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新たな仲間。

 村長からの手紙の内容は、たまには帰郷して顔を見せろという文に始まり、本題であるマサヤに関してのものに触れる。


 村に流れ着いたマサヤだが、異界人であるらしく、帰る術を探したいとのこと。村では何も協力できないので、ひとまずは街に行き方法を探すべきと助言し、当面の資金は冒険者として働き稼ぐのが手っ取り早く、ならば丁度街で冒険者活動をしているシオンに手助けをさせようという結論に至ったという話が綴られていた。

 幸いマサヤは確かな実力があるのでパーティーに参加させても迷惑はないという事も。


 何ともまあ、こちらの意見を一切考慮していない一方的な内容か。要するに村からの依頼という形になるのだが、ならば一緒に報酬金も寄越せという話だ。いやそれ以前に、拒否権がないのは何事か。おのれ村長め。帰郷した時は大金要求してやるから覚悟しておけよ。


「何だよ、俺みたいにこっちに来てる奴って結構いんのか。なんか安心したぜ」


「や、そういう訳じゃないと思いますけどね? 予想だとこの世界に七人だけだと思ってますけど……や〜、偶然って凄いですね。世間は狭いといいますか、これはあれですね。異界人は異界人どうし引かれ合うって感じ!」


「そうなのか? なら他の奴も探すの楽勝だな!」


「あー、元ネタ知らないですか〜」


 その手紙の内容であるマサヤは、早速同じ異界人であるエリスと話を弾ませている。エリスは時折発言の意図が通じない事があるらしく、その度に遠い目をするが。お前ら本当に同じ世界から来たのか?


「で、帰る方法は何か知ってたりするのか?」


「や、それは全然。私はもう開き直ってこの世界をエンジョイしようとしてますよ?」


 手紙にも書かれていた通り、マサヤは自分がいた世界に帰る方法を探しているらしい。エリスは今までそんな素振りは一切してなかったのだが。マツリも世界征服してやるとか言ってたし……あ、いや、マツリは確か元いた世界の事を疎ましく思っていたような発言もしていたからともかく、普通ならマサヤのように帰りたいと思うものなのではなかろうか。


「マジかよ。お前帰りたくないのか?」


「ん〜、この世界も結構楽しいし、シオン君もいるので迷いますね。そこまで帰りたいとは思ってないっていうか、帰れないならそれでもいいかな〜って」


「おいおい、お前だって家族や友人がいただろ? 本当にそんな事思ってんのかよ」


「う、痛いところ突いてきますね……ま、まあ、それとなく帰る手段を探して、帰れる時に改めて決断すると思いますよ? 多分」


 エリスの発言に呆れるマサヤ。まあ、普通はそう思うよな。やっぱりエリスが変わってるってだけで。

 ……エリスがこの世界で過ごしたいと思っている事を知って少し安心してしまった気がするが、気のせいだ。気のせい。


「で、シオン君、手紙には何て?」


 エリスが少々強引にこちらに振って話題を変えてきた。こいつなあ。


「マサヤの力になってやれってよ。まあ、エリスの事もあって異界人の事情なら他の奴よりは詳しいしな」


「助かるぜ! でもよ、元の世界に戻る方法を探す手段ってあんのか?」


「それはオレもさっぱりだ。いい機会だし、それについても近いうちに探してみるか。で、冒険者になるつもりなんだよな?」


「おう! 化け物連中くらいなら何匹だって倒せるぜ!」


 どうやらマサヤは戦闘面には自信があるらしい。これはやはり、エリスやマツリと同じく神様の権能を持っているのだろう。それも戦闘関係に特化した能力か。


「マサヤさんはどの神様の権能を持ってるんですか?」


「けんのー? 何だそれ?」


「ああ、アルヤメ村には鑑定魔術を使えるような人も設備もなかったしな。冒険者登録をする時にお前の能力を調べてもらえるんだ。エリス達異界人は、神様の権能っていう凄いスキルを持ってたから、多分お前も持っていると思うぜ」


 エリスの質問が理解できなかったマサヤに簡単に解説する。


「マジか! じゃあ俺が強いのってそれのおかげか? 」


「多分な。エリス、こいつもパーティーに参加させてもいいよな?」


「え」


「え?」


「あ、や、まあ、そうですよね。異界人ですものね。うんうん。もちろんオッケーですよ!」


 一瞬妙な反応をしたエリスだったが、すぐに頷き了承した。何だ? 不満でもあったのか?

