第66話:恐怖! 西武園ゆうえんちの罠!
入間と飯能が率いる所沢密襲部隊。
彼らは一般の来園客を装って、西武園ゆうえんちへ入場した。
「来園者はまばらだな。平日だからこんなもんか……」
入間は周囲を見渡す。
緊張感を保ちつつも、隊員たちを集め小声で指示する。
「園の出入り口付近は、敵の大将・所沢が園外へ出ないかどうか僕と飯能で見張る。皆はそれぞれ園内のどこかにいる所沢を探し出してくれ。何か分かったら戻って僕に報告しにきて」
「了解!」
隊員たちはそう返事を重ねた後、解散する。
彼らの後ろ姿を見送る入間と飯能。
やがて飯能がモジモジしだした。
「ねぇ入間! ぼくもアトラクションへ遊びに……じゃなくて、所沢を探してくるよ!」
「えっ? 僕らはここで待機だよ」
「すぐ戻るから! ねっ!?」
そう言って飯能は、軽快なステップを踏みながら園内奥へ行ってしまった。
「……まったく、しょうがないな」
一人、園の入退場口に残された入間。
ふと目の前に広がる光景に目を留めた。
そこにあったのは、夕日の丘商店街。
古き良き時代の熱気が、そのままタイムスリップしてきたかのような軒並みだった。
懐かしい建物構えの交番や八百屋、喫茶店など。
従業員たちは街の住人に仮装しており、アドリブ感あふれるパフォーマンスを所々で繰り広げている。
警察官と泥棒のドタバタ劇に、声高らかな物売りの客寄せ。
ウェイトレスたちの仕草がエモい。
これぞレトロを売りにした西武園ゆうえんちのコンセプト。
入間はふと、胸の奥をぎゅっと締め付けられるような感覚に。
痛みとは違う、不思議な気持ちだ。
どこか懐かしく、優しい気持ちになる。
作戦行動中なのに、入間の顔は綻んでいた。
1時間ほどが経過した。
園内を探し回っているはずの部隊員たち。
まだ誰も戻ってこない。
そろそろ敵の大将・所沢の居場所を特定して戻ってきてもいい頃合いなのだが。
そう思っていた矢先、戻ってきたのは飯能だった。
何故か上機嫌な笑顔を浮かべている。
「ねぇ入間! 夕陽館って建物の中にさ、『ゴジラ・ザ・ライド』っていうアトラクションがあったんだ! 乗ってきたけど、めっちゃ楽しかったよ~っ!」
「ゴジラ・ザ・ライド……? すごい名前だね。まさか所沢軍の秘密兵器とか?」
「何言ってんだよ、ぜんぜん違うって! ゴジラとかが暴れ回る世界に自分が飛び込んだみたいな体験が出来るんだ!
映画のようなリアルな映像と、座席の激しい動き! さらに風や振動の演出まで組み合わさってさ!」
「いいなぁ~、面白そう……」
「本当に怪獣の戦いに巻き込まれてるみたいで迫力満点! 最高だったよ!しかも空いてたから、2回も乗っちゃった!」
興奮冷めやらぬといった様子で、身ぶり手ぶりを交えて称えまくる飯能。
「って……ちょっと待って! 何やってんだ飯能! 遊びに来たんじゃないんだぞ!」
その時だった。
夕日の丘商店街の方向から、突如として賑やかな音楽が。
旋律は活気そのもののように響き渡り、入間と飯能の鼓膜を揺さぶる。
「わあ~、なんだろう? ねぇ入間、行ってみようよ!」
飯能の顔はときめいていた。
すっかり潜入任務を忘れている。
まるで魅了されきって催眠にかかってしまったように。
「ちょっと! 待ってってば……!」
飯能は制止する入間の手を強引に掴んだ。
そのまま賑やかな音楽の響き渡る夕日の丘商店街の方へ引っ張る。
入間は一瞬ためらったが、何だろう……警戒心より好奇心が上回る。
ちょっと様子を見るだけだと自身に言い聞かせて、飯能の後についていく。
商店街へと足を踏み入れると、なんと所沢の居場所を探しているはずの部隊員たちが勢揃いしていた。
「ちょっとちょっと! みんな報告はどうしたんだよ!?」
そう言って隊員たちに詰め寄った入間だったが、言葉を失う。
部隊員たちの顔がレトロな雰囲気にすっかり染まり、目がトロ~ンとしていたのだ。
まるで……骨抜き状態。
賑やかに流れていた音楽が、更に派手になる。
周囲の空気が一変した。
商店街の住民に扮した仮装従業員たちが、突如としてステップを踏みながら踊り出したのだ。
キレッキレの動き。
「な、なんだ!? 一体何が始まったんだっ!?」
入間は慌てて身構え、警戒する。
しかし他の部隊員たちは、すっかりレトロな雰囲気の虜になっていた。
誰も警戒心を抱かずに、目の前のショーに夢中になっている。
「飯能! 何かがおかしいよ!!」
入間が必死に隣の飯能に訴えるが、飯能の目もトロ~ンとなっていた。
そう、これこそ西武園ゆうえんちの名物ショー『ブギウギショー』!
