新たな力と、二人の関係。
シオンは一体のフロストジャイアントと対峙していた。
自慢の曲刀、雨鴉を構えながら、相対する巨体に注意しつつ静かに体内の魔力に意識を集中させる。
体内に存在する魔力は、自分のものだけでなく直前にエリスから受け取った魔力もある。その二種類の魔力をひとつにし混ぜ合わせ、融合させる。そして融合した魔力を全身に巡らせる……。
昨日寝るまでトモエの指示の元、散々練習した一連の作業。本番である今も、問題なく使用できた。
直後、フロストジャイアントが動き出した。シオンの魔力の流れが大きく変化した事に気付いたらしい。シオンの変貌は体内の魔力の流れのみならず、全身を覆う輝かしい光も視認できる。
シオンに近付きながら拳を大きく振り上げる青白い巨人。結構な距離をほんの数歩で詰めてしまえるのは流石の巨躯といったところか。それを認識してから、シオンも魔力の流れを保ったまま行動に出る。
振り下ろされた巨大な拳は、轟音とともに白い雪に染まった地面に穴を開ける。しかしそこには既にシオンの姿はない。巨人の拳を引き付けてから動いたシオンは、瞬時にその巨人の背後に回っていた。
動き出す直前、シオンの目には巨人の攻撃がとてもゆっくりと迫るように見えていた。無論巨人がそのように動いたわけではなく、シオンが認識する速度がその一瞬でそれ程までに加速していたのが理由だ。その事をシオン自身もすぐに理解できた。そしてどの程度の力加減で、どれ程の速度で自分が動けるのかも本能的に理解した。
シオンの姿を見失い戸惑う巨人。その巨躯の背に向かい、シオンは力強く地を蹴り高く跳躍した。その速度もまたかつてのシオンにとって信じ難いものだったが、肉体は既にその速度に順応している。巨人の頭部に到達するタイミングもわかる。
フロストジャイアントの頭とすれ違う瞬間、シオンの身体を覆う光と同じように輝く雨鴉が振るわれた。その斬撃は容易く巨人の首を裂き、頭と胴体を分離させた。過去のシオンならばせいぜい切り傷を負わせられる程度の威力しか出せなかっただろう。斬撃の威力は目に見えて強力になっている。
速度が落ちて行きその身も地面に吸い寄せられるシオンはそれでも尚落ち着き体勢を立て直し、着地の衝撃を魔力によって打ち消す。巨人の身体が倒れ大きな音を立てたのもその時だった。
「……ふぅ」
決着がつきひと息ついたシオン。一瞬の攻防だったが、終えると同時に軽い息切れとともに汗が滲んできた。気功術の使用は予想以上に体力を消耗するらしい。
「〜〜っ! カッコいい! シオン君すっごいカッコよかったです!」
そして離れた位置で戦闘を見物していたエリス達が近寄ってきた。特にエリスは感極まっている様子で、子どものように瞳を輝かせながら駆け寄ってきた。そして嬉しそうにシオンの肩を掴み揺すり始める。
「もー! 何なんですかシオン君は!? 何度私を惚れ直させたら気がすむんですかもー!」
「わかったから揺らすな。結構しんどい」
「あ、疲れちゃってます? それなら『疲労回復魔術』。これで少しは楽になると思いますよ」
シオンの疲労に気付きすぐに体力を回復する魔術をかけるエリス。そんな魔術もあるのか。おかげでシオンはすぐに落ち着きを取り戻した。
「名付けて融合気功術、と言ったところかな? 予想通り、普通の気功術よりも数段強力な身体能力強化だったようだ」
シオンに声が届く距離まで近付いたトモエが語り出した。名付けて、と言うがそのまんまだな。
「体力の消耗度合いも通常の気功術同様、扱いに慣れていけばそのうち軽減されるであろう。実に興味深い技術だ!」
「やー、ホントびっくり。まさかこんなに強くなっちゃうなんてね」
「すげーなマジで。俺にもできたりしねーの?」
「不可能だな。シオン氏のスキル、ルキュシリア神の寵愛があって初めて発揮される技術だと推測できる。さらに言うと、融合させられる魔力はルキュシリア神様と同一の魔力を保持するエリス嬢のもののみであろう。シオン氏とエリス嬢の二人がいて初めて実現できる極めて特殊な事例だ」
