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魔族。

 魔族。この世界に存在する人型種族の中で最も異端な種。

 邪神の加護を受けた邪悪な種族で、その全てが他種族を敵対視しており、その行動原理は他種族の根絶を目的としているとされている、明確な「世界の敵」。

 高い身体能力と魔術適性を備え、戦闘においては竜人族や鬼人族に並んで非常に高い種族と呼ばれている。さらには魔物を操り支配する技術もあると言われており、人類の歴史の節々に現れては混乱を引き起こしてきた。


 そんな危険極まりない種族が、四人。


「魔族? フホホホホホ、これはこれは、出会い頭にご挨拶な若者でありますなぁ?」


 四人の黒フードの集団のうち、背筋をピンと伸ばした長身の男が、自身の面白い形に整えられた髭を撫でながらシオンの言葉を鼻で笑った。

 魔族は外見の特徴は人族と大差がない為、人間の街や国に紛れて活動しているのが常だ。敵対種族である為に正体を知られるのは本人達にとってはまずい事なのだろう。


「貴殿等は冒険者でありましょう? フホホホホホ、吾輩達もこう見えて同業にございます。こちらが証明である冒険者証で……」


「誤魔化しは効かねぇよ。オレは以前、魔族と会った事がある。お前らの種族としての気配がそいつと同じだって言ってんだ」


 懐から冒険者証を出し言い逃れをしようとする男に対し、魔族であると見破った理由を教えてやった。


「てゆーか、君達魔族っていつもその黒いフード被ってるけど、それ逆に目立つよね? 如何にも悪い事してますって感じでさ」


「あはは、悪者集団のテンプレですよね」


 そこにアユミが畳み掛ける。アユミは以前、神託の巫女として魔族の集団を相手に大立ち回りをしたのだから魔族に遭遇するのは初めてではない。言われてみれば、帝国の魔族も同じような黒フードを被っていたっけな。


「これはこれは、確かに盲点でしたな。フホホホホホ、随分と特殊な感知能力をお持ちのご様子。ふむ、それにしましても、てんぷれ? 吾輩、最近の若者の流行りの言葉は知らないのでありますが、どのような意味ですかね?」


「私も知らないわよ。てか、話が違うわよ。ここってヴァリブトル地下迷宮の最深部でしょ? ここまで来れた冒険者なんて今までいなかったんじゃなかったの?」


「つまり、その連中がそれだけ強いって事なんだろ。あーやだやだ。オジサン参っちまうね」


「へぇ、面白いじゃねーか。骨のある奴は好きだぜ?」


 アユミの指摘を真に受けたのか、四人は次々とフードを下ろし隠していた顔を露わにする。

 面白い髭を生やした姿勢の良い男は、片眼鏡を右目に着けている。

 自分をオジサンと評した男はくたびれた表情が印象的な顎髭の生えた男。

 女性は濃い化粧が目につく妙齢。何故か一緒にローブも脱ぎ、露出度の高い衣装を見せつけるように露わにした。

 好戦的な青年は、両腕に装着している籠手を締め直しながら、獰猛な笑みを向けてきた。

 やはり四人とも人族とあまり大差のない容姿だが、共通して浅黒い肌をしていた。唯一の魔族の外見的特徴らしいが、それくらいの色の肌をしている人族も珍しくない為、区別をつけられる程の特徴ではない。


「ま、別に隠す必要もないんじゃないっすかねぇ? どうせ見られたからには生かして帰すわけにはいかないし」


「だよなぁ? ヤってもいいんだよなぁ?」


「まあまあ、落ち着きなさいな。血の気が多いでありますなぁ……ヴァリブトル地下迷宮の最深部まで潜って来た冒険者パーティーでありますか……フホホホホホ。吾輩、貴殿等に少々興味が湧きましたぞ」


 面白髭の魔族はシオン達を一瞥し、ニヤリとわざとらしい笑みを浮かべた。


「自己紹介をしましょうか。吾輩はショウヨウ・マキヨウ。以後、お見知り置きを」


「俺様はカツハ・ヒヨウスエだ。てめぇらに引導を渡す男の名だ! 冥土の土産に覚えていきな!」


「私はアカナ・ジヨウメ。うふふっ、強い男は私も大好きよ。誰から食べちゃおうかしら?」


「えー、自己紹介すんの? オジサンそんなの小っ恥ずかしいんだけど」


「空気読めよおっさん」


「へいへい。オジサンはエンラ・シロネリってんだ。別に覚えなくていいぜ」


 魔族の四人は聞いてもないのに各々自己紹介を始めた。あまり聞き慣れない独特なイントネーションをした名前ばかりなのは魔族特有なのだろうか?

