ならばこのまま戦闘を続けるのが悪手である事くらい察しているであろう?」


 トモエの言葉通り、国宝級の代物らしい魔道具を用いているトモエの実力は、上級精霊達すらも圧倒していた。マツリがそれを上回るには、新たな上級精霊を召喚する他ないだろう。しかしそんな暇を与えるトモエやシオンではない。


「……私一人だと、確かにそうね。でも……」


 その事はマツリも理解しているらしく、素直に同意したが、


「ユート! いつまで遊んでいるの!」


 マツリは突然、マサヤに自分の持つ魔道具の機能を自慢していた黒騎士、いやもうユートと呼んでいいか? ユートに怒鳴りつけた。


「ぬ、我が君よ、我の事は黒騎士と呼べとあれ程……」


「もういいのよそんな事。トバリはもういない。あなたの実力を隠す理由はもうないわ。術式の構築をしていなかったなんて言わないわよね? あなたの全力……あなたの権能の力(・・・・)、彼らに見せてあげなさい!」


 マツリの言葉は、予想だにしないものだった。


 術式? 全力?


 ……権能!?


「成る程、そういう事か……よかろう! 我がエセティア神の権能(・・・・・・・・・)の能力、その真価をとくと目に焼き付けるがいい!」


 漆黒の騎士、ユートが高らかに宣言すると同時に、その足元に巨大な魔法陣が展開された。その術式は驚く事に、既に完成されている。あの膨大な魔力を宿した鎧の内側で術式を構築していたが故、その気配を看破できなかったのだ。

 いや、それ以上に。黒騎士はマサヤと互角に渡り合える程の剣技を身につけた戦士だと思い込んでいた。こんなにも大規模な術式を構築できる程の術者等と予想できるはずもない。

 しかもそれが、まさかアユミがどんなに探しても見つけられなかった最後の異界人、エセティア神の権能の所持者だった等と誰が予想できようか。


 展開された魔法陣から、地面に膨大な量の魔力が送られ伝わって行く。その魔力はこの建造物全体を、そしてその外までも広範囲に広がっていった。

 変化はすぐに現れた。

 建造物の天井や壁、床に至るまでの全てが形を変え始めたのだ。それらを形作っていた鉱物が、地響きとともに次々と人型の形に変わって行く。

 やがて建造物全てが人型の物体に形を変え、最早室内ではなくなったその場所から見える景色には……数えきれない程の数の、黒騎士の姿を模した石造りの人型の物体、ゴーレムに埋め尽くされていた。


「こっ、これは……錬金魔術!? これ程の規模の錬金魔術を!?」


「な、何だこりゃあ!? これお前がやったのかよ!?」


 その光景に驚愕の声をあげるトモエとマサヤ。その場にいた全員が、黒騎士の手によって作り出された無数のゴーレムに取り囲まれていたのだ。


「一騎当千……我等のような異界人に相応しい言葉であろう。しかし、文字通り千の軍勢を再現できるのは我以外には居るまい」


 このとんでもない状況を生み出した張本人、ユートの呟きを信じるならば、このゴーレムの数は千体に及ぶらしい。嘘だろ。


「我が名は黒騎士! 異界より神の悪戯に導かれし罪深き魂也! 我が身に宿りしはエセティア神の権能! この力、全ては我が白銀の君の為に!」


 黒騎士、ユートが手にする双剣のうちの一本を高らかに掲げ宣言すると同時に、周囲を取り囲むゴーレム達が手にする大槌を構えた。

 冗談じゃないぞ。こんな数の軍勢を相手にしろってのか!?


「ウフフフフフッ、切り札というものは最後まで残しておくものよ? これでもあなた達が有利だと言えるかしら?」


 迫り来るゴーレムの軍勢。そしてマツリの使役する、上級精霊。


 マツリは……否、マツリと黒騎士の実力は、シオン達の予想を遥かに上回っていた。

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