遺跡。
二人はその後も語り合いながら目についた建物を物色しながら散策するも、目ぼしい痕跡は見つけられなかった。
そして小一時間程経った頃、シオンとエリスは他の建物よりも一際大きな建造物を見つけた。
「わ、ここならいかにも何かありそうって感じですね」
その建造物を見上げながら楽しそうに語るエリス。その広さは他の建物の数十倍はあるだろう事が外観から予想できる。その建物の周囲を囲っていたのであろう外壁はあらかた崩れているので障害にはならない。
位の高い者の館だったのか、重要な施設だったのか。どちらにせよ他とは違う場所である事は明らかだ。
「トモエ達も近くまで来ている。多分ここに来るだろうから合流してから入るか」
「はーい」
シオンは感知能力によって別行動をしている他の三人の位置を把握し、待つ事にした。
暫くして予想通りトモエ達が姿を見せる。シオン達に気付きすぐに近寄ってきた。
「そちらは何か見つけたかね?」
「いいや、全然だ。そっちは?」
「こっちもおんなじ。何にもなかったよ」
合流し互いの成果を確認するも、あちらも何も見つけられなかったようだ。半ば予想していたが。
「けどよ、この建物はなんかでっけーな。この中にも何もなかったのかよ?」
マサヤがシオン達が待っていた場所の大きな建造物を眺め尋ねた。何かがありそうだと思うのは当然だろう。
「オレ達も今ここに来たところだ。近くにお前らが来てるからどうせなら一緒にここを調べてみようと思ってな」
「ふむ、なるほど……ここが調査のトリというわけか」
この大きな建造物にすら何も手掛かりがなければ、これ以上調査をするのは無駄だろう。この場所に何かがある事に期待するが。
「この建造物は、どうやらこの遺跡の中心に位置しているようだ。恐らくはこの街の主要な施設だったのではないかと予想できる」
トモエは地形把握魔術によって街の規模を調べていたらしく、この建物の位置についてそのように語った。遺跡の中心の一際大きな建造物。主要施設だと予想するのも当然だろう。
「では早速調べてみるとしよう」
先頭に立ち建物へと向かうトモエに皆も続く。入り口を見つけその内側へ。
建物の天井は殆ど崩れ落ちており、外の光が十分に射し込んでいた為明かりを灯す必要がなかった。廊下らしき通路から幾つかの部屋らしきスペースに繋がっている。しかし、それらの部屋にも何らかの痕跡は見当たらない。
やがて皆は広間に出た。そこも天井が抜けてあちこちに瓦礫が重なっている。各々で何かないかと散策を始めるが……。
「なあ、この模様何だ?」
最初に気付いたのはマサヤだった。皆がマサヤの元に集まり、指し示すものに目を向ける。
それは皆の足元、床に彫られた文字のようだった。砂埃を払ってみると、その文字はこのフロアの中央に結構な範囲に彫り込まれているようだった。
「何て書いてあるんだ?」
「わからんな。今この世界で使われている文字ではなさそうだ」
まだこの世界の文字を覚えていないマサヤはともかく、当然知っているシオンにもその文字は読み取れなかった。
「古代精霊言語の原文か? 若しくは神代の……解読のし甲斐があるな!」
「いやいや、ここで解読できるまで立往生は嫌なんですけど?」
「無論転写して研究施設で行うつもりだ。世紀の大発見になるやもしれんぞ!」
ようやく発見した文明らしい痕跡に息巻くトモエ。早速魔術を使用し床に魔力が広がる。小規模な地形把握魔術なのだろう。
「ふむ……円形に沿って刻まれているのか。構造的には魔法陣のようだ。文字に風化が見られない点を考えるに、特殊な技術によるコーティングが施されている可能性が……」
「とにかく、床に文字が彫られてましたって事で、他に何もないのかな?」
ぶつぶつと考察を呟くトモエを無視し、改めて周囲を探し始めたアユミに習い、トモエ以外の皆も散策を再開した。これだけでも結構な発見だと思うのだが。
しかしその床の文字以外に何も見付からず、遺跡の調査はそれで打ち止めとなった。
その後はトモエのマッピングを進める事となり、完了し次第、次のフロアへ向かう流れになったのだが……。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「階段がない?」
外の世界だとそろそろ日が暮れ始める時間になった頃。第七階層の遺跡をひと通り歩き回り、マッピングが隅々まで完了した後にトモエが首を傾げながら呟いた言葉に、皆が怪訝な顔をした。
「うむ、次の階層への階段が存在しないのだ」
「巧妙に隠されてたりとかしないんですか?」
「それを看破できぬ我が魔術ではない。確かな事実だ」
