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第六階層。

「諸君! 第五階層のマッピングも終了だ! これより第六階層へ突入しようではないか!」


 ヴァリブトル地下迷宮の攻略を開始して七日目。雪景色が広がる第五階層のマッピング作業が完了した事をトモエが告げた。


「やっとかー。いい加減飽きてきたところだぜ」


「今の時間はだいたい昼頃か……野営地は次の階層で探すか」


「第六階層はどんなところなんですか?」


「うむ、情報によると夜の荒野だ。地形的な障害はないフロアのはずだ」


 次の階層への階段に向けて歩き出した皆は、各々思い思いに語り出す。


「なら楽なフロアだな。ボーナスダンジョンか?」


「その分出現する魔物が強いんだろ。それに第六階層は確か……」


「シオン氏の言う通り。ここヴァリブトル地下迷宮の判明している情報は次の第六階層まで。つまり、かつてこのダンジョンに挑んだ冒険者は第六階層で撤退したという訳だ」


 シオンの発言の続きをトモエが引き継いで語った。第五階層までは過去の冒険者が攻略してきたフロアだが、次の階層からは未知の領域と言って差し支えない。ここからが本番なのだ。


「ようやく未到達領域の入り口ってわけだね。どんなモンスターが出てくるの?」


「うむ、アンデッド系の魔物ばかりらしい。過去にここまで来た冒険者パーティーはAランク冒険者がリーダーの凄腕パーティーだったらしいが、絶え間なく押し寄せてくるアンデッドの大群の前に撤退を余儀なくされたという話だ」


 アユミの質問に、トモエは調べておいたのであろう過去のヴァリブトル地下迷宮に挑んだ冒険者パーティーの話を聞かせた。Aランク冒険者が率いるパーティーが撤退する程の難易度、か。


「へー、確かに相当な難易度みたいだね。でもまあ、ここにいる全員が実力ならAランク冒険者以上なんだし、攻略できなくはないかな?」


「毎度の事だが、お前らの実力にオレも同じように扱うのは……」


「今なら同じでしょ? 融合気功術。もう少し胸を張りなよ」


 アユミの発言に難癖をつけようとしたシオンだが、そのように返されてしまった。

 確かに融合気功術の会得によってシオンの実力は目に見えて上昇した。しかしその融合気功術が使えるのは一時的なものだ。まだ長く保つ事ができないうえに使用した後は強い疲労感に苛まれる。そのうえ前準備としてエリスから魔力を受け取らないといけない。言わば最後の切り札だ。使い所が難しい事はアユミも承知しているだろうに。アユミの期待に素直に応えられないシオンだった。


 第六階層への階段を見つけ降りる一行。先頭を歩いていたトモエは階段の出口の手前で一度立ち止まり皆に振り返り見合わせた。「準備は良いな?」と口には出さず確認したのだ。

 皆の頷きを目にし向き直ったトモエは第六階層へと踏み込んだ。皆もすぐにそれに続く。


 直前でトモエの言っていた通り、第六階層は見渡す限りが地肌に晒された暗い荒野だった。上空に煌めく星々と月明かりが辺りを照らし、視界は暗くこそあるが悪くはない。多少起伏のある大地だが、小高い丘に登れば簡単に周囲を見渡せるだろう。

 だがしかし、


「……何もいませんね?」


 辺りを観察した皆の真っ先に浮かんだ感想をエリスが代弁した。周囲に魔物らしき姿は見当たらないのだ。

 トモエが調べた情報によると、アンデッド系の魔物の大群が襲ってくるという話だったはずなのだが。


「地面の下に潜んでいたりとかか? いきなり出てきて足首をガシーって掴みかかってきたりとかよ」


「えー、嫌ですよそんなビーキュウホラーエイガみたいな展開。でも本当にありえますよねそれ?」


「どうなのシオン君? 地面の下の気配も感知できるよね?」


「ああ、地面からも気配は何も……あ、ちょっと待て」


 周囲の気配を探っていたシオン。マサヤ達の言うように地面にも注意を払って探るもののそれらしい気配は感じられなかった。だが、遠く離れた位置から強烈な気配を感じ取った。

