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反省会。

「反省会? ラクショーだったろ今の。反省するような事なんか何にもなかったんじゃねーか?」


 降りてきたアユミの発言に異を唱えるマサヤ。苦戦こそしなかったのは確かだが……。


「何言ってんのさ。いちばん反省点が多かったくせに」


「んあ? 俺がか?」


「うむ、ズバリマサヤ氏は周囲の状況を把握する観察眼に欠けているな」


 アユミの反論を肯定しながら、トモエが今の戦闘時のマサヤの問題点をくいと眼鏡を上げながら指摘した。


「あー、確かにちょっと戦うのに夢中になり過ぎてる感じありましたよね〜」


「俺が大魔術を放つ前も、シオン氏が注意するまで気付いていなかっただろう? 味方との連携を全く考えていないのは如何なものかと思うぞ?」


「うっ……で、でもよ、フツーに倒せたんだし言う程の事じゃねーんじゃねーか?」


「それはこの程度の魔物相手だったから言えるわけで。もっと強い敵との戦闘で、君のその欠点が理由になって大変な事になっちゃうかもしれないって考えても同じ事言える?」


 マサヤの苦し紛れの反論もアユミの指摘に潰され、項垂れてしまった。しかしお前、マンティコアの群れを「この程度」て。


「観察眼、ってのは敵を観察する場面にも言えてるな。お前、マンティコア達が毒息を吐いている間、吐くのを止めるまで何も動いてなかったよな? マンティコアの奴らあんなに無防備だったってのに」


「え? ……あ、あー! 言われてみれば!」


「ダメダメじゃんマサヤってば。次からはもう少し周りを見て考えて動く事だね」


「へーい、反省しまーす」


 反省点の改善案をまとめて指摘したアユミにぶっきらぼうに返事をしたマサヤ。身体能力は桁違いに高いのだから、多少その動きが鈍ったとしても観察眼を養うのは大切な事だし無理はないはずだ。こちらもサポートは惜しまずするつもりだし。


「次はトモエかな?」


「む? 俺に欠点があったかな? 我が複数魔術の同時詠唱は我ながら芸術的であったと自負しているのだが!」


 アユミの今度の矛先はトモエのようだ。確かにトモエのあの魔術の技量は申し分なかったはずだ。とはいえシオンは術者型の冒険者ではないのでその判断が正しいのかはわからないが。


「魔術の選択が見ててあんまり良くは思えなかったね。詠唱を短縮できる魔術にしても、多少時間を必要とする魔術を使ってでももっと威力のある魔術を使うべきだったし、最後の大魔術は逆に威力が過剰だった。何れも魔力を余分に消耗してしまう事例だから、もっと的確な魔術の選択をすべきだね」


「む、成る程それは盲点……しかし、初見の魔物相手に的確な魔術の選択というのは可能なのか?」


「術者タイプは経験を積めばその判断ができるらしいよ。現にエリスちゃんは結構的確な威力で攻撃してたし」


「あはは、何となーくわかってきますよ?」


「ふむ、要は経験を積むべし、と。あいやわかった。俺の課題はどうやらそれのようだ」


 トモエの問題はシオンでは気付けなかった魔術関係の面だったようだ。納得したらしいトモエは素直にその指摘を受け入れた。


「エリスちゃんは無難に立ち回ってたね。深追いせずにシオン君とマサヤをいつでもサポートできるように気を配ってて」


「もう少し積極的に攻めても良かったですかね?」


「や、エリスちゃんはそれでいいと思うよ? 回復役なんだから無理に攻めに行かれても困るしさ。あえて指摘するなら、自分の身の安全を最優先にして欲しいってところかな? 君が先に倒されちゃったりしたら立て直しできないからさ」


「はーい、わかりました〜」


「……シオン君が危険な目に逢おうとしている時、自分の身を投げ打ってでも助けようとしないよね?」


「え? …………駄目です。絶対シオン君助けます」


「それがいちばんの問題なんだけどなー……まあいいや」


 いやよくないが。

 エリスの発言に半ば呆れながらも切り上げたアユミは、今度はシオンを向く。自分では自身の問題は気付けないものだが、さて。


「シオン君も無難に立ち回ってたけど、逆に君はもっと攻めに行っても良かったと思うよ? みんなの状況を観察しながら戦ってたみたいだけど、君ならもうあと一、二匹くらいなら倒せてただろうし」


