表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/170

マッピング。

 ヴァリブトル地下迷宮、第四階層。

 地形自体はありふれた平原地帯なのだが、しとしとと絶えず降り注ぐ小雨が原因でところどころが泥濘んでおり、足場に気をつけなければならないフロアだった。

 雨水はエリスの防護魔術のおかげで防げてはいるのだが、先に述べた足下と良好とは言えない視界はどうしようもない。加えて奪われゆく体温も問題だ。砂漠地帯だった第二階層程ではないにせよ、あまり長居はしたくない階層だ。


 そんな第四階層なのだが、シオン達はこのフロアで二日間を過ごしていた。別に次の階層への入り口が見つからないわけではない。それは一日目には既に確認できていた。ならば何が理由で次の階層へ降りていないのかというと、


「……うむ、このあたりも完了だ。次の範囲へ向かおう」


 その場にしゃがみこんでいたトモエは展開していた魔法陣を消し立ち上がり、もう何度目かになる指示を皆に伝えた。

 トモエがここ、ヴァリブトル地下迷宮に入る前に提案していた、地図が作成されていない階層のマッピング作業の要望を皆が受け入れ、実行している最中なのだ。


 ヴァリブトル地下迷宮は第四階層以降のフロアの地図が市場に出回っていない。ダンジョン等の地図の作成は、一般的には先程トモエが使っていた地形を把握する魔術を行使し記録する事で行われる。


 しかしその魔術で把握できる範囲は限られており、そのうえ記録が完了するまで時間がかかる。魔物が闊歩するダンジョン内でそれを実行するには他の冒険者が作成が完了するまでの間、魔術師を守り続けなければならない。

 そしてその魔術師は魔術を使用し続けている為魔物から狙われやすい。当然周辺に出現する魔物の強さに応じて難易度が上がるのだ。それは普通にダンジョンを攻略するよりも遥かに困難と言える。

 さらに通常、ダンジョンの地図は各階層への出入り口を含んだ広範囲を記録しなければならないらしく、ただそれぞれの出入り口までのルートのみがわかる程度な出来では認められないらしい。詳しい範囲まではシオンは知らないが、それもまたマッピングの難易度を引き上げる要因である事は当然だろう。


 ヴァリブトル地下迷宮の地図が出回っていないのも頷けるわけだ。それでも第三階層までをマッピングした過去の偉人には敬意を表さずにはいられない。


 さて、そんな面倒なマッピング作業だが、今のところ順調に事が進んでいる。トモエの地形把握魔術はやはり一般的な魔術師のそれよりも精確でありながら一度に把握できる範囲も完了までの速度も圧倒的なまでに上らしい。

 シオン自身は実際に他の魔術師が行う地形把握魔術を目にした事はないが、それでもものの数十分程度で相当な範囲のマッピングを終わらせてしまうトモエの技術は実感できる。そのうえ数をこなす毎に手慣れていき速度が増して行くのだ。さすがとしか言いようがない。


 そのうえ、本来地形把握魔術を行使している間は術者は当然無防備になるはずが、トモエは片手間に簡単な攻撃、防御魔術を発動し防衛している皆のサポートまでこなしてみせた。地形把握魔術の完了速度も誤差の範囲で。最早呆れてしまう程の技術だ。


 と、それ程までに驚異的なトモエの魔術技量だが、それでもこの第四階層のマッピングに二日もかかっている。いやまあ、それでも恐ろしい速度である事は疑いようもないのだが、単調な作業が続いている事に変わりはない。出現する魔物も同じような連中ばかりなので、皆の態度に明らかな「飽き」が来ている事がわかる。


「そのまま行くと巨大カエルがいるな」


「カエルさんですか。ナメクジよりはマシですね」


 感知能力で周囲と進行先の方向を確認したシオンは、感知範囲に引っかかった魔物を皆に伝える。湿気が多い階層が理由か、その湿度を好む生物の魔獣化した魔物が多く出現するのだ。ちなみに、巨大というのは具体的には大人の人間の倍以上くらい。


 遭遇するであろう魔物を聞いたエリスが安心した様子で呟いた。こいつ、巨大ナメクジの魔物に遭遇した時、もの凄い取り乱しようだったな。「きゃー!? やだやだキモいキモいキモい! やだー!?」と、いつもの少々砕けた丁寧語すら吹き飛んだ口調でシオンに必死になって抱きついてきて…………忘れよう。うん。

