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エリスの決意。

「このままでは駄目だと思うんです!」



 早朝。シオンの自室。まだ寝惚け眼を擦っているシオンに熱く語るエリス。彼女はまた例によってシオンの部屋の扉を喧しく叩き開けさせ、部屋に入って来たのだ。


「朝から元気だなお前……もう平気か?」


「はい、一晩寝たらすっきりです! それよりも!」


「ああ、それよりも昨日の取り分だな。これがお前の分な」


「あ、ありがとうございます……や、そうじゃなくて!」



 二人の最初の冒険を終えた後、シオンはエリスを先に部屋に送り寝かせてから冒険者ギルドに行き、ドロップアイテムを換金してきた。


 エリスはやはり魔力切れが堪えたらしく、部屋のベッドに横たわらせるとすぐに寝入ってしまった。その為換金したお金を未だ受け取っていなかったのだ。


 そのドロップアイテムの額だが、シオンが予想した通りかなりの値になった。シオンが一人で依頼をこなし続けたとして、一月分は軽く超えている程。早速パーティーでの冒険をした恩恵が得られた。もっとも、もうあんな危ない目には二度と逢いたくないが。


 そんな訳で、シオンは部屋に戻ってエリスへの取り分を分けておいた。ちなみに、エリスの分は自分の分よりも多めに見積もった。今回の冒険の成果はやはり、エリスの活躍によるものが大半である。むしろシオンが何の役に立ったのか。いやまあ、そこまで卑下する程の事ではないにせよ、とにかくこれが正当な報酬といったところだろう。それでも普段シオンがこなす依頼よりもずいぶんと多い取り分なのだから問題ない。


 エリスが朝早く来たのは自分の取り分を受け取る為だろう。そう思っていたのだが、どうやら違ったらしい。


「シオン君! 私、もっと強くならなきゃって思ったんです!」


「はあ……?」


 何を言い出すのかと思えば。エリスは既に規格外な実力を持っているはずだ。現にシオンでは全く歯が立たなかった魔物を、ほぼ一人で倒してしまっている。勿論強いに越した事はないが、そこまで強さを求める程の事なのだろうか?


「強くったって、今でも充分強いだろお前」


「足りません! だって私がもっと強かったら、シオン君だってあんな事にはならなかったんですよ! 確かに昨日までは「どうせ私ちょー強いんだし、努力する必要なんてないよね〜」なんて思っていましたけど、そんな気持ちじゃ駄目だって思い知らされましたもの!」


 エリスはそんな事を熱く語った。成る程、昨日の件に負い目を感じているのか。


「そうは言うけど、正直言って問題はお前よりもオレにあると思うんだが。すげー弱いからな、オレ」


「いいえ違います! そうじゃないんです! 実力的な話よりも、もっとこう、何て言うか、気持ちの問題? なのかな? シオン君はシオン君なりに、自分にできる事に精一杯勤めているじゃないですか。でも私は……」


 ……成る程、言いたい事は何となくだがわかってきた。


「シオン君があいつに刺されたのだって、私の不注意が原因です。私がもっとしっかりしていたら……あんなに散々言われてたのに、やっぱり私、どこか意識が足りなかったんです。何だかんだ楽しい仕事で、どうにかなっちゃうって思ってたんです。命の危険と隣り合わせな仕事だっていう自覚……そう、自覚が足りなかったんです」


 エリスが自分の考えを吐露する。確かにエリスには、冒険者としての自覚に欠けていると感じてはいた。街の外でも遠足気分というか、危機感の薄さは確かにあった。

 だが、それは何もエリスに限った事ではない。そういう性分の人もいる。何よりエリスには確かな実力がある。多少気を抜いていたにしても、しっかりと役割をこなせているなら問題はない。シオンはそう思っていた。


 しかしエリスは、その気の緩みが昨日の事態の原因と捉えているらしい。その考えも決して間違ってはいないが、そこまで気負われてしまうと、その、何だ。こちらとしてもやり辛いじゃないか。


