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黒騎士、そこに至るまで。

 時は、数刻前に遡る。




「闇の精霊・シェイドとの召喚契約、完了ね」


 セーレ地下迷宮、第九階層。

 このダンジョンのこのフロアに出現すると言われている闇を司る精霊との契約を果たす為、我、黒騎士と白銀の君、マツリはこの地にまで足を運び、そして今その目的は達せられた。

 作業を終えひと息ついたマツリに水筒を渡す。ランプの灯りに照らされながら麗しき少女はその水筒を両手で大切そうに持ち喉を潤す。


 セーレ地下迷宮第九階層。闇の上級精霊が存在する場所だけあり、このフロアは一切の光が存在しない、閉ざされた闇の世界だった。

 闇の世界……フッ、黒騎士たる我に相応しい場所ではないか……などと当初は思ったものだが、実際足を踏み入れてみれば何てことはない、ただ真っ暗なだけの不便なフロアだ。おかげでこちらは常にランプを片手に持ち続ける羽目になった。やれやれだ。


 しかし、ダンジョン内に精霊、か。

 ダンジョンは魔物を発生させる特殊な領域でこそあるが、精霊を発生させる機能はないらしい。精霊とは基本的に、大気中に存在する魔力が意志を持ち具現化した存在だ。故に条件さえ整えばどんな場所にでも発生し得る。しかし上級精霊ともなると、余程の濃度の対応した魔力がその場所に充満していなければその条件を満たさないだろう。

 いったいこの場所は、如何程の長い年月、光が閉ざされていたのだろうか……。


「さあ、用も済んだし帰りましょう」


 そんな物思いに耽っていると、支度を済ませたマツリが我に近寄り、目の前で背を向けてきた。我はいつも通り無言で腰を下ろし、マツリを片腕に乗せ立ち上がる。

 移動の際の我の片腕は最早マツリの定位置となっている。うむうむ、良きかな良きかな。主に彼女の尻の感触とか。


 しかしやはり、こうも暗いと何かと不便でならん。

 いや、魔物等の気配程度ならば我の優れた感知能力を以ってすれば造作もなく発見できるが、視界が妨げられるのはどうしようもない。具体的に言うとマツリの大胆に開かれた胸元が見えない点とか。


 普段着ているドレスは全て宮殿のメイドのチョイスらしいが、今回のドレスは見事と言わざるを得ない。


 あの穢れを知らない純白で蠱惑的な二つの膨らみ……一歩一歩、歩く度に誘うように、ふるんっ、と僅かに揺れ動くその様……運命の悪戯が稀に見せてくれる魅惑のブラチラ……この漆黒の世界はそんな素晴らしい光景までも覆い隠してしまっているのだ。憤慨せずにはいられない。


 だがしかし、もうこの忌々しき暗闇からもおさらばだ。我の手にするランプの灯りを頼りにマツリが広げるこのフロアの地図を参照に、上の階層に続く階段へと足を早める。ただ来た道を戻るだけでもこうも暗いと方向感覚が奪われてしまう。


 途中で魔物と遭遇するも、我の合図でマツリが放った、瞬間的に精霊を召喚しその力を行使する限定召喚による攻撃で手早く倒した。やはりこの限定召喚という技術はカッコいい。目にする度に心が踊る。


 やがて前方にぼんやりと灯りが見えた。階段の入り口だ。階段内は原理不明の光が灯っている故、その灯りが漏れ出ているのだ。

 階段の通路に入り一旦足を止め、マツリを下ろした。もう必要ないランプの灯りを消す為だ。

 そこでふと何気なくマツリに目を向けた我なのだが、マツリの姿に思わず釘付けになってしまった。


 おお……ドレスが淫らに着崩れ、ブラジャーがだいぶ露出してしまっているではないか!


 歩いている最中でドレスがずれ続け、マツリ自身は暗闇でその事実に気付かないまま、この明るい場所まで来てしまったようだ。

 彼女の真っ白い柔らかな膨らみを包む、桃色のブラ。


 良い。実に良い。素晴らしい。最高。


 ……いかんいかん。黒騎士は紳士で在らねばならんのだ。我に帰った我はすぐに顔を背け、コホンと咳払いをした。顔を背けていようと我にはマツリの姿は視界内に収める事ができるので尚ガン見しているがな!

