王都に移り住む事になりました。
「歳を取らない、か。そいつまだ十一歳だったっけか? んなガキの身体のまま生きて行くって、なんか可哀想だな」
イーヴィティア神の権能の能力について聞いたマサヤがそんな感想を言う。確かに、どうせ歳を取らないなら成熟した姿のほうが良かっただろう。
「いえいえマサヤさん、ロリババアというのも結構需要ありますよ? 幼い容姿とのギャップがまたいいんですよこれがー!」
しかしその言葉に反論するエリス。需要って何だ需要って。あと、マツリはまだババアと言われるには早過ぎるだろうに。どんだけ先の話をしてんだか。
「でもなー、胸も結構あったんだろ? 将来有望だったのにもったいねーなー」
「……へぇ、胸が。十一歳なのに。ふぅん……」
続くマサヤの残念がる台詞に、今度はアユミが反応した。やたら胸という単語を気にしているが……。
シオン達は無意識にアユミの体型に目線を向ける。
あっ……。
「……言いたい事があるなら言いなよ? 何?」
その三人の視線に気付き、何かを察した皆に向けて言い放つアユミ。
怖い。笑顔が怖い。
「だ、大丈夫ですアユミさん! 需要はありますよ! 私も好きですよ? 何も気にする事ありませんよ!」
「……なんか悪い」
「慰めはいらないし謝られるのも腹立つんですけど!?」
凍りついた空気を和らげようとエリスとマサヤが何とか言葉を紡ぐが、やっぱりアユミは爆発した。シオンは我関せずと無視を決める。そういう話題は気が引けるし。
「アユミのサイズは充分に魅力的だが、やはりそれにコンプレックスを抱き気にしてしまう様もまた良き魅力……一度に二度おいしいと思わんかね?」
「わかる」
「トモエ? それ以上キモい事言ったら許さないよ?」
トモエのこちらまで若干引いてしまう発言に怒りを向けるアユミ。おいエリス、何頷いてんだ。
「はぁ……で、ジャバウォックの件がある以上、マツリとも協力関係を結びたいのはわかった。でもその前に、オレ達にはどうして欲しいのかまだ聞いてないぜ。勿論オレは協力してもいいが、具体的にはどうして欲しいんだ?」
シオンはあまりにも逸れすぎた話を軌道修正させる。なんでアユミの貧乳の話でここまで盛り上がれるんだお前らは。
「ああ、シオン君の対応が大正解だよ……えっとね、君達は今、リインドって街だっけ? そこで冒険者活動をしてるんだよね? その活動の拠点を、ここに移して欲しいんだ」
シオンに感謝しながらその質問に答えるアユミ。ここ、というのはアーヴァタウタ大国の王都の事だろう。
「協力してくれるならできるだけ近くに居て欲しいからね。まあ、ボクなら君達が何処にいてもいつでも会いに行けるけど、君達からはそうはいかないし。お互いに助けが必要になった時にはすぐに合流できるほうがいいでしょ?」
アユミの提案は至極真っ当なものだろう。国内とはいえリインドの街と王都とは馬車で一日かかる距離。時空間魔術で転移ができるアユミはともかく、その転移は他人には使えないらしいので距離の問題は改善しておきたい。だが、
「簡単に言うけどな、そう言われてすぐに拠点を動かせるもんじゃないぜ?」
「もちろんボクからもサポートするよ。てか、住む場所ならボクの屋敷を使ってもいいよ? 高級住宅地にあるんだけど、部屋なら有り余ってるからさ」
「お、お屋敷ですか?」
続くアユミの提案は、住居の提供だった。その提案に驚くエリス。考えてみればアユミは英雄と謳われ王城に身を置く神託の巫女。裕福な暮らしをしているのも当然か。
「俺もその屋敷に住まわせて貰っているぞ。もっとも、ほとんど魔術の研究の為にこの魔術塔に篭っているからあまり帰りはしないがな!」
「何のために貸してあげてんだか。ま、ボクもお仕事とかであんまり帰れてはないんだけどね」
「そのお屋敷って、メイドさんとか雇ってたりするんですか?」
「もちろん。メイドや執事も結構雇ってるよ。望むなら身の回りの世話させたげれるよ?」
「おぉ……夢のお嬢様生活……」
エリスは裕福な暮らしに憧れているようだが、シオンは……そこまでしてもらうのは気が引けるな。
「今日はもう泊まる場所決めてるの? もしまだなら早速ボクの屋敷に泊まって行きなよ。どんな所か前もって知っておけるしさ」
「おー! 是非泊まらせて頂きましょうシオン君! 宿泊費が浮きますよ!」
アユミの提案に乗り気なエリス。ずいぶんとセコい庶民派お嬢様だな?