 そういえばゴルダにパーティーに誘われた時も、二人で冒険者活動を続けたいと言って断っていたな。さすがに同じ異界人の手助けの為となるとその考えも改めたってところか。本当にこいつって奴は。


「じゃ、早速冒険者登録してこいよ。あ、出身地はアルヤメ村でいいぜ……てか、エリスの時みたくオレが色々横から言うから、話を合わせろ」


「おう! 宜しく頼むぜ」


 話も決まったので、三人で受付に向かう。エリスが登録した時のように色々でっち上げる事になりそうだ。





 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





 マサヤ


 身体能力

 筋力:A

 敏捷性:A

 感知能力:B

 知力:D

 精神力:C


 魔術適性

 火属性魔術適性:D

 地属性魔術適性:C

 気功魔術適性:A


 スキル

 イルア神の権能




「やっぱり高いな」


「高いですね〜」


「そうなのか? 俺ってすげーのか?」


「まあな。権能はイルア神様か。闘神だから筋力や敏捷性が高いんだろうな」


「わかりやすく戦士系ですね。あ、実はパーティーのバランス良さそう?」


「ふーん、自分の力が確認できるって、なんかゲームみたいだな」


「ね! ですよね! さすがは異世界って感じ! まあ異世界転生とか転移モノだとメジャーな設定ですけどね?」


「……さっきから薄々思ってたんだけどよ、お前ってヲタクって奴?」


「ぅぐっ……そ、そうですけど何か?」


 マサヤの能力の鑑定結果を見て感想を述べるシオンとエリス。エリスもこれくらいの文字なら読めるくらいには勉強ができていたようだ。

 二人はシオンの知らない、恐らくは二人の元いた世界ならではの感想もあるようだが、マサヤは若干エリスの話について行けてない気がする。ヲタクって何だ?


 そしてマサヤの能力を予想していた二人とは違い、結果を見て固まっている受付嬢のノーイ。


「……アルヤメ村って皆様みたいな凄い人ばかりの村なんですか?」


 やっと絞り出した言葉がそれだった。違う。それは違うぞノーイ。本当にアルヤメ村出身なのはシオンだけだからな? そのシオンもエリスの力の影響で結構高めな能力になっているが、そんな誤解をあんな田舎村に抱かないでくれ。


 その後ノーイはシオン達がマサヤに内容を伝えている間にギルドマスターに相談に行き、やはりと言うか、マサヤはエリスが登録した時と同じくCランクで登録された。


「証明証は明日に発行だっけか? じゃあマサヤは今日は冒険には行けないか」


「私達、今日もどこかに行こうとしてたんですけどね。どうしましょっか?」


「せっかくだし、今日はマサヤの下準備にするか。宿はまだ取ってないか?」


「おう、何か悪いな付き合わせちまって」


「ま、オレ達もどうしても仕事しないといけなかったわけじゃないし構わないぜ」


 シオン達は予定を変更し、明日に備えてマサヤの身仕度を整える事にした。新たな仲間のサポートをするのは当然だ。間違いなくマサヤは即戦力だろうし。てか、そろそろ本格的にシオンの立場がないのではなかろうか?


「あ、すいません皆様! ちょっと待って下さい!」


 マサヤの冒険者登録を終えて受付から離れようとしていた三人を、慌てて呼び止めるノーイ。


「マサヤさんの事でいっぱいで忘れるところでした! シオンさん達に是非受けて欲しい依頼があるんです!」


「オレ達に?」


 ノーイの言葉は、まさかの本当にシオン達を名指しした依頼。改めて思うが、エリスはともかくシオンはそんな事される程名が通っているとは思えないのだが。いや、実際はエリスを頼っていて、そのパーティーだからシオンもついでに、というパターンか?