 そこでようやくマツリも自身のあられもない姿に気付いたようで、顔を真っ赤にしながら胸元を隠し、すぐにドレスを直した。眼福でした。


 さて、そんな美味しいアクシデントもあったがともかくとして。ランプを仕舞った我は再びマツリを腕に乗せ、階段を登り始める。


 その階段だが、段差を登る動作はやはり普通に歩くよりも揺れるものだ。

 何が、とな? 決まっている。マツリのおっぱいだ。


 一段毎にふるんっ、ふるんっ、と揺れ動くマツリの柔らかな果実。遂にはまたしても愛らしい色をしたブラが垣間見える。すぐに気付いたマツリが直してしまうが。むふふ、良きかな良きかな。


「……ねぇ、わざとやってない?」


 その光景を堪能していると、マツリがいかにも不機嫌そうな顔をこちらに向けてきた。ジト目というやつだ。可愛い。


「何の事だ?」


 ここは気付いていないふりをしよう。幸い黒騎士の頭は前方を向けている。自由に視点を操作できる技術によって悟られないように凝視していたのだから誤魔化しはいくらでも効くからな。


「……まあいいわ。もう少し揺れないように歩けないかしら?」


「座り心地が悪かったか? しかしこれ以上となるとゆっくり歩かなければならん。移動のペースを落とすのは得策ではないな」


 我はあくまでも気付いていない風を装って、この揺れを保つ方向に提案する。この絶景を手放すなんてとんでもない!


「……はぁ。仕方ないわね。今回は私の判断ミスだったって事にするわ。今度からこういうドレスは選ばないようにしないと」


 マツリは頭を抱え溜め息をついた。どうやら諦めたらしい。そして胸元を開けたドレスは今回が最後だという宣告。

 むぅ、残念だがそれを覆す案はない。下手に異議を唱えると我がマツリの露出を望んでいると悟られてしまいかねない。それはいかん。あってはならない。黒騎士は紳士的なイメージでなければならんのだ。

 ならばせめて、今この時の最初で最後の露出の高いドレスを堪能し目に焼き付けるべきだな……ふるんっ、ふるんっ。あ、またブラチラ。むふふ。


 しかし、心躍る時間というものはすぐに過ぎてしまうもの。階段を登りきり、第八階層に戻ってきた。暫くはマツリの乳の揺れは比較的穏やかなものになる。残念だ。それでも魅力的である事に変わりはないが。


 第八階層は木々が点在し小高い丘がちらほらと見える平原。深い階層なだけあって出現する魔物も中々の強さを持つ者が多いが……。


「……何者だ?」


 我は階段の出入り口で足を止め、気配を感じる方角……数本の木々が密集している場所に声をかけた。マツリも我の行動を見て何者かがいる事に気付き、すぐに鞄から自身の顔を覆い隠すベールを取り出し身につけた。

 人間を待ち伏せする存在。そのうえ我が自分から声をかける必要性を感じたという事実から、マツリも隠れ潜む存在がただの魔物ではなく……人間である事を察してくれたのだ。


 マツリの持つ神の権能、イーヴィティア神の権能はマツリの顔を目にしただけでその影響を受けてしまう強力な能力だ。故にマツリは自身の顔を人前で無闇に晒すのを控える事にした。だから近くに人間がいると知った為にその顔を隠すベールを被ったのだ。


 さて、問題は姿を隠した何者か、なのだが。

 普通に考えれば、ダンジョン探索に来た冒険者パーティーだろう。人数は三人。ダンジョンに居る人間となると基本的にはそれだ。問題は何故姿を隠しているのか。

 ダンジョンの探索中に冒険者どうしが鉢会うのは別に珍しくない。大抵は互いに干渉せず、挨拶程度で通り過ぎるものだ。たまに共闘を願い出たり、物資の交換や提供をお願いする者もいるが。

 しかし、中には他の冒険者の利益を力付くで奪おうとするならず者も存在する。例えば……身を隠して忍び寄り、不意をついて仕掛けてくるような輩が。


 冒険者相手にわざわざ身を隠すような輩は、大抵そのタイプの悪党だ。十中八九、目の前で息を潜めていた連中もそのテの小汚い冒険者だろう。

 冒険者同士の殺し合いは当然御法度だ。とはいえ、ダンジョン内にまで監視の目が行き届いているはずもない。ダンジョン内で命を落とし放っておかれたら遺体は残らない。金目の物を奪われ証拠は消え去り、死した冒険者はダンジョン内で魔物に負け殺されたものと判断、処理される。完全犯罪が簡単に達せられるわけだ。

 だがしかし、残念だったな。我が感知能力を前にすれば、その程度の隠密行動など造作もなく見破れる。非道に手を染める愚か者など、切り捨てられようと文句は言えまい。


「警告しよう。すぐに我の前に出て姿を見せよ。でなければ我が敵と見做し攻撃を仕掛ける」


 我はマツリを下ろし、背負う漆黒の大剣を振り構えながら木々に身を隠す連中に忠告した。さて、不届き者どもの反応は……。


「ヒヒヒヒヒッ、待った待った。別に俺様達はお前さんらと殺り合うつもりはねェぜ?」


 我の警告を聞き、諸手を上げながらゆっくりと姿を見せる人物。その声と容姿は、見覚えが、聞き覚えがあるものだった。


「……トバリ? どうしてこんなところに?」


 その人物の登場に驚いたマツリがすぐに声をかける。現れた人物は、ヴァスキン帝国お抱えの軍師、トバリだった。

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