商店街の住人たちが全員集合し、古き良き時代のレトロ溢れる歌とダンスで場内全体を盛り上げる催し物だ!
気づけば飯能と部隊員達も一緒に踊りだしていた。
周囲一帯がお祭り騒ぎの渦へと巻き込まれていく。
やがて、入間も段々と警戒心を解いていく。
理性が溶かされ、ただ目の前の光景に魅了される。
入間も、飯能も、部隊員たちも。
完全にその空間の虜になっていた。
作戦のことなんて綺麗さっぱり忘れ、脳内は楽しさと懐かしさでいっぱい。
誰も気づいていなかった。
これぞ敵の大将・所沢が密かに発動させていた埼玉術式奥義の1つ。
『昭和郷愁・懐古誘惑』
賑やかな音楽がピークに達したその時。
周囲で踊っていた従業員たちがピタリと動きを止めた。
次の瞬間、彼らは着ていた仮装服を脱ぎ、投げ捨てる。
その下から現れたのは、なんと軍服をまとった所沢兵たちだった――!
「そこまでだ! 奥武蔵の潜入兵ども! 観念しろ!」
「大将の入間と飯能がいるぞ! 拘束せよ!」
「うわぁぁあああっっ!!」
唐突に頭を殴られたような衝撃。
『昭和郷愁・懐古誘惑』が解除され、正気に戻った入間たちは絶叫した。
天国から地獄へ。
完全にはめられたのだ!
「やばいよやばいよ入間! 所沢兵だ! ぼくたちは完全に罠に落ちてたんだよっ!」
「みんなっ! 撤退っ!! 撤退だーーーっ!!」
入間の号令も虚しく、次々に隊員たちは所沢兵の包囲網に塞がれ、捕らわれていく。
「まずい……! 飯能、こっちだっ!」
気力と執念を振り絞る入間と飯能。
そして拘束を逃れた隊員数名は、商店街から離脱した。
そのまま西武園ゆうえんちの入退場口へ走り抜ける。
園外へ飛び出した。
しかし、そこに現れたのは所沢軍の増援!
遊園地の外周さえも、所沢兵に包囲されていた。
もはやこれまで……
ではなかった。
入間は突破口を見つける。
西武球場へと続く道路だけが、路幅に対して所沢兵の配置が少ない。
もはや他に選択肢は残されていなかった。
入間の激が飛ぶ。
「みんな! 西武球場へ全速力で走って! あそこで籠城し、何が何でも救援を待つんだっ!!」
死にもの狂いで西武球場へ駆ける入間、飯能、隊員数名。
その逃走劇を、はるか上空からサングラス越しに見下ろす男が一人。
西武園ゆうえんちの展望形アトラクション『富士見展望タワー』。
高さ約80メートルのゴンドラの最上部に大将・所沢はいた。




