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黒騎士、白銀の君の依頼を受ける。

「依頼、か……」


 俺はゆっくりとマツリと名乗った少女に身体を向ける。多くの冒険者連中が憎たらしげにこちらを睨んでいるが、好きにさせておこう。マツリに決断を委ねると言い出したのはあちらのほうなのだから文句はあるまい。


 改めて目の前の少女、マツリを観察する。可憐で儚げな印象を受けるが、その愛らしい笑顔は自信に満ち溢れており、それもまた好印象を受ける。しかし肌の色が死者を思わせる程に蒼白なのは気になるな。何かの病気だろうか?


 さて、少女の観察も程々に、返事をしなければな。


「御指名して頂いたのは嬉しいが、良いのか? お前の依頼を受けたがっている冒険者は多いようだが」


「いいのよ。貴方を選んだのは好奇心。別に護衛が務まるのなら誰でも良いのだけど、どうせなら面白そうな人と一緒に行くほうがいいじゃない?」


 俺の質問ににこやかに答えるマツリ。面白そう、か。そんな理由で断られた冒険者連中は御愁傷様だな。


「そうか……依頼は受けても構わんが、その前にそちらの事情も聞かせて頂きたいところだな。何故霊峰に行こうとしているのだ?」


「…………」


 別にすぐにでも引き受けても良かったが、俺はそこいらの有象無象と違い多少は冷静だ。美少女からの多額な報酬が与えられる依頼だからと言って警戒心を緩めるつもりはない。それが黒騎士だ。

 それに本人の目的を聞いておけば冒険中の方針も考えやすいだろう。

 そう思っての質問だったが、何故かマツリは驚いた様子で黙ってしまった。


「どうした? 後ろめたい理由でもあるのか?」


「……いいえ、そういう訳ではないけど……貴方、もしかして……」


 マツリは何かを言いかけたが口には出さず、少し考える素振りを見せ、


「いいわ、詳しく話してあげる。隣りに座るわね」


 マツリはすぐに元の笑顔を取り戻し、俺の横の席に着く。


「それにしても、私の事は興味なさそうに振る舞っていたのに、こちらの話はしっかり聞いていたのね?」


 クスクス、と、含み笑いをこぼしながら俺のミスを指摘するマツリ。む、しまった。確かに考えてみれば目的地である霊峰についてはまだマツリから直接聞いてはいなかった。


「……お前のような目立つ者が来て、警戒しないわけにはいかないからな。動向を探っていた事は謝ろう」


 思いついた言い訳をすぐに語る。うむ、咄嗟の判断ではあるが我ながらそれっぽい理屈ではないか? 間違いなくこれで誤魔化せるだろう。


「フフッ、そういう事にしておくわ……それで、私が霊峰に行きたい理由、ね」


 マツリは俺の言い訳を適当に流し、一呼吸おいてから語り始める。


「私は召喚術師なの。今は私と契約してくれる精霊を探している旅の最中よ。マーコシュラス霊峰の神殿で、優秀な精霊と契約できるという話を聞いたの。だからそこに赴いてその精霊と契約しようと思っているの。これが霊峰に行きたい理由。納得して頂いたかしら?」


 語られた理由は……召喚術師か。このあたりでは聞いた事がないが、そのような術者がいるであろう事は想像していた。確か俺も高くはなかったが召喚魔術の適性があったからな。そういった魔術が存在している事自体は知っていた。それがどれ程強力なものなのかは知らないが。

 霊峰の神殿に祀られていると言われている精霊。マツリの目的はそれだったのか。


「成る程……理には適っているな」


「あら、もしかして疑っているの? 何だったら、召喚魔術も見せてあげましょうか?」


 俺の発言が煮え切らないもののように感じたのだろう、マツリは己の発言の正当性を証明してやろうと口にする。


「いや、信じていないわけではない。成る程、召喚術か……実際にこの目で見た事はないが、興味はあるな」


 そろそろ意地悪はやめて話に乗ってやる事にしよう。内心ではこの依頼は是非受けたいと思っているのだが、あまりキャラづけ……もとい、黒騎士らしく振る舞い疑い続けていては、彼女の気が変わってしまう可能性もある。彼女の依頼を受けたがっている冒険者は多いのだからな。


「いいだろう。この黒騎士、必ずや其方を無事にマーコシュラス霊峰の神殿まで案内する事を誓おう」


 マツリの誘いに乗り、握手を求める。彼女はすぐにそれに応えるが、その手は俺の鎧の手のひらの半分にも満たない程に小さく、些か様にならない握手になってしまった。


「大きな手ね……よろしく、黒騎士さん」


 それでも彼女は笑顔を絶やさずそう言った。


 ……ふむ、小さな白銀の少女と、それに付き従う巨躯の黒騎士、か。なんか、いいなこれ。物凄く絵になるぞ。


「……時に白銀の君よ、其方は皇帝陛下に推薦状を頂いていたようだが、如何な身分の者であるか尋ねても?」


 握手を終え、気になった事を聞いてみた。皇族あたりなのではないかと予想しているが。


「ああ、唯の客人よ? とても良くして貰っているけど。帝都の民はみんな私のファンだもの」


「ふむ……アイドルのようなものか」


「え?」


「む、すまんな。こちらの話だ」


 思った事をそのまま呟いてしまったが、いかんな。この世界にアイドルなる文化は存在しないだろうに。意味を尋ねられても面倒なだけだしな。適当に誤魔化して……


「別に歌ったり踊ったりなんてしてはいないけどね?」


 あるのかアイドル文化!? マツリのアイドルという単語に対する返答に驚いてしまった。こちらが驚愕した事は恐らくマツリには伝わっていないだろうが。


「ところで、白銀の君って? そんな風に呼ばれたの初めてだわ」


「気にするな。俺がそう呼びたく思っただけだ」


「フフッ、まあいいわ。じゃあ、手続きを済ませてしまいましょう。貴方は先に準備でもしておいたら?」


 マツリはそう言い残し、ご機嫌な様子で受付へと戻って行った。

 確かに言われた通り、早速出発の準備でも……いや、そういえば俺は依頼を終えてドロップアイテムの換金待ちだったな。マツリが来て騒動になってしまい忘れていた。


 マツリとは違う受付に行くと、既に俺の報酬の換金は終えていた。対応してくれるエルフ族の受付嬢は、そのついでにマツリとのやりとりについてそれとなく聞いてきた。普段は表情を崩さないクールな受付嬢の珍しい一面に内心面白く思いながらも、適当に返して切り上げる事にした。


 白銀の君を護衛しながらの、マーコシュラス霊峰の神殿へ。今回の依頼は、どれ程俺を楽しませてくれるのか。フッ、心踊るな。






「ねぇ、ひとつ質問いいかしら? 『アイドル』って知ってる?」


「あいどる、ですか? 何かの呪文ですか?」


「いいえ、知らないならそれでいいの……ウフフフフッ、特定したわ……異界人さん」

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