「ん、そうか。オレみたいな半端な実力の奴が積極的に攻めるよりは遊撃手に回るほうがいいって思ってたんだが」


「あー、君の欠点はその自己評価の低さだね。間近でエリスちゃんやマサヤと一緒に冒険してきたせいで気付いてないかもしれないけど、君も結構凄いスペックしてるんだよ? ボク達は君も大事な戦力として数えているんだから、もう少し自信を持ってほしいかな」


 アユミは改めてそのような指摘をシオンにした。そんな事を言われても、こいつら全員破格過ぎる実力者なのだから、シオンのような一般冒険者が一人居ようと居まいと何ら変わらないとしか思えないのだが。


「けどまあ、遊撃手としての立ち位置は悪くないかもね。戦闘中に仲間どうしの間で距離が開けちゃう場面も多そうだし、情報の伝達役は必要かな? 元々ボクがその役目をしようとしてたけど」


「なら、オレの戦闘方針はこのままでいいか?」


「そうだね。特に誰かさんがもっと周囲の状況把握能力を身につけてくれるまではね」


「悪かったからそんなに虐めんなよー」


 アユミはマサヤをからかいながら、シオンの立ち位置の現状維持に頷いた。


「ボクが気になったのはこんなもんだけど、他のみんなは何か気付いた事ある?」


「俺は別に……」


「君は全然周り見てなかったんだから当たり前でしょ」


「ぐぅ」


「んー、私からは何もありませんよ? ていうか全部アユミさんが言ってくれましたし」


「うむ、こんなところだろう」


「だな。まあ強いて言うなら……」


 他の者が何も意見を出さない中、シオンはずっと思っていた事を口にした。


「本当に最後まで参加しなかったなお前」


「え? あはは、最初に言ったじゃん。まだ気にしてたの?」


 アユミはダンジョン突入前に言っていた通り、戦闘に全く参加しなかった。このダンジョン攻略の目的がそれぞれの戦闘スタイルの確認も兼ねているというのに、これでは大問題だ。


「仕方ないな〜。じゃあ次の戦闘はボクも戦うよ。そのあとで改めてボクの扱いを考えてみてよ」


 アユミはシオンの指摘に肩を竦めながらそんな約束をした。ようやくこの謎だらけの異界人の実力が視れるのか。






 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★






 結論から言うと、意味がわからなかった。


 準備していた地図に従い、さして深くはない林を進む途中で遭遇したのは、蛇のような長い胴体を這いずらせながら現れた、クエレブレと呼ばれる竜種だった。

 全身を覆う鱗は生半可な刃は通さない強靭な鎧と化しているとされていて、知能は竜種としてはあまり高くはないが好戦的で危険なモンスターと知られている。討伐難易度はマンティコア以上だ。


 そんなクエレブレが姿を見せると同時に、アユミはすぐさまその目の前に躍り出た。当然クエレブレは攻撃を仕掛けた。長い尾を振り下ろしアユミを叩き潰そうとする。が、その尾はあと僅かでアユミに接触する距離にまで迫るとそこで衝突する音とともに止まってしまった。

 エリスが多用する『防壁魔術プロテクション』かと思ったが、何かが違う。エリスやトモエの使う魔術とは……そもそも、アユミとクエレブレの尾とを隔てている見えない壁からは、魔力が感じられなかった。


 アユミの使った防御手段が何なのか考察する間も無く、戦況は進んだ。突然、クエレブレの尾が千切れたのだ。

 強固な鎧も同然であるはずのクエレブレの鱗を無視するかのように、鋭利な刃物で斬り裂かれたような断面図が一瞬垣間見え、すぐに切り離された尾は血を吹き出した。アユミは武器らしき物は何も持ってはいない。恐らく魔術による攻撃だと思うが、その正体は全く判別できなかった。アユミは一体何をしたんだ?

 激痛に雄叫びを上げるクエレブレだが、その目の前に、いつの間にか標的に定めていたアユミの姿が現れていた。これは例の瞬間移動だろう。そう判断した次の瞬間、先程の尾のようにクエレブレの首がポロリと胴体から離れ落ちてしまった。


「こんなもんかな? どうだった、シオン君?」


 首を無くしたクエレブレの身体が倒れ地に伏すと同時、シオンの横からそれまでクエレブレと戦闘を繰り広げていたアユミが声をかけてきた。


 どうだったも何も……チートじゃん。

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