「言いたい事はわかったけど、あんまり根を詰めすぎるなよ。お前のああいう気楽なところだって、悪くないって思ってたんだぜ」


「え、で、でも……」


「強くなりたいってんなら、オレも協力するさ。だからあんまり無理はすんなよ。お前らしくしてくれたほうがこっちも気が楽だからよ」


 明らかに思い詰めてしまっているエリスの頭をぽんぽんと軽く叩きながら言ってやった。真面目に仕事に取り組むのは良い事だ。けど、気負い過ぎるのもどうかと思う。エリスの明るさは長所だとシオンは思っている。冒険者としての心構えに自覚した今、エリスにはそのうえで今まで通りの明るさを持っていて欲しい。きっとエリスなら大丈夫だ。


「……私、シオン君に会えて幸せです」


 そのエリスは、自分の頭の上に置かれたシオンの手を取り、大事そうに握り、はにかんだ笑顔を向けた。


 ……何だこの雰囲気。


「あー、その、何だ? それで、強くなりたいって、具体的に何がしたいんだ?」


 シオンは気恥ずかしくなって、エリスの手を振り解きそっぽを向きながら話を戻した。何だか、このまま流されてはいけない気がする。


「えっと、とりあえず、私にできる魔法の種類をもっと増やしたいって思ってます。シオン君も言ってましたよね? できる事は多いほうがいいって」


「ああ、確かにな。でも、どうやって増やすんだ? またフラムさんに聞いて来るのか?」


「それがいちばん手っ取り早いですよね。いっその事弟子入りするのもアリですかね?」


 先日、エリスに攻撃用の属性魔法を教えてくれた聖術師のフラムさん。あの人も冒険者なのだから、そこまで時間を取らせるわけにはいかないと思うが……。


「ちゃんと授業料を払えば引き受けてくれませんかね? ほら、ちょうどお金も入った事ですし」


 エリスは受け取った銀貨の詰まった麻袋をじゃらじゃらと鳴らしながら言った。中身は結構な額だ。確かにそれなら、もしかしたら快い返事が貰えるかもしれない。


「まあ、本人に聞くだけ聞いてみるか……その前に、お前、こっちの金の価値はわかるのか?」


「はい? ……そういえばまだ聞いてませんでした」


 こいつ、まさか麻袋に入った銀貨全てをフラムさんに渡すつもりだったんじゃなかろうな? やりかねない。こいつならやりかねない。頭を抱えながらも、シオンはエリスにこの世界の硬貨の価値を教え始めた。




 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





 ギルドに立ち寄った二人が目にしたのは、掲示板の前にできた冒険者達の人集りだった。


「あら、どうしたんですかね? 何か凄い依頼でもあるのかな?」


「いや、多分昨日の件だろ」


 今までにはなかった人集りに首を傾げるエリスだったが、シオンには心当たりがあった。


「昨日の?」


「ああ、あの魔物と竜の事は報告したからな。それについてだろ」


 言いながらシオンは掲示板に張り出されている注意喚起を見詰めた。その内容は予想通り、森に出現した未知の魔物と竜の事。より確かな詳細が確認されるまで、森への冒険を規制する事。同時に、高ランク冒険者への森の調査の依頼。どれもシオンが想定した通りだった。


「暫く森には入れなさそうだな。まあ、今日は冒険に出る予定はないし問題ないか」


「あらら。まあ仕方ないですかね〜。でも、他にも冒険に出られる場所はあるんですよね?」


「まあな。ただ、あの森は駆け出しには最適な場所だったんだよな。お前ならともかく、オレは他の場所だと本格的に足手まといになりそうでなぁ……」


「森で冒険できるようになるまで、街でゆっくりしてます?」


「それも悪くないけど……これからの予定を考えると、ちょっとな」


「あれ? お金ならいっぱいあるじゃないですか……あ、もしかしてシオンさん、昨日の儲け全部私に寄越しちゃってたんですか!? やけに多いと思ったら! 駄目ですよそんなの! しっかり二等分にしなきゃ! 何の為のパーティーですか!?」


