故郷からの来訪者。
「へえ、普段から仮面をですか……元になった神様がそれで美貌を抑えられていたなら、マツリちゃんも顔を隠せばどうにかなりそうじゃないですか?」
「かもな。ちなみにその仮面だが、最初はイーヴィティア神様が自分で作ったんだけど、作り出した仮面も美し過ぎてまた注目を集めてしまって意味がなかったから、仕方なくその仮面は封印してエセティア神様に新しく作って貰ったんだと。美と芸術の神って言われてる由縁だな」
「あははは、二度手間しちゃったんですか。面白い話ですね」
日がもうじき真上に登る頃。場所はリインドの街の居住区。
シオンとエリスは冒険者ギルドに向かう道中で、創世の七柱の神々に関する神話について語っていた。
偉大なる神々の逸話なのだが、その内容はどこか可笑しな話も多く、意外と人間味溢れていて親近感がわくものもあったりする。とはいえさすがは神様と言ったところか、その行動に伴う結果のスケールがどれも人間離れしていて冗談どころの話ではなくなってしまう場合が多い。神々にとっては茶飯事なのかもしれないが、振り回される下々の人々にはたまったものではない。
何故そのような話をしているのかと言うと、エリスは自分と同じ神様の権能のスキルを持った異界人であるマツリの存在を知り、その元となった神々が七柱いるという話から、自分と同じ異界人が全部で七人いるのではないかと予想し、それぞれが持っているであろう権能のスキルの元となる神様達がどのような存在なのか知っておこうと思い至ったからだ。
とはいえ、エリスはまだこの世界の文字を読む事ができない。冒険の合間に時々勉強してはいるが、一人で神話等を読み解ける程身についてはいない。なのでシオンから神話を聞いて考察しているわけだ。
おかげでシオンは改めて神々の神話を調べる羽目になり、それまでは知らなかった知識まで身についてきた。自分ももはや無関係ではないので文句はないが。
「他の神様の権能って、どんな能力なんですかね? 想像できます?」
「そうだな……アーリティア神様は魔術の祖って言われてるくらいだし、その権能なら魔術が得意になるんじゃないか? イルア神様は闘神だから、戦闘に関する能力だと思うぜ」
エリスもマツリも、元となった神様を連想させる能力を授かっている。ならば想像ではあるが、ある程度は予想できる神様の権能もあるだろう。
「ふむふむ、じゃあ、豊穣の神様とか、物作りの神様なんかは?」
「それなんだよな。どんな能力なのか想像もつかねぇ」
豊穣神のグリア神様は人々に稲作や狩猟の方法を広め、発展の神とされるエセティア神様は物の作り方を教えたという話が有名だ。しかし、それらの神様の権能がどのようなスキルなのか予想するとなると難しい。稲作とか狩りなんかが得意になるのか? なんかショボくないか?
「一番わかりにくいのはシュヘルムヴィアー神様だけどな。世界創世の中心になって働いたって事以外、何も語られてないんだ。逸話がなさすぎるし司っている事象も曖昧だし、よくわかんない神様なんだよな」
「そうですか? 確か時間と空間の神様でしたよね。一番凄そうって思ったんですけど。きっと時を止めたり巻き戻したりしちゃうんですよ! やばいです! ラスボス系の能力ですね!」
「へえ、そんな魔術なんて存在しないから想像もつかなかったな。それもお前の世界の創作物にあったのか?」
「そんなところです。時間を止めて自分だけ自由に動けたり、何度も過去に遡って自分に都合の良い結果を得られるまでやり直したりとか。そういう事ができるキャラが登場する作品もありましたよ」
シオンには想像もつかなかった神様の能力を予想して熱く語るエリス。なるほど、そういう発想になるのか。異界人ならではだな。
「本当にそんな事ができるならまさに人知を超えた能力だな。神様の権能だからあり得ないとは言えないし」
「わー、そんな人は敵に回したくないですね。ていうか、異界人みんな仲良くできたら良いんですけどね〜。異界人ばっかりの冒険者パーティーなんて結成したりとか!」
「戦力集中させ過ぎだろそれ」
一同に会する異界人達が冒険者パーティーを結成する状況を想像するシオン。エリスやマツリのようなとんでもない権能スキルを持った連中が、七人……。
なんだそれ。世界を滅ぼすつもりか?
