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未到達領域へ。

 デミリッチ討伐後は、合流した皆とでドラゴンゾンビの相手となった。どうやらこのアンデッド達は復活させたデミリッチが倒れても関係なく行動できるらしい。


 アユミは自らドラゴンゾンビに手を下す事はなく、攻撃から身を守り続けていたが、皆が合流したらすぐに移動し任せてしまった。そのまま倒してくれても良かったのではないかとも思ったが、助けてもらった身の上なので文句は言えない。

 というかやはりアユミだけは実力が桁違いだ。どんなに距離が離れていても即座に転移で駆けつけてくれるその速効性、如何なる攻撃でも無力化し、精神体の存在でさえなければその気になれば瞬殺できる空間の層を生み出す時空間魔術。大抵の相手ではこいつ一人でどうにでもなってしまう強さなので、極力手を出さないようにしている判断は概ね正しいだろう。このダンジョン攻略の目的は皆の連携を強める事と経験を得る事なのだし。


 そして厄介な相手だと予想していたドラゴンゾンビだが、合流したエリスがあっさり倒してしまった。アンデッド系の魔物のような偽りの魂を与えられた存在に対して強力な効果を発揮する浄化魔術とやらで、ドラゴンゾンビはあっという間に物言わぬ屍に戻ってしまったのだ。こっちもこっちで大概だった。


 デミリッチ討伐後の第六階層は、それまでのフロアのように所々に魔物が彷徨いているだけのありふれた場所となった。勿論それらの魔物も強力でこそあるが、こちらの戦力からすれば脅威とは言えない程度のものだ。


 この階層も夜の景色だが、外での時間も既に日は落ちている頃だ。今日の野営場所を探す事に。

 トモエが調べた限り、周囲には洞窟等のような身を隠せる場所がないらしく、仕方なく適当な場所に結界と幻術を張るだけの野営地となった。これまでの野営地に比べ不安はあるが、普通の冒険者パーティーの野宿に比べれば遥かに安全だろう。


「思ったんですけど、このフロアのゾンビ化した死体って何処から来てるんですかね? ここって私達が来る以前は、例のA級冒険者さんがリーダーのパーティー以外に誰も来た事なかったんですよね?」


 そして食事中に、エリスが疑問に思ったのであろう事を尋ねてきた。確かに、人間の遺体が魔物化した存在がゾンビなのだから、その遺体となる人間が全く訪れなかったこのフロアにあれ程の数のゾンビが現れるのは普通に考えると不自然に思えるだろう。


「ふむ、確かに議論の余地はある課題だが、一般的にはダンジョン内のアンデッド系の魔物もダンジョンの魔物生産能力によって作り出されているという論が主流だな」


 エリスの疑問に答えたのはやはりトモエだった。


「魔物生産……? 何だそれ?」


「初耳ならば説明して進ぜよう! ダンジョンには内部の魔物の種類と数を一定数に保つ性質があるらしく、ダンジョン内に外部の者が存在しなくなった時、死亡した魔物と同じ魔物を生み出す能力が備わっているとされている。つまり、我々がこのダンジョンから脱出した時、我々が倒したデミリッチ等の魔物は復活するというわけだ」


 ダンジョンの性質についての知識を持っていないマサヤにトモエが生き生きと説明した。ダンジョン内が普通の世界とは異なる法則を持っていると言われている理由の最たる例だ。


「へー、じゃあドロップアイテム取り放題じゃん。すげーな」


「ホントゲームみたいな世界ですよね。でも、それじゃああのゾンビ達は最初からゾンビとして生み出されている事になるんですか?」


「そうなるな。さらにこのフロアのゾンビ達は、シオン氏が言うにはデミリッチが死体から復活させたという話なので、デミリッチの付属品の死体として生成されていた可能性がある。実に興味深い事例だとは思わないかね?」


 人間の遺体に瘴気を帯びた魔力が宿り動き出した存在がゾンビと言われているが、ダンジョン内のゾンビは最初からゾンビとして作り出されている。このフロアのゾンビ化した多くの死体は、デミリッチの死霊魔術の為に付属品として生成された。奇妙な話だが、それ以外に説明がつかないのも事実だ。


「うーん、何だか冒涜的っていいますか、変な感じですね。そもそも、ダンジョンって何なんでしょうね?」


 一応は納得したエリスだが、今度は根本的な疑問を呟いた。


「ふむ、深い議題だな。実はダンジョンの歴史についてはわからない事だらけなのだ。いつからこの世界に出現したのか一切伝えられていない。創世神話にもそれらしき記述は全くない。ダンジョンという存在がある事がこの世界の常識とでも言わんばかりに、当たり前のように各地に点在している。此れ程までに不可解な存在だというのにな」


 トモエの語った通り、確かにシオンもダンジョンの成り立ちについては今まで全く聞いた事がなかった。異界へと繋がる階段で各階層を繋ぎ、魔物を生み出す摩訶不思議な場所。今までは気にも止めなかったが、指摘されたら確かに不思議に思えてくる。


「アユミが神様に聞いてみたらどーよ? 神様ならダンジョンの成り立ちとかも知ってんじゃねーか?」


「あー、ダメダメ。あいつらそういう事全然教えてくれないから。現時点でこの世界の人類が知り得ていない情報を開示するつもりはない、とか言ってさ」


 マサヤが反則みたいな提案をアユミにしたが、先手を打たれていたようだ。今さらだけど、神様って何の役にも立たないな?