 それにしても、なんか、何だろうこいつら。


「ねえねえアユミさん、魔族の人達ってみんなこんなに面白……個性的な人達なんですか?」


「ボクに聞かれても……」


 ひそひそとアユミに尋ねるエリス。面白いって言いかけたな今。まあ、気持ちはわかる。

 緊張感がないというか、変なノリをしているというか。でも変なノリと言えばこいつら異界人全員そうなので今更だとは思うが。


「して、貴殿等の御名前をお聴きしても宜しいでありますか?」


「おう、俺はマ……」


「や、別に自己紹介する必要ないでしょ」


 尋ねられるままに名乗ろうとしたマサヤを遮りアユミがばっさり断った。あんまりな奴だなおい。


「魔族は人類の敵。百害あって一利なし。相互理解は不可能。そんな連中と馴れ合う必要は一切ないね」


 そして辛辣な罵倒を浴びせる仕末。おおう、事実ではあるが本人達を目の前にして面と向かって言い切るとは。


「フホホホホホ! 成る程、吾輩等の事を正しく認識されているご様子。仕方ありませぬなぁ。せっかくこちらから歩み寄って差し上げようとしていたというのに」


「願い下げだね。けどまあ、幾つか君達に聞かないといけない事もあるのは確かだけどね」


 アユミの罵倒を嘲笑う魔族、ショウヨウ。そしてアユミは改めて魔族達に問う。


「君達、何処から来たの?」


「……はて? 妙な事を仰いますなぁ? 吾輩等はたまたま貴殿等と鉢合わせただけでありまして」


「その建物の中にあった魔法陣が転移魔術の術式だってのはもうわかってるよ。問題はどうして君達魔族がそれを使えるのかと、ここに転移してきて何を企んでいるのかって事」


 再びはぐらかそうとするショウヨウに問答無用で指摘するアユミ。そのアユミの言葉に、ショウヨウの顔色が明らかに変わった。


「……この人間風情のガキが、何故吾輩等の秘術を知っている!?」


 それまでの余裕を持った態度が消え去り、怒気を隠しもせず叫ぶショウヨウ。それまでの取り繕った紳士的な装いはやはり紛い物で、明らかに人間を見下している。


「答える気はないの?」


「当然……で、あります。カツハ殿、アカナ殿、エンラ殿。此奴等は只者ではなさそうでありますぞ?」


「そのようね。下僕にしてあげようと思ってたけど、残念だわ。皆殺しね」


「ハッ! どうでもいいんだよんこたぁよぉ! 結局の所、どっちかがぶっ潰れるまでやり合うだけなんだからなぁ!」


「面倒だねぇ、どぉも……オジサン、逃げてもいいかなぁ?」


 魔族達は口々に敵意の篭った台詞を吐きながら……いやまあ、一人はあまりやる気を感じられないが。それぞれが武器を出した。ショウヨウは短い杖を、カツハは元々装着していたが籠手を、アカナは鞭を、エンラは三節棍を。それらの武器からは強力な魔力が発せられている事が感じ取れた。恐らくは魔道具と呼ばれる、特殊な能力を備えた武器なのだろう。

 そしてそれぞれの全身が即座に魔力に覆われる。気功術も相当な域で使いこなしている事がわかる。全ての人型種族の中でも最も魔力の扱いに長けた種族と言われているのは伊達ではないらしい。すぐにでも仕掛けて来そうな臨戦態勢。どうやらこれ以上の話し合いは無理のようだ。


 全員、相当な実力者だ。自分が対抗できるのか不安に思いながらもシオンも即座に自分の武器を、黒色曲剣の雨鴉を構える……が、


「じゃ、三人はお終いね。エリス、こいつの止血してあげて?」


 直後、その魔族四人の向こう側から、それまでシオンの隣に居たはずのアユミの声が聞こえた。同時に、魔族のうち三人、ショウヨウ、カツハ、アカナの首がポロリと零れ落ち、残るエンラの手足が根本から身体から離れ、ばらばらと地に落ちる。


「……え」


 何が起こったのかは、どうにか理解できた。アユミの仕業だ。

 空間転移で連中の背後に回り、例の空間の層を作り出す時空間魔術で、魔族達を瞬殺してしまったのだ。


 一瞬の沈黙の後、血溜まりの中で叫び声をあげた、一人だけ四肢を切断されながらも生かされた魔族。

 生かされた理由はほぼ間違いなく自白させる為だろう。


 ……やばい。アユミが容赦なさすぎる。魔族なんかより百倍怖い。


 アユミのあまりにも冷酷な所業に唖然とするシオン。他の皆も明らかにドン引きしている。うわぁ。


 想定外の魔族との遭遇。戦闘は避けられない……はずだったが、その決着は文字通りあっという間だった。

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