「いや、違う違う。オレもしっかり貰ってる。そうじゃなくて、武器を新調しようと思ってたんだ。使ってた短剣がボロボロにされたからな」


 勘違いをして怒るエリスに、いや、エリスの取り分を多めに渡していたので完全に勘違いというわけではないが、素直に理由を話す。

 昨日の冒険で得られた金を、新しい武器の為に使おうと考えていたのだ。より強力な武器を新調できれば、少しは戦力として働けるはずだ。


「おお、なるほど。いいですね、何かホントに冒険者、って感じ!」


「ホントにも何も、事実冒険者だっての……お前も何か買ってみたらどうだ? そんだけあれば結構いい装備を整えられると思うぜ?」


「や〜、まずはやっぱり生活用品とか私服なんかですかね。私の部屋、来た時のままなんですもの。それに授業料にどれくらい使うのかもまだわかりませんものね〜」


 二人で収入の使い道を語りながら受付に向かう。受付ではいつも通り、受付嬢の獣人族のノーイが迎えてくれた。


「お二人共、おはようございます。エリスさん、昨日はお疲れ様でしたにゃ。初めての冒険なのに大変だったみたいで……心配しましたにゃ」


「おはようノーイさん! 今日もネコミミがキュートです!」


 労うノーイと、はしゃぐエリス。ノーイに対しては、昨日エリスは魔力切れを起こして先に宿で休んでいると伝えていた。恐らくノーイは、エリスが件の未知の魔物と魔力を使い果たしてしまう程の激戦を繰り広げたと解釈しているのだろう。実際は魔物自体は本当にあっさりとやっつけてしまっているのだが。


 まあ、死者を蘇らせるような魔法を使ったなどと言って、信じて貰えるとは思えないしそれでいいと思う。日に日にギルドに秘密が増えていくエリスの運命や如何に。


「今日もどこか冒険に行かれるのですかにゃ? わかってると思いますけど、森へは暫く行っちゃいけませんにゃよ?」


「ああ、いや、今日は冒険じゃないんだ。フラムさんに会いたくてな」


「フラムさんですか? どうしてまた?」


「私、信仰魔術についてもっと学びたいんです! この前ちょっとだけフラムさんに教えて貰ったんですけど、この際ですのでガッツリ教えて頂けたらなーって思いまして!」


 ノーイに今日ここに来た理由を語る。冒険者ギルドでは冒険者同士の仲介も行っていたりする。パーティー結成の手助けが主だ。それに、冒険者は基本的に冒険に出発する前や帰還した際にはギルドに立ち寄る。既にフラムさんが冒険に出ていたりしたら、ここでその事を聞き出せる。入れ違いにならずに済むわけだ。


「にゃるほど、熱心ですにゃ〜。そういう事でしたら問題ありませんにゃ。フラムさんは今日はここには来ていませんので、まだ教会にいると思いますにゃ。場所はわかりますかにゃ?」


「いや、話には聞いた事あるけど詳しくは……」


 フラムさんは、冒険者として稼いだ収入を、小さな教会の運営に充てているという話を耳にした事がある。多くの孤児を養っている為に、お金がいくらあっても足りないのだとか。フラムさん自身もそこで住み込みで働いており、その合間に冒険に出ているらしい。健気な話だ。


 そんな事情を聞いた事こそあるものの、肝心の教会の場所までは知らなかった。今までは縁も無かったので当たり前の事なのだが。


「えーっと、地図はどこでしたっけ……はいはい、えっとですね、ここ。南区の外れのほうですにゃ」


 ノーイがカウンターから取り出した、リインドの街の地図の下の部分を指しながら教えてくれた。住宅地の端っこか。


「もし入れ違いになってフラムさんがここに来ましたらお二人の事を言っておきますにゃ」


「ん。ありがとな。じゃ、行くかエリス」


「うん。ノーイさん、ありがとね〜」


 手を振りながら礼を言ってその場を離れる。目的地はフラムさんのいる教会だ。

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