「依頼といいますか、私達冒険者ギルドのお願いなんです。森でまた『バンダースナッチ』が確認されまして」


「バンダースナッチ?」


 森というのはやはりリインドから東の森の事だろう。初めてエリスと出会い、二人で行った初めての冒険者活動をした場所。

 だが、バンダースナッチという単語は初めて聞いた。魔物の名なのだろうか? そんな名の魔物が森に出現するとは聞いた事がないのだが。


「はい、シオンさん達が以前森で倒した新種の魔物です。国があの魔物の正式名称を発表しまして。先日の奪還戦にも現れたって話の」


「ああ、あいつか。そんな名前になったのか」


 人の二、三倍程の体毛のない鈍色の巨躯に口以外のパーツがない頭、異常に発達した右腕と爪を持つ新種の魔物。奪還戦の際にあの奇妙な竜が呼び出しもしたあいつの名称がバンダースナッチだそうだ。

 しかしまた名前まで奇妙だな。馴染みが薄くてあの魔物とあまり結びつかないのだが。


「バンダースナッチ……ん〜、聞いた事ある気がするんですけど、どんなモンスターでしたっけ?」


「ん? いやだからあの気味の悪い新種の魔物だって」


「あ、そうじゃなくてですね? 元いた世界で聞いた事があるような気がするんですけど……マサヤさん、知ってます?」


「いいや? 初めて聞くぜ。マンガか何かに出てんのか?」


「多分そうだと思いますけど……ん〜、思い出せないって事はあんまり印象に残らないマイナーなモンスターなんでしょうね。なんかもやっとしますね」


 エリスはバンダースナッチという魔物の名に元いた世界の知識から心当たりがあるらしいが、結局思い出せないままだった。マサヤはそういった様子はないが。

 エリスは元いた世界の創作物の知識がこの世界にも通じると以前話していたが、マサヤはそのような創作物とは無縁だったのかもしれない。同じ世界から来た者同士でも案外差があるものなんだな。


「国からの名称の発表と同時に、バンダースナッチは非常に危険な魔物なので積極的に駆除すべきと宣言されました。実際あのような強力な魔物が森に居座られたら他の冒険者様方にも迷惑ですので、バンダースナッチを討伐した経験があるお二人に是非今回もと思ってたのですよ」


 二人を指名した理由を語るノーイ。確かにシオンもエリスも、バンダースナッチを倒した経験から他の冒険者よりも確実に討伐できるだろう。


「なるほどな。けどマサヤはどうするか……」


「せっかくですのでマサヤさんも同行なされても構いませんよ? 本当はちょっといけない事ですけど、身体能力も申し分ありませんし助っ人って事で。他の冒険者様方には内緒ですよ?」


「お! マジか! 話がわかるぜ猫耳!」


 マサヤの参加も許可するノーイ。ギルドからすれば急を要する件なので、確実に早く解決させたいのだろう。


「そういう事なら受けるべきだな。いいよなエリス?」


「はい、大丈夫ですよ! あのモンスターは個人的にも許せませんし!」


 エリスもやる気はじゅうぶんのようだ。許せない理由は、以前シオンを殺めた魔物だからなのだろう。勿論種族が同じというだけで違う個体なのだが。


 ともかく、今日の冒険はマサヤも参加しての、バンダースナッチ討伐だ。








 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★






 シオン達一行がギルドを出て森へと向かって暫く経った頃、ギルドに新たに足を踏み入れた者がいた。


 ギルドにいた者達の大半は、その人物の容姿を見て釘付けになってしまった。


 特徴的なゆったりとしたローブに、顔を隠すベール。


 リインドの街の冒険者ギルドに、神託の巫女が姿を見せた。

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