「あ、もちろんシオン君も参加するんですよ? きっと寵愛スキルもギリオッケー!」
「何がギリなんだよ。そもそも異界人じゃないけどな、オレ」
「除け者にはしませんよ〜。ていうか、シオン君が参加できないなら私も参加しません! シオン君一筋ですから!」
恥ずかしげもなくそんな事を宣言するエリス。いつもの事なので適当に流す。
「……そういやルキュシリア神様って、恋多き神だとか言われてたっけか」
「ほぇ? や、私はそんな事ないですよ? もう一度言いますが、シオン君一筋です!」
自分のスキルの元となる神様の一面を教えられるも否定するエリス。こいつが色恋にこんなに積極的なのはルキュシリア神様の権能の影響なのか? それとも、こいつがこういう性格だからルキュシリア神様に見初められたのか?
どちらにせよ、もしかしたら神様の権能を持つ者はその神様の性格に似通っているのかもしれない。その予想が役立つのかまではわからないが。
そんなやりとりをしているうちに、目的の冒険者ギルドが見えてきた。二人ともランクが上がっても活動の内容は今までと大差はない。一応は今までよりも難易度の高い依頼も受けられるようになりはしたが、このリインドの街ではそこまで危険性の高い依頼はそうそうない。暫くは二人で気楽な冒険者ライフを満喫するつもりだ。
他の異界人に関しては、こちらからでは探しようがないのでもし会えたならって程度にしか考えてはいない。拠点としているこの街を出てまで探す理由もないしな。
そんな訳で今日も変わらぬ冒険者ギルドに到着……と思ったが、なんだか今日はいつもより騒がしいな。
「っしゃー! 俺の勝ちだ! 次は誰が相手だ!?」
「やるじゃねぇか兄ちゃん! 今度は俺が挑戦しようか!」
「やっちゃって下さいゴルダさん!」
「小僧もなかなか強いがゴルダさんには敵わんだろ! この街いちの冒険者なんだぜ?」
「へぇ、そいつはいいな! 腕がなるぜ!」
何やら酒場のほうで盛り上がっているらしい。中心にいるのはB級冒険者のゴルダと、見ない顔だが、あいつは新入りか? その二人が机に向き合い、腕を乗せ互いに掴み合う。どうやら力比べをするつもりらしい。
「お、腕相撲ですか! いいですねぇ、これも冒険者って感じなイベントですね!」
「そうか? ま、水を刺すのも悪いし放っておこうぜ」
審判役の男の合図で力比べが始まる。ゴルダの相手をしているのは、結構若い青年だ。金髪のようだが、生え際は黒髪なところを見るに髪を染めていたのだろう。妙な髪色になっているが、何故かサマになっている。
さて、盛り上がる酒場の様子を見るのもそれくらいにして、いい加減今日受ける依頼でも探すとしよう。二人で受付へと向かう。出迎えてくれるのは、いつもの獣人族の受付嬢のノーイ。
「あ、シオンさんエリスさん、こんにちは。えっと、シオンさんにお客様が来てますよ?」
「客? オレに?」
しかし、ノーイの対応もまたいつもと違った。時折、依頼者の中には依頼を受けて欲しい冒険者の名を指定する者もいるらしいが、シオンはそんな事をされる程有名ではない。先日の奪還戦でも名が知れ渡ったのはエリスのほうだ。エリスならともかく、自分を名指しされる覚えはないのだが。
「はい、あちらの今盛り上がっちゃってる方なのですけど……」
ノーイの示す先は、ゴルダと力比べをしている青年。あいつが?