 何度か遭遇するうちにそこまで取り乱しはしなくなったものの、苦手なものは苦手らしい。でもカエルは平気のようだ。基準がわからん。


「あー、カエル以外にもスライムも何匹かいるな。気をつけろよ」


 さらに巨大カエルの居る場所に接近したところで、シオンは新たに発見した魔物を皆に伝えた。

 スライムは魔石を核にした液体状の魔物だ。普段は地面等に潜み、獲物が近付くと湧き出てきて奇襲してくる、厄介な存在だ。そのうえ核を取り出すなり破壊するなりしなければ倒す事ができず、物理的な攻撃にめっぽう強いのも特徴だ。アユミはスライムに対してもエレメント系同様相性が悪いらしくお手上げである事を最初に遭遇した時に皆に語っていた。


「つえースライムか。めんどくせーな」


「ふむ、マッピング地点はもう少し先だな。俺も戦闘に参加しよう」


 スライムに効果的な攻撃手段はやはり魔術による攻撃だ。属性魔術のエキスパートであるトモエが手を下せばスライム連中はすぐに片がつくだろう。


 ちなみに、マサヤがスライムの事を「強い」と発言した理由は、エリス達のいた世界ではスライムは弱小モンスターのイメージがあったからだとか。物語なんかの最初あたりに出てくる雑魚モンスターとして扱われている事が多かった為に、この世界のスライムの強さに驚いていた。スライムの危険性を知っているシオンにとってはその扱いが逆に驚きだったが。

 人間も捕食対象とし、奇襲してその液状の身体に包み込んで生きたままゆっくりと溶かされる……襲われたら想像するのも恐ろしい。生きたトラップモンスターと言えるだろう。この階層に現れる魔物の大半は第一階層の魔物よりも強くないものばかりだが、このスライムの存在が大きく難易度を上げているのは確かなはずだ。

 冒険者の間では「この魔物にだけはやられたくない」と称される魔物の筆頭とまで言われているくらいだからな。


「ねぇねぇシオン君、この世界って、服だけ溶かすえっちなスライムっていたりするんですか?」


 そんな凶悪な魔物をネタに、何を発言しているんだこの残念異界人は。


「いるわけないだろ。数日かけて骨まで溶かされるに決まってるっての」


「あらら、そうですか。スライムが強いモンスター扱いだとそういう展開が多かったんですけどね〜」


「おい何だよそれ俺知らねーぞ? 詳しく聞かせてくれ」


「お前らの世界、だいぶ業が深い気がするんだが……」


 魔物を扱ったエロネタに花を咲かせるエリスと乗っかるマサヤ。ホント何なんだよこいつら……。


「実際そのようなスライムはこの世界には存在しないようだが、そのようなエロ本なら幾つかあったぞ。こちらの世界の人々も中々に想像力逞しいではないかね?」


「……え、ちょっとトモエさん、今何て?」


 頭を抱えていたシオンだが、トモエがさらなる問題発言をした。


「エロ本あるの!?」


 トモエの何気ない発言に驚愕の声をあげるシオン以外の皆。アユミも含めてだ。


「当然! エロい娯楽は万国共通に決まっている!」


「マジで!? マジで!? 今度俺にも見せろよ!」


「私も見たいです! 何ですかそれ面白すぎるんですけど!?」


「うわー、いやいや、マジで? 二年以上暮らしてたのに全然知らなかったんですけど。あー、すっごい下らないけど見てみたい自分がいる事にすっごい腹立つー」


 トモエがもたらした新たな事実に三人とも面白い程に食いついた。アユミまで。アユミまでも。


「はっ!? という事はシオン君も実はベッドの下にエロ本を隠していたり!? 迂闊! この世界にはないって勝手に思い込んでて今まで確認した事がありませんでした! 帰ったら真っ先に覗き見ましょう!」


「ねーよ。ねーからやめろ」


「マジかー。ここに来て新たな金の使い道ができちまったじゃねーか。ヒャッホウ!」


「ヒャッホウじゃねーよこのエロ猿」


「シュヘルムヴィアー、この世界はまだまだ奥が深いんだね……」


「頼むから帰ってきてくれ神託の巫女様」


 騒ぎ続け混沌と化した異界人パーティ。ところでお前ら、この騒ぎを聞きつけて魔物のほうから近付いてきているんだが、いつ収集つける気だ?


「おーい、お前ら、魔物が来てるからそろそろ落ち着け。な?」


「お、おう、オーケイオーケイ。クールに行こうぜ。楽しみは後に取っておかねーとな」


「……何だかあのカエルもエロい事してきそうな気がしてきました。ジーザス! この世はエロに溢れている!」


「溢れてるのはお前の頭の中だけだ馬鹿!」




 この後めちゃくちゃ魔物を屠った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