「ダンジョンの不思議と言えば、ダンジョン内で死んで放っておかれた死体は消えてしまう、ってのもあるな」


 シオンが他にも思い出したダンジョンの奇妙な性質を言った。ダンジョン内で魔物に殺され、その遺体が回収できなかった冒険者は遺品すら残らないらしい。弔ってやる事もできない何とも悲しい話だ。そんな最後にだけはなりたくないものだ。


「えー、モンスターに食べられちゃってるってわけじゃないんですか?」


「肉食性の魔物が出没しないフロアでも例外なく消失するらしいぞ? 肉や骨だけでなく、服や武器等の装備品まで跡形もなく消えてしまうそうだ」


「なんかヤだねー。何処に消えちゃってるんだろ?」


「さてな。消失するのも魔物が生成される時と同様、ダンジョン内に外部の者が存在しない時に発生するらしいから確かめようがない。他にもこんな話もあるぞ?」


 トモエが新たなダンジョンの不思議を語りだし、今日の食事中の話題はこの内容で持ちきりになった。






 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★






 ダンジョン突入から九日目の、外の世界では早朝にあたる時間帯。その後第六階層では特筆すべき出来事もなく、昨日の間に順調にマッピングが完了した。


「やっと第七階層! 未到達領域に突入だね!」


 最初に掲げた目標にようやくたどり着いた事が嬉しいらしく、アユミが嬉々として語る。


「これより我々は歴史に名を残す偉業を成し遂げる事となる! 前人未到の世界に足を踏み入れ……」


「さっさと行こーぜ」


「よーし! レッツゴー!」


「貴様ら少しは感慨というものをだな!?」


 何やら演技がかった口調で大仰に語り始めたトモエを無視し、マサヤとアユミが次の階層への階段に向かい駆け出した。シオンもそれに続き、エリスも苦笑しながらついて行く。


「待て待て、ここから先は一切の情報がないのだ! 少しは慎重にだな……」


 遅れながら皆を追うトモエ。その指摘もごもっともだ。

 先頭で階段を降り続けるマサヤとアユミ。暫くしてその二人が立ち止まり皆に振り返る。


「この先だね」


 二人の前方は、階段の終わりが見えた。その先は横へと繋がる通路。

 追いついたシオンが覗き込んで見たところ、その通路の先も階段と同じ幅の狭さのトンネルが続いていた。しかし感知能力ではその通路を認識できない。

 ダンジョンを繋ぐ階段の通路とダンジョンとでは、特殊な境界線が張られており、向こう側の魔力を知覚できないのだ。第一階層でマンティコアの群れが階段にいたシオン達に気付かなかったのもそれが理由だ。

 つまりこの先のこの狭い通路は、間違いなく第七階層になっている事になる。


「……オレが先に行って周囲を確認する。大丈夫なようなら合図する」


 感知能力に優れたシオンがそのように提案し、皆の了承を得て進み始める。慎重に階段の先へと出て、第七階層に足を踏み入れる。

 視認できる限りは何ら変化はない。シオンはすぐに周囲を感知能力で確認する。

 トンネル内は特に気になるものはなく、少し歩いた先は拓けた場所になっている事がわかった。恐らくそこから先がこのフロアの本格的な構成なのだろう。


 安全である事を確認し、皆に振り返り手招きする。皆もこのトンネルに出てきてから、シオンはトンネルの出口へと歩き始めた。


「近くに魔物はいない。この先は拓けているみたいだ」


「こういうパターンのフロア、確か他のダンジョンにもありましたよね」


 出口にゆっくりと向かいながら皆に伝えたシオンに、小声でエリスが聞いてきた。

 確かにエリスの言う通り、階段の先がトンネルになっているフロアがあるダンジョンも体験した事がある。確かそのフロアは、広い洞窟の迷宮が続く地底のような場所だった。もしその時と同じようなパターンだとしたら、この先は……。


 やがて洞窟の終わりが見えてきた。その先に広がる光景を目にし、シオンは思わず立ち止まってしまった。


「これは……」


 洞窟の先の景色は……空は岩肌に覆われた地底を思わせる場所。だが眼前に広がるその世界は、地平線が見えない程に広い。

 今いる洞窟は岩肌に空いているらしく、その下には、建物が建ち並んでいた。


「街……いや、遺跡、か?」


 その光景を目の当たりにしたトモエが呟いた。

 建ち並ぶ建造物は、その殆どが民家を思わせる岩造りの建物。だが生きている者は目に見える範囲には見当たらない。


 第七階層は、遺跡が広がるフロアだった。

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