「シオン君のお友達でしたか?」
「いや、初めて見るけどな」
「そうなんですか? アルヤメ村から来たと言っていましたけど」
「アルヤメ村から?」
アルヤメ村はシオンの故郷の村だ。人口の少ないまさに田舎と呼ぶに相応しい村で、村人達は全員顔見知りだ。その故郷の住人の中にあんな青年がいた覚えはないのだが。歳も比較的近いので知らないはずもない。
「まあ、本人から事情を聞いてみるか」
シオンがその青年の元へ向かった時、ちょうどゴルダとの力比べに決着がついた。驚くべき事に、青年はゴルダに勝ってしまっていた。
「っしゃー! 俺の勝ちだぜ!」
「すげぇ!? あのゴルダさんより強いなんて!?」
「ガハハハ! 凄いな若いの! 力比べで負けるなんざ初めてだ! こりゃあ大物になるな!」
「おっさんも強かったぜ。倒した魔物連中なんかよりよっぽど強いもんな」
「あたぼうよ。お前さん、冒険者志望だよな? どうだ、俺のパーティーに入らねぇか? 一応街一番の冒険者パーティーだぜ?」
「あー、悪いゴルダさん、勧誘はちょっと後にしてくれないか?」
先日シオン達にした時のように青年をパーティーに誘うゴルダだが、先にこちらの用事を済ませて欲しい。シオンは会話に割り込んでゴルダに頼んだ。
「おう、シオンじゃねぇか。なんだ、こいつもお前さんらの関係者か? 道理で強いはずだぜ」
「いや、そうと決まったわけじゃないんだけどな」
「お前がシオンか! 待ちくたびれたぜ!」
ゴルダが呼んだ名に反応しこちらを向く青年。ゴルダ達と気が合う様子を見る限り、熱血漢な性格なのだろうと予想する。シオンよりも一回り背の高いその青年は、清々しい笑顔を向ける。
「オレの村から来たって話だけど、初対面だよな?」
「おう! 村長さんにお前を頼れって言われてな。詳しくはこいつを読んでくれや」
青年は懐から封筒を出しシオンに渡す。村長め、何のつもりなんだか。
「シオン君の村の出身じゃないんですか?」
「まあな。お前は? もしかしてこいつの彼女?」
「え? えへへ、まあそんな感じです」
封を開けるシオンの横で青年に話しかけるエリス。おい、勝手に嘘を教えるな。
「マジか、リア充だったのかよ。羨ましいなおい」
「んふふ〜、そうでしょうそうでしょう。こんなにお似合いなカップルも……あれ?」
エリスの嘘は後で訂正するとして、今は村長からの手紙を……
「あの、シオン君、ちょっといいですか?」
「んあ? お前なぁ、あんまり嘘吹き込むのは……」
「嘘なんてついてませんけど、そんな事より! シオン君、「リア充」って言葉知ってます?」
「何だそれ? またお前の世界の言葉か?」
「ええ、まあ、はい、そうなんですけど…………え、てことは、ええ!?」
突然声をあげるエリス。何だよ、こっちまで驚いちゃったじゃないか。
「何だよお前、まずは手紙読むのに集中させろよ」
「あの、名前は何ですか? フルネームで!」
「んあ? トウドウ・マサヤだぜ……あ、待った今のなし。マサヤ・トウドウだ。こっちじゃ逆なんだっけか」
エリスの唐突な質問に答える青年。名はマサヤらしい。珍しい名だが、その前に一度、彼は自分の家名を先に名乗っていた。この世界とは異なる名乗り方だ。
……ん? この流れ、前にもあったぞ?
「私はシノミヤ・エリスです。あなた、ニホンジンでしょ?」
「おう、ニホンジン……は? え、待て、マジかお前!?」
マサヤはエリスが言わんとしている事を察したようだ。彼もまた同じように驚愕する。
そしてマサヤの正体を悟ったシオンは、半ば呆れた様子で呟くのだった。
「あー……異界人、三人目か」