遅れて来たアユミとマサヤ。羨ましそうに呟くマサヤに、シオンの使った技術が如何に特異なものだったのかを説明した。だがそもそもマサヤなら今のような芸当くらい自力でできるだろうに。
「私とシオン君の愛の結晶って事ですね!? はー!」
「言い方! 誤解を招く言い回しはやめろ」
相変わらずのエリスに頭を痛めるシオン。本当にこいつって奴は。
「しかし、急激な身体能力の変化だというのによくあそこまで精確に動けたな? 最初は変化に認識が追い付かず戸惑うのではないかと予想していたが……」
「ああ、その辺は何となくだけどすぐに順応できたよ。感覚的にどの程度の力加減が必要なのか理解できたっていうか……」
「あー、わかる。なんか身体が教えてくれる感じなんだよな」
トモエの疑問をうまく説明できないシオンだが、マサヤには伝わったらしい。これは気功術を扱う者の独特な感覚なのだろうか?
「ふむ、なるほどなるほど……力加減は問題なし、か。これでシオン氏は一時的にとはいえ、マサヤと同等の身体能力を発揮できる術を手に入れた事になるな」
「凄いねそれ。ボク達異界人並みの戦闘力になれるわけでしょ? まさかそんなに強くなってくれるなんて思ってもみなかったよ」
「今回のダンジョン探索の最大の成果やもしれんな。とはいえその能力もより効率よく使いこなせなければならん。今後のシオン氏の課題は、融合気功術に慣れ持続時間を伸ばす事だな」
結論を纏め、これからのシオンの行動指針を述べるトモエ。そうなるとやはり何度も融合気功術を使う事になるか。
「あ、でもヒーリングオーラには限度がありますのでそこは注意して下さいね? 体力の回復はできるだけ自然に回復させるほうがいいですよ?」
「ん、そうなのか……なら融合気功術を使うのは、その後休める機会がある時がいいな」
「若しくはそれが必要だと判断する程の強敵に遭遇した時、だな。その辺りの判断は任せる事にしよう」
エリスの体力を回復させてくれる魔術は万能ではないらしい。その魔術があれば際限なく融合気功術を使えると思っていたが、少し地道に慎重に使っていかないといけないようだ。
「ともかく、早く使いこなせるようになってしっかり戦力として活躍しないとな」
新たに手に入れた力。シオンはそれを噛み締めながら決意とともに拳を握るのだった。
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「……うーん……」
「どうしたのだアユミよ? 浮かない顔をする理由は何だ?」
「や、ボク達からするとすっごくありがたい事なんだけど……シオン君、自分で気付いてないみたいだけど、今まで以上にエリスちゃんに依存する事になっちゃったよね? 本当にこれで良かったのかなって思っちゃってね」
「ふむ、なるほど。確かに二人の関係はもはや共依存と呼んで間違いではなさそうだ。俺はそれこそがルキュシリア神の寵愛の本質なのではないかと考えている」
「シオン君をエリスちゃんに依存させる事が?」
「深過ぎる愛欲の結果とも言うべきか。故に強力であると同時に不安定だ。もしどちらかが欠けてしまえば……考えるだに恐ろしい事になるだろうな」
「わー、何かもうヤンデレじみてるね。本当に大丈夫かなあの二人……」
「可能な限り我々も目にかけてやらねばな……さて、シオン氏にはこの融合気功術の実用性が如何程のものかじっくり試させて貰わねばな。フフフフフ」
「そういう君は探求欲の化身みたいなものだけどね……こんな欲求が強い人がそれぞれの権能に選ばれたのか、権能のスキルが人格を歪めてしまっているのか時々わからなくなるよ。あいつらマジでろくでなしだしそれくらい平気でやらかしそうだし……杞憂だといいんだけどね」




