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黒騎士、魔族結社と邂逅する。

 猫背気味の姿勢に怪しいローブ、顔まで隠れるフードを被った、見るからに怪しい風貌。そして人を小馬鹿にしたような下卑た笑い声と口調。間違いなく帝国の宮殿で会ったトバリその人だ。


 そのトバリに続いて姿を見せた他の二人の人物も、トバリと同じ怪しげな黒装束を身に纏っている。

 こんな悪趣味な風貌を好む者が他にもいるとは。その格好はどう見ても邪悪な組織の末端程度にしか見えない。ぶっちゃけ雑魚モブキャラだ。あれか? 我の引き立て役志願か?


「ヒヒヒヒヒッ、まさかとは思ったが、やっぱり女神様じゃあねェか! 確かにこんなところで出くわすとは思わねェわなァ? ヒヒヒヒヒッ」


 トバリは我々に近寄りながら、相変わらずの巫山戯た態度で茶化してきた。一瞬すぐにでも切り捨てたい衝動に駆られるもなんとか抑える。


「何故姿を隠していた? やましい事でも企てていたか?」


 我は警戒を解かず、大剣を構えたまま強い口調で尋ねる。此奴は以前からマツリが警戒していた危険人物だ。何を仕出かすかわかったものではない。


「おいおォい、そういきり立つなよ騎士様よォ! 俺様はこれでも一応帝国の重役担ってんだぜェ? その俺様に帝国所属のテメェが危害を加えるわけにはいかねェだろォ?」


 我の威圧に対しこの男は、的はずれな後ろ盾を翳してきた。フンッ、愚か者め。


「我が剣は帝国の剣に非ず。我が剣は唯、我が君の為だけに振るわれる」


 トバリの勘違いを正す為、我が剣の在り方を語り切っ先をこの男に向ける。それ以上の減らず口を叩くようならば、我が漆黒大剣の錆にしてくれよう。


「おーおー、怖い怖い。女神様よぉ、このデカブツを下げさせてくれや。話が進まねェぜ?」


「……いいわ、黒騎士。敵対するつもりじゃないのは本当みたいだし。けど、質問には答えて欲しいわね」


 マツリは我を諌めながらも、我の問いの返答をトバリに要求する。警戒されても仕方がない行動をしていたのは奴等なのだ。はぐらかされるわけにはいかない。

 そもそも、トバリと同じ衣装をした他の二人は何者なのか。帝国に所属している者にあんな酔狂な格好を好む奇特な人物はトバリ以外に見た事がない。


「ヒヒヒヒヒッ、別に大した理由はねェぜ? ただちょいと他の冒険者と関わり合いになりたくなかっただけでなァ?」


 しかしトバリは尚も曖昧な返事をする。此奴め、一度痛い目を見ないとわからぬか?


「何故あなたがダンジョンに? 理由を聞かせて欲しいわ。帝国に関係する事?」


 マツリは気にする事なく質問を変えた。帝国の重役である立場のこいつが理由もなく冒険者の真似事をするとは思えない。というか、最近の帝国での不在はダンジョン探索をしていたのが理由なのか?


「あ〜、関係ないってわけじゃァねェなァ? さァて、何処まで話したもんかねェ……」


 質問に対し、トバリは頭を掻きながら口ごもる。複雑な事情を抱えているのか、それともやはり良からぬ企てがあるのか。


「トバリよ、彼奴等は利用価値のある者か?」


「あァ? まァな。こいつが例の女神様の権能持ちだぜ」


 悩む様子のトバリに、それまで傍観していたトバリの連れの一人が尋ねた。声の質から判断するに、初老の男性のようだ。終始巫山戯た態度のトバリと違い、厳格な印象を受ける口調だ。

