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第7話:川口と草加の賊徒討伐

埼玉国南部を走る外環自動車道。

道路のあちこちには瓦礫が散乱し、油の塊が燃え上がっていた。

火炎瓶でも投げ込まれたのだろうか。

時折、炎が爆ぜて火花が宙に舞う。


最近、賊徒たちが頻繁に出没するようになった。

極まった貧困状態で、良心の呵責に構っている余裕はない。

追い詰められた者たちは、非行に走ってでも生きる為に躍起になる。

それでも埼玉民の大半は、まだ道徳を捨ててはいない。

善良な民は暴徒化した賊を恐れ、街道を行き交う者もめっきり減っていた。


そんな荒廃した道路を、一台の黒塗りの公用車が走行している。

川口ナンバー。

車が路上に散らばっていた瓦礫を避けようと速度を落とした、その時だった。

高くそびえる外環道の隔壁を、左右から次々と乗り越えてくる複数の影。


「ヒャッハー!」


モヒカン頭に、トゲ付きの肩パッド。

手には無数の釘を打ち込んだ金属バット。

賊徒たちだった。


獣のような声を上げながら、集団は車の進行方向を塞いだ。

やむを得ず停車する車。

賊徒の頭目が前に出た。


「痛い目に遭いたくなけりゃ、金を出しなァ!」


運転手が怯える一方で、後部座席のドアが静かに開く。

そこから、二人の男が悠然と姿を現した。


川口かわぐち草加そうか

この地域を治める大名である。


近頃、この辺りでは略奪事件が相次いでいた。

極限の飢餓で追い詰められた者たちが徒党を組み、食料や金品を求めて暴走しているのだ。

かつては普通の民だった者たちの、変わり果てた姿。


真面目に働き、なけなしの税を納めながら貧困に耐えるより、奪う側に回った方が早い。

そう理解して非行に走った賊たちは、もはや元の生活へ戻れなくなっていた。

警察も手を焼き、もはや賊徒を制御できる状態ではなくなってきている。

なので遂に大名である川口と草加が、自ら鎮圧へ赴く事態となったのだ。


そんな矢先、賊の方から目の前に現れたのである。

取り囲まれる川口と草加。

先頭に立つ頭目が、声を荒げ脅しにかかる。


「知ってるぜ。アンタらこの地域の大名だろ? こっちは調べ尽くしてんだ。金品を全部置いていけェ!」


川口は眼鏡をクイと押し上げ、鼻で笑った。


「舐められたものだな。誰が貴様らに従うか」


対して草加は、沈痛な面持ちで一歩前へ出る。


「君たちが非行に走るほど大変なのは分かります。でも、こんなことはやめなさい!」


「うるせェ! お前たち役人にオレたち庶民の気持ちが分かるかよ! 公務員は高給取りだからなァ!」


「私はそんなにもらっていない」


川口は即座に言い返し、草加も小さく頷いた。

ダ・サイタマ政権発足以降、各市町村の大名ですら大幅な減給を受けているのだ。


「ふん、どうだかなァ? 確かめてやるぜェ! おら野郎ども! 袋叩きだ!!」


一斉に賊徒が襲いかかる。


「オラ川口ィー! まずはテメェからだ! タワーマンションばっか建てやがって!」


川口が剣の柄に手をかけた。


「身を弁えろ! 私は川口だぁああっ!」


川口は叫び声をあげ、引き抜いた剣を瞬速で振り回した。

ひとり、ふたりと襲いかかってきた賊徒が刃の餌食となり、吹き飛ばされていく。

絶えず宙に舞う賊徒たち。

川口が再び剣を鞘に収めるのと同時に、彼らは地面に叩きつけられた。


「ぐあ……つえェ……」


川口は強い。

埼力さいりょく(戦闘力)60万である。


埼力は表向き、その市町村の人口数がそのまま目安として数値にあてられる。

しかし、真の埼力は土地の総合力で決まる。

故に人口が少なくても、潜在能力の高い市町村は多く存在する。



地面に倒れ込む賊徒一人ひとりを、草加が優しく抱き起こす。

そして懐から取り出した円形の食べ物を差し出して回る。


「食べ物に困っているのなら、この草加せんべいを食べなさい」


「あ、ありがてェ……!」


賊徒たちの目の色が変わり、大人しくなった。

今や草加せんべいは、ただの食料ではない。

庶民には滅多に手に入らない貴重品になっている。


草加が賊徒に草加せんべいを配っているのを川口が眺めていると、その視線に気づいたのか、草加は川口にも駆け寄り、一枚差し出した。


「川口さんもどうぞ」


「どうも」


川口も草加せんべいを受け取った。

醤油の香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

だが、あいにく腹は減っていない。

川口はそれを胸ポケットにしまった。



涙を流しながらせんべいを頬張る賊徒たちを前に、草加はじっと立ち尽くしていた。

川口もまた、黙ってその光景を見つめている。

民はここまで追い詰められているというのに、中央は一体何をしているのか。



重苦しい空気を切り裂くように、一台の車が外環自動車道を走ってきた。

急ブレーキとともに二人の前で停止する。

運転席の扉が勢いよく開き、一人の男が飛び降りた。


「川口殿に、草加殿~!」


八潮やしおだった。

血相をかえており、肩で息をしている。

大急ぎで車を飛ばしてきたのだろう。


「頼む御二方! 力を貸してくれ! 三郷みさと殿がやられた!」


「どういうことだ?」


川口と草加の表情が引き締まる。


「物流の要である三郷ジャンクションが賊徒に襲われた! 三郷殿が応戦したが、多勢に無勢だった! 今は連中に捕らえられている!」


八潮は頭を抱えて、天を仰いだ。


「ああ、なんてことだ。ジャンクションを押さえられたせいで物流が止まってしまった。これでは物資が各地へ届かない。民の困窮が加速する……」


「それは大変です! 川口さん、事態は一刻を争います。救援に行きましょう!」


「承知した。では八潮殿、案内頼む」


「かたじけない!」


それぞれが足早に車へ駆け戻る。

エンジン音が響き、八潮の車が先頭で走り出した。

川口と草加を乗せた車も、その後を追う。


「お気をつけて~」


その場に残された賊徒たちは、走り去る二台の車に手を振って見送る。

川口たちが向かう先、空は灰色の雲で濁っており、雷鳴が轟いていた。


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