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閃光の如く。

 周囲に木々が並ぶ街道。森を横断するように整備されたその道を、行商人の馬車が通る。

 馬の手綱を引く行商人の背後の荷車には、商品なのであろう、樽や木箱が所狭しと積まれている。

 そして、その荷車の最後尾に、一人の青年が手持ち無沙汰に腰かけていた。


 歳は十代の後半頃。着ているのは簡素な革製の鎧。腰にはありふれた長剣。髪は金髪だが、生え際が黒い。染物をしていたのだろうか。

 青年は腰に下げていた剣をおもむろに抜いて、何の気なしに眺める。長らく似たような景観が続いていて、その景色にも飽きてきた頃なのだろう。


あんちゃん、冒険者なのかい?」


 手綱を握る行商人が青年に声をかけた。暇潰しに会話でもしようと思ったのだろう。


「いいや、まだ冒険者じゃないぜ。街に行ったらそれになれって言われてるけどな」


 青年は剣を鞘に収め行商人の質問に答える。


「何だ、もしかしてワケありか?」


 冒険者は魔物の相手をする危険な仕事だ。そんな仕事に手を出す者は、厄介な身の上にある者が多い。行商人もそんな予想を立てて青年に尋ねた。


「ワケあり、っちゃあそうだけどよ、なんっつーか、色々メンドくさい流れでな」


「ほーん、兄ちゃんが良ければ話してみないか? 何かアドバイスできるかもしれないし、暇潰しには丁度いいしな」


「そうか? えっとな……俺、元々この辺に住んでたんじゃねーんだわ。なのに気がついたら、おっさんが乗せてくれた村の近くの森の中で一人で寝ててよ。食いもんはねーわ化け物に襲われるわ、散々な目に遭いながらどうにかあの村に来れてな」


 行商人に促され、青年は自分の身の上を語り始めた。


「そいつはまた……よく無事に村まで辿り着けたな」


「まーな。化け物はなんかそんなに強くなかったし。で、村で色々聞いてみたんだけど、村の名前どころかこの国も聞いた事ないんだわ。俺が元々住んでたとこの国の名前も村の誰も知らないみたいだし。んで村長のじーさんが、帰る手段を探したいなら街に行くほうがいいってな。金は冒険者になって稼げばどうにかなるってよ」


 青年はそう話を締め括った。彼が冒険者を志す理由はそんな流れだったらしい。


「なるほど、確かに面倒な話だな……因みに、何て名の国なんだ?」


「多分おっさんも知らないと思うぜ? ニホンって国なんだけど」


「ニホン? ……それは村の名前でもなくか?」


「ああ、ニホンって国だ」


「……確かに聞いた事ないな。少なくとも、ここの西方大陸内の国じゃないだろうな」


「だよなー。村の奴らもそう言ってた」


 行商人は力になれそうになかったが、青年は初めから予想していたのだろう、軽く笑って返した。


「ところで、俺が向かっている街はあの村の最寄りの街じゃなかったが、どうして俺に同行を頼んだんだ? 近くの街に行く行商人もいたはずだぞ?」


「それは、あんたの向かってる街に、あの村出身の冒険者かいるんだと。村長さんにそいつに頼れって勧められたんだ」


 青年は続く質問に、鞄から封筒を出しひらひらと見せながら言った。その、村出身の冒険者に宛てた手紙なのだろう。


「協力してくれる奴がいるのか。なら今後の事は安心だな。悪いな兄ちゃん、おじさん、大して力になれそうにないな」


「気にすんなよ。こうして運んで貰ってるだけでも……ん?」


 行商人との会話の最中、青年は急に言葉を切り前方を凝視する。


「……何かいやがるな。おっさん、ちょっと馬車止めてくれ」


 青年は木々に隠れた気配を察知し、行商人に注意を促した。行商人はすぐに手綱を引き馬の足を止めさせる。馬車が止まると、青年は地面に降り馬車の前に出ながら、剣を抜いた。


「魔物か?」


「だと思うぜ」


 二人が注視する中、青年の言う通り、がさがさと音を立てながら森の茂みから異形が姿を見せる。


「……ボーゥ」


 現れたのは、二足歩行をする鈍色の肌、目鼻のない口のような穴だけの頭、異様に発達した右腕と巨大な黒い爪。見るも悍ましい奇怪な魔物だった。


「な、何だこいつは……」


「うわ、キモいなこいつ。おっさん、ちょっと待ってろ」


 道を塞ぎ立ち塞がる異形の魔物が、ゆっくりと馬車に近付き始める。そんな魔物に各々反応を示した後、青年が行商人にそう言い残し……姿が消える。


「え!?」


 行商人が驚き声をあげた直後、


「ボーゥっ!?」


 異形の魔物が悲鳴のような声をあげる。その魔物の脇腹あたりから、赤黒い血液が噴出している。


「真っ二つにするつもりだったけど、思ったより硬いなこいつ。今まで相手した化け物の中でいちばんだぜ。けど……」


 化け物の背後から聞こえる声。青年のものだ。そこで行商人は理解した。青年は行商人が認識できない程の速さで魔物の側を駆け通り過ぎ、すれ違いざまに魔物の胴体を斬りつけていたのだ。


 魔物は青年に振り返り、発達した右腕を振り上げる。が、再び青年の姿がその場から消える。そして、


「俺の敵じゃないけどな」


 青年の声は、振り返った魔物のさらに背後から。手に持つ剣を鞘に収める青年。そして、その魔物の首がぽろりと溢れ、地面に落ちる。腕を振り上げた体勢のまま、魔物はゆっくりと横に倒れた。


「よし、終わり! ……あー、違うか。これじゃ馬車が通れねぇか。しゃーねーな」


 青年は倒れた魔物の遺体に近寄り足を持つと、道の脇に引き摺り始める。それまでの様子を唖然と眺めていた行商人は、やっと我に返り、魔物からのドロップアイテムを回収すべきだと思い至り青年に声をかけるのだった。


 先程青年は、村に辿り着くまでに遭遇した魔物を「あまり強くなかった」と語った。しかし、それは間違いだと行商人は悟った。この青年が、強過ぎるのだ。






 青年の名は、マサヤ・トウドウ。


 イルア神の権能というスキルをその身に宿す、異界人だ。

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