 しかし、利用価値、と来たか。


「そうか……斬り捨てるには惜しい人材か。面倒な事よ」


「……聞き捨てならんな、男よ」


 続くその男の発言が癇に障り、思わず口を出してしまった。気に入らんな、その明らかに見下した態度が。


「誰が誰を、斬り捨てるだと?」


「……多少は腕に覚えがあるようだが、力量を見誤ると早死にするぞ、小童よ」


 威圧を込めた発言に対し、さらに挑発で返す初老の黒装束の男。同時に、我とその男の殺気がぶつかり重なる。


 ……成る程、口だけの男ではなさそうだ。

 尺測れるその気迫、隙のない佇まい……恐らくは剣聖、ウィルヘルムと同等かそれ以上の実力はあると見た。


 トバリめ、これ程の男を引き連れているとは。今の我の実力では……剣だけでは勝てんな。錬金魔術も用いて全力でかかって勝算は五分あるか、といったところか。


「黒騎士、無駄に敵を作るのは良くないわ。せっかくあちら様はその気がなかったのだから」


 初老の男から目を離さない我を、マツリが肩を竦めながら制した。


「そうだぜ叔父貴よォ、血を流すのは最後の手段だぜェ」


 あちら側もトバリが男を宥めている。仕方なしにどちらからともなく向けていた殺気を収め、一触即発の空気が霧散した。


「それで? 正直に話してくれるのかしら?」


「いいんじゃないの、トバリ」


 改めて聞くマツリに応えたのは、もう一人のトバリの連れだった。背丈は低く、年若い少女の声をしていた。


「そのコが例のイーヴィティアの権能持ちなら、計画に組み込むのも悪くないと思うし。そうなるとある程度は説明が必要じゃない?」


 少女はマツリの持つスキルの詳細を知っているらしい。恐らくトバリから聞かされていたのだろう。先程の会話から察するに、初老の男も同様か。

 しかし、計画とは? やはり何か企みがあるらしい。


「俺様もそれには賛成だがなァ、他の連中は何て言うかねェ?」


「そのコの有用性はみんな理解しているでしょう? 問題は彼女が私達の事を信用してくれるかだけど」


 語りながら少女はマツリを向いた。見るからに怪しい集団と信頼関係を築けるとは思えないが。


「私に益があるなら協力してもいいわよ? 例えあなた達が魔族だとしても、ね」


 その少女の視線に対し、マツリは思わぬ発言とともに承諾した。

 魔族、だと?


「……ヒヒヒヒヒッ、いつから気付いてた?」


「可能性のひとつとしてね。でも確信したのはたった今よ」


 マツリの突拍子のない言葉を肯定したトバリ。まさか此奴が人類の敵と言われている魔族だったとは。


「あなたがイーヴィティア神の権能の影響を受けなかったのは、魔族だったからなのね。他にもそういうスキルを所持している可能性も考えていたけど、他の二人も私のスキルの効果を受けていない所を見るに、種族的な耐性であると結論したわ。あなた達が異界人だとは思えないしね」


 マツリがそのような答に至った理由を語る。今になって気付いたが、マツリはいつの間にか素顔を隠すベールを外していた。


「魔族が影響を受けない理由は、魔物の出自と同様だからかしら? 魔物も魔族も、創世の七柱とは異なる邪神の手によって生み出された存在だという伝承を目にしたわ……つくづく不便な能力ね。ホント嫌になるわ」


 続けて連中に自身の能力の効果がない理由を考察するマツリだが、最終的に愚痴になってしまった。効果の対象外の存在がいる事は確かに残念だが、それでも恐ろしい能力である事に変わりはないはずなのだが。


「まあいいわ。少なくともまだあなた達と対立する段階ではないはずですものね。お互いに利用できるならば何も惜しむ事はないわ」


「……そちらの騎士さんはどうなの?」


 魔族の少女は今度は我に問いてきた。自分達が魔族であると明かした以上、普通の人間ならば敵対する事になるであろう。だが、


「我は我が君の剣也。我の意志は我が君の御心の侭に」


 元より魔族は人類の敵、と聞かされたところで異界人の我にはピンと来ない話だ。目の前でその悪行を見たわけでもない。故にマツリが協力すると言うならば我が異議を唱える理由もない。


「ふぅん……イーヴィティアの権能は本当に強力なのね。常識的な判断よりもそのコの意見に従うなんて」


「ヒヒヒヒヒッ、木偶人形でいてくれりゃァ儲けモンってな」


 我の返答に連中は、我の意志がマツリの能力によって洗脳されていると判断したようだ。そんな事はこれっぽっちもないのだが、都合が良いので訂正はしないでおく事にした。トバリには我が異界人である事は伏せているからな。


「そういう事ならよろしく頼むわね。理由は移動しながら話すわ」


 魔族の少女は納得したらしく、我々の元へ……否、その背後の下の階層へと続く階段へと歩き始めた。


「トバリから聞いてるとは思うけど、私はマツリ・カミドリよ。彼は黒騎士。私のボディーガードね」


 近付いて来る少女の魔族と、それに続く初老の魔族に自己紹介するマツリ。いつものようにしゃがんだ我の腕に乗り寄りかかる。


「ハクメ・ダツキよ。よろしく」


「メラベ・シヤトクロだ」


 そのマツリに応え、名乗る二人。少女がハクメ、初老がメラベか。


「ハクメにメラベ、ね……トバリにも家名があるの?」


「あァ? 言ってなかったっけか。俺様はトバリ・マノジアクだぜェ。ヒヒヒヒヒッ」


 マツリの何気ない質問に答えながら、いつもの気色の悪い笑い声を漏らすトバリ。


「魔族結社へよォこそ、女神様。歓迎するぜェ? ヒヒヒヒヒッ」

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