「えーっと……つまり、ここが最下層って事?」
トモエが地形把握魔術によって知り得たこのフロアの情報。それはつまり、これ以上進む事ができないというものらしい。
「いやいや、普通、ダンジョンの最下層にはダンジョンの支配者がいるものだろ? ここには何もいないぞ」
通常のダンジョンならば、その最下層はダンジョン内に現れる中でも最も強力な魔物が出現するのが常だった。冒険者の間ではその存在を支配者と呼んでいるが、その支配者がいない最下層など、今まで聞いた事がなかった。
「例外的な事態はこのフロアが既にそうであろう? 支配者が不在の遺跡の最下層、という事だとしか考えられん」
しかしその一般論は既に覆されている事をトモエが指摘した。確かにこの場所は普通のダンジョンとは違い過ぎている。今更他のダンジョンと異なる事実が判明したところで不自然ではないのかもしれない。
「てことは、これでダンジョン探索終了って事?」
「ふーむ、そうなってしまうな」
そしてそれが事実であるなら、これ以上の探索は無意味となってしまう。
「あらら、何だか尻すぼみでしたね〜」
「んだよ、すげー難しいダンジョンって聞いてたのに大した事なかったな」
「いや、実際困難なダンジョンだったからな? お前らがおかしいだけだからな?」
皆の軽口を否定こそするものの、達成感はあまり感じられないのも事実。これで攻略終了とは思わなかった。
「前に来た冒険者さんは、最後の階層の手前で帰っちゃったんですね。勿体無いですね〜」
「そういう事になるな……これからどうする?」
「ん〜、ひとまず今日のところはここで休んで、明日からは帰還に向かう事になるかな?」
当初の予定よりもかなり早い終了だが、これ以上進めないのだから仕方がない。目的である皆の経験や連携等も今の時点で問題ないはずだし。
「魔物もいませんし、休める場所もいっぱいで楽に野営できますね」
「せめて瓦礫とかがあんまりないところにしようよ」
「いい感じな広さのとこってねーかな? あの床に文字があったでっけーとことか?」
「うむ、俺もあの建造物はもう一度見てみたかったところだ」
「あ、トモエさん、またお風呂作ってくれませんか? 最後なんだし」
皆が思い思いに語りながら、その足は自然と遺跡の中央の、最も広い建造物の方向へと向かっていた。まあ、休むならそこでいいか。
と、その時、シオンはその進路方向の先から何かを感じ取った。
「ん? ……みんな待った。この先から何か……」
「うそ……」
皆を制止させ異変を伝えようとしたシオンだが、アユミの呟きに気付きその表情を伺った。アユミは、明らかに驚愕し動揺していた。
「アユミ? どうしたんだ?」
「近くで……時空間魔術が使われた!」
そして驚愕した理由を言い、前方へと駆け出した。その先にある遺跡の中央の建造物は、シオンがちょうど異変を感知した……何らかの魔術が発動した位置だ。
「ちょっ、ちょっとアユミさん!?」
「急げ。何かが起こってる!」
皆もすぐにアユミに続く。シオンは走りながら前方に魔力感知の範囲を広げ、異変の正体を探る事にした。
建造物の内部から感じられるのは……魔術の発動はもう終わっているようだが、何者かが……魔物ではない、人型の存在が四人、建物の内部に出現していた。
「あの大きな建物の中に四人、誰かがいる!」
シオンは知覚した内容をすぐに皆に伝えた。アユミは時空間魔術が使われたと言っていた。つまり、この四人は転移魔術によって何処からか転移してきたという事になる。
「時空間魔術って、アユミにしか使えないんじゃねーのかよ!?」
「もしやあの建造物の内部に刻まれていたのは、転移魔術の魔法陣だったのではないか!?」
そしてトモエが気付いたこの現状の答え。それ以外に考えられない。
やがてその建造物に到着した皆は、ちょうどその突如現れた四人が建造物から出てきたのと鉢合わせした。
「けっ、シケたところだなやっぱ。どんくらい使ってねーんだっけか?」
「さあな。んなもんいちいち覚えてる物好きはいねーよ」
「フホホホホホ、吾輩は嫌いではありませんぞ? 廃退の美というものもあるのではございませんかね?」
「どうでもいいわそんなの……あら? 見て、先客がいるわよ?」
現れた四人は、男性が三人と女性が一人。それぞれが黒いローブを着て、目深なフードで顔まで隠れている。
「……皆、気をつけろ」
そして、シオンはその四人から感じ取った気配に警戒心を高めた。
この種族の気配は、以前……ヴァスキン帝国が攻めて来た国境砦奪還戦の時に一度感じたものだ。
「こいつら全員、魔族だ」