「まあ、助かるのは確かだな。エリスも乗り気みたいだし……どうだマサヤ、今後はお前もアユミ達に協力する方針でいいか?」
「おう、俺はそれでいいぜ。てか、お前らとも会って間もないんだし、どんな環境になったって気持ち的には大差ねぇぜ」
それもそうか。シオン達は満場一致でアユミに協力する為に王都に拠点を移す事に決めた。
「じゃあ、帰ったら早速移動の準備だな」
「お引越しですね。フラムさん達にもお別れ言いに行かないとですね」
「あ、そっか、そういやフラムさんとはお別れになんのか。くっそー、それは心残りだぞ……やっぱやめね?」
「下心で反対してんじゃねーよ」
今後の方針が決まり盛り上がる三人。リインドの街にはお世話になったし、少しは名残惜しくは思うが、王都での生活も悪くないはずだ。巫女様に優遇して貰えるらしいしな。
「異界人会議は今回はこれでお開きかな? じゃ、早速ボクの屋敷に来る?」
ソファーから立ち上がり伸びをしながら尋ねるアユミ。質問はもう……あ、まだ聞いてない事があったな。
「悪い、もう一つ聞きたい事があった。異界人はこの場にいる四人と帝国にいるマツリで五人だよな? 後の二人は所在はまだ把握できてないのか?」
異界人は創世の七柱の神の権能を持つ。つまりこの世界には七人の異界人がいるはずだ。
現時点で判明している異界人はシオンが言った五人。残る二人はまだ見つけられてないのだろうか?
「あ、それね。ちょっと忘れてたや。確かに君達にも教えておくべきだね。他にも一人、所在なら把握できてる異界人がいるよ。サーグラ国で騎士団に入団してるの」
質問に答えるアユミ。サーグラ国の騎士、か。
サーグラ国はアーヴァタウタ大国に隣接する国家で、大国とは友好国だ。国外でこそあるが、それなら接触する事は難しくはないだろう。
「名前はカザマ・イサミ。多分グリア神の権能の所持者だと思う。感知能力に特化してるって話だからね……その人かシオン君かのどちらかがグリア神の権能って思ってたんだよね。似た特徴を持った異界人がいるって聞いた時は「何だそれ」って思ったけど、本物のグリア神はあっちみたいだね〜」
どうやらその人物の能力は、シオンの特技と似たものだったらしい。グリア神の権能は感知能力の高さが特徴なのか。確かにシオンの事を異界人だと思っていた当初はややこしい事になっていただろう。
「そいつとはまだ会ってはいないのか?」
「うん。周辺で情報集めをしたくらい。何せ王立騎士団のメンバーなんだし、そう簡単に暇を見つけられる立場じゃないだろうからね。でも近いうちにアプローチするつもりだよ。この神託の巫女様に任せておきなさい!」
そう言ってアユミは胸を張ってみせる。ない胸を強調されても……あ、今のはナシな。何でもないぞ。
「まだ所在が掴めていないのは一人だけか。残る一人の捜索は手伝えはしないか?」
「気持ちだけ受け取っておくよ。情報収集なら得意だからね。協力してもらってる立場なんだからあんまり君達に頼るのも悪いしね」
シオンの提案を断るアユミ。そんな事気にしなくてもいいのに。
「残る一人の権能は……えっと、エセティア神か? 開発と発展の神様だっけか。その権能はどんな能力なんだ?」
判明している者の各々の権能を思い出し、消去法で残された神を思い浮かべ尋ねるシオン。アユミは全ての神の権能の詳細を知っている様子だし、残るエセティア神の権能の能力についても把握しているはずだ。
「エセティア神の権能は、錬金魔術を中心にした物作りの才能だね。急に有名になった鍛治職人なんかの噂でもあればわかりやすいんだけどね」
なるほど、神話に語られるエセティア神の伝承通りの能力だ。あまり戦闘に向いているとは思えないが。
「ま、最後の一人の捜索ならボクに任せておいてよ。権能持ちは何かと目立つし、きっとそう遠くないうちに見つかると思うよ……他に何か質問ある?」
話を纏め、改めて尋ねるアユミ。これ以上は特にないはず。
「いや、もうないな。色々教えてくれてありがとな」
「どういたしまして。って言っても、迷惑かけてるのはこっちなんだし気にしないで。や、正確に言えばあのクソ神様連中だけど……ともかく、さっき言ってた通り、ボクの屋敷に行こっか?」
「賛成です! 本物のメイドさんに執事さん……テンション上がりますね!」
「腹も減ってきたな〜。飯も貰えたりすんのか?」
「もちろん。ご馳走を用意させたげるよ」
「では俺もたまには屋敷に顔を出さねばな。諸君との交流を深める意味合いも込めて」
歩き始めるアユミに皆も立ち上がりそれに続く。今晩はアユミの屋敷に泊まり、街に帰り次第移動の準備だ。
異界人達との本格的な協力。そして今後は、世界を脅かす危険な魔物、ジャバウォックとの戦いが待っている。
だが、その始まりとも言えるこの日は、そんな大事とは思えない程に和やかなものだった。




