第6話:春日部、プロパガンダに利用される
「ほら、修正指示だ」
『没』印の押された原稿を、帝都さいたま市から派遣された使者が机へ放り投げた。
「やり直せ。ダ・サイタマ様は、“より教育的な内容”を望まれている」
春日部は無言で力なく頷いた。
薄暗い制作室には赤字だらけの絵コンテや脚本が積み重なり、散乱している。
徹夜続きのスタッフたちは皆、目の下にクマを作っていた。
もともと、その幼稚園児のアニメは自由だった。
くだらない尻の踊りと、母親に怒られる日常。
仲の良い幼稚園児たちとの冒険。
馬鹿馬鹿しくて、でも温かい。
子ども特有の純粋さと面白さがあった。
大人たちが忘れてしまった、大切な何かを思い出させる作品だったのだ。
それが――
春日部が手に取った三本立ての脚本にはこう書かれている。
~オラ、さいのすけ、ダ・サイタマ様の像へ敬礼するゾ!~
~幼稚園で『埼玉に生まれて幸せです!』と斉唱するゾ!~
~給食前に帝都さいたま市の方角へ感謝の黙祷をするゾ!~
なんじゃあこりゃぁあああああ!!
春日部は狂ったように、頭を掻きむしった。
「こんなの……あの子じゃない!」
若い作画担当が悲痛な声をあげ、顔を覆った。
指の隙間から、涙がこぼれ落ちている。
春日部はそれを見て胸が苦しくなり、思わず窓の外へ目を背けた。
夕焼けの空。
美しい橙色が、何故か残酷に思えた。
かつて自分たちが描いていたものは、純真で無垢な子どもの物語だった。
それが今では、プロパガンダに利用されるダ・サイタマの宣伝道具に成り下がってしまったのだ。
「……さあ、みんな続けよう。逆らえば番組そのものがなくなる。指示通りに作れば、春日部市は重い税が免除される。そういう条件なんだ」
春日部が静かに言った。
誰も反論しなかった。
ペンタブの音だけが響く。
カリカリ……。
まるで自分たちの魂を削るような音だった。
この夏、埼玉国全土で、新作映画が公開される。
薄暗い制作室で、春日部は出来上がった予告映像に目を通す。
『クレヨンさいのすけ 嵐を呼ぶ! 彩の国愛国大作戦!!』
モニターの中で、さいのすけが埼玉国の旗を振っていた。
「オラ、ダ・サイタマ様の為なら、おケツだってふるゾ! ダ・サイタマ様ばんざーい! 埼玉国ばんざーい!」
この予告映像を観て、ダ・サイタマ王に媚びる帝都の役人たちは満足げに頷くことだろう。
これでいい……。
これでいいのだ……。
予告映像が終わるとモニターは真っ黒になり、その黒い画面に春日部の顔が映り込んだ。
ひどく歪んだ顔。
やがて春日部は、ぽつりと呟く。
「……ごめんな」
それは作品への謝罪なのか。
視聴する子どもたちへの謝罪なのか。
或いはかつて自由に物語を描いていた自分自身への謝罪なのか。
春日部自身にも、もう分からなくなっていた。