 強烈に感じた理由は、あちら側の気配の主もシオン達を注視しているからだろう。その強い意識……殺気が感知能力の高いシオンに伝わってきたのだ。


「あの方角、結構離れているけど、魔物が一体いる。そいつもオレ達を見ていやがる……これは……魔術か?」


 その遠く離れた魔物が、魔術を行使するのを感じ取ったシオン。こんなにも離れていては如何なる魔術であろうとこちらにまで大した影響は与えられないと思うのだが。

 やがてその魔術は完成したらしく、魔物の体内に膨れ上がった魔力が地面に伝わり、広がっていった。だがその範囲もシオン達のいる位置にまでは到達していないが……。


 疑問に思うシオンだが、すぐに異変を察知した。魔物の使用した魔術から発せられた魔力が伝わった地の底から、次々と新たな魔物の気配が生まれ現れ始めたのだ。それを感知した間も無く、その気配達は地面から這い出て地上に姿を現した。その様子は肉眼でも確認できる程に。

 出現した魔物はトモエが語っていた通り、全てがアンデッド系の魔物。多くは武装したゾンビやスケルトンだが、中には機敏な動きを見せるグールや、屍の馬に跨った首のない騎士の姿をしたデュラハン等、強力なアンデッドまでも散見できた。


「わ、ちょっ、ホントに地面から出てきましたよ!? ちょっと遠いですけど」


「おいおい、近くには何もいないんじゃなかったのかよ!?」


 アンデッド達の出現を視認したエリス達が騒ぎ始める。直前まであの魔物達はただの屍だったはずだ。それが最初の魔物の魔術によってアンデッド化したとなると、


「あいつ……死霊術師ネクロマンサーか!」


 死霊術師ネクロマンサー。死霊魔術という錬金魔術と闇属性魔術の複合魔術で、死霊や死体を操りアンデッド系の魔物を生み出す禁術を扱う稀な魔術師だ。

 実際目にするのは初めてだが、それまで恐らくもの言わぬ死体だったのであろう目の前のアンデッド系の魔物達が動き出したのはあの魔物の魔術によるものである事は明らかで、そんな芸当が可能な存在は死霊術師と呼ばれる者に限られるだろう。


「シオン氏よ、あれらのアンデッド全てが最初に見つけた魔物の死霊魔術によるものと考えて良いのかね?」


「ああ、確かだ。一部始終を確認していた」


「そうか……ならばその魔物は『デミリッチ』かそれ以上の存在である可能性が高い。これ程までの死霊魔術を行使できる魔物となると、な」


 シオンの質問の答えを聞いたトモエはそのような結論を述べた。デミリッチ。不死を求めた大魔術師の成れの果ての姿と言われている、トップクラスの危険性を誇るアンデッド系の魔物だ。高位の魔術を駆使し、なかでも死霊魔術に長けているとされている。

 確かにこれ程の数の、それも上位アンデッドも複数を含む死霊魔術の行使が可能な魔物となればそう考えるのが妥当か。


「シオン氏よ、まだデミリッチの居場所は把握できているか?」


「ああ、大丈夫だ。あいつの気配は覚えた」


「ならばシオン氏はデミリッチの討伐を最優先に動いてくれ。奴を放っておくと無制限にアンデッドを呼び出されてしまう。いくら我々でも永遠に連中の相手をさせられては身が持たんからな」


「了解!」


 トモエの指示を受け取り、標的を見失わないよう見定める。デミリッチは最初に魔術を使用した場所からそう離れてはいない。


「皆はシオン氏のサポートを! シオン氏よ、融合気功術の使い所の見定めを違えるなよ?」


「ああ、勿論だ。エリス! 魔力を頼む!」


「はい!」


 シオンが差し伸べた手をエリスが掴み、術式に使用されていない純粋な魔力がシオンの身体に流れ込んで来る。注ぎ込まれた魔力を身体の中に留め保留する。これでいつでも融合気功術を発動できる状態になった。しかしその発動は切り札だ。ここぞという瞬間を見定めなくてはならない。


「エリス嬢の補助魔術が切れる頃合いには皆再度エリス嬢の元に集合するように! では……」


 各々が武器を構える。眼前に迫り来るアンデッド系の魔物達を見据え、


「行くぞ!」


 トモエの怒号を合図に駆け出す。第六階層、アンデッド軍団との戦闘が始まった。

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