第41話:混迷の川口市
川口市は荒れに荒れていた。
人口も多く発展した大都市であるはずの街並み。
その都市規模に対して、通りを行き交う人影は少なすぎた。
時折見かける住民たちも不自然に距離を取り合い、警戒して急ぎ足で歩いている。
怯えた顔ぶれ。
その表情を支配していたのは、いつ現れるかも分からない賊徒への恐怖であった。
相次ぐ賊徒の出没に、領主である大名・川口は処理しきれずに手を焼いていた。
もはや川口市が自力で市内の治安を回復することは困難。
事態を重く見た帝都さいたま市は鎮圧のために、さいたま四天王の浦和率いる浦和軍を派遣させたのである。
浦和軍が川口市へ足を踏み入れたその日、すぐそばで百人規模の賊徒が出没した。
近隣の家々で略奪を行っていたのだ。
即座に浦和軍がこれを鎮圧したものの、赴任初日でこの有様である。
「やれやれ。どうしちまったんだよ、川口市は。聞いていた以上に悲惨な状況だな」
正式に浦和軍が川口市に配備され、川口とその家臣による感謝の儀が執り行われた。
浦和を迎える川口の暗く浮かない表情。
自らの領土を大名として治めきれず、帝都からの支援を仰ぐ羽目になった。
そう感じて、己の不甲斐なさを恥じているのだろう。
浦和は川口を責めることなどしなかった。
そもそも混乱の根底には、埼玉国の王ダ・サイタマによる暴政が背景にある。
責任の一端が帝都さいたま市にあることは川口も、そしてダ・サイタマを支える立場にある四天王の浦和自身も、痛いほど理解していた。
しかし。
それを加味したとしても、今の川口市の惨状は異常である。
単に人口が多いから賊が出やすい、という理屈では説明がつかない。
この治安の悪さに底知れぬ違和感を浦和は抱くのだった。
浦和軍が川口市に滞在してもう一週間になる。
連日のように賊徒が出没し、その鎮圧に明け暮れる日々。
治安維持に奔走する浦和であったが、ようやく見えてきたものがある。
まず領主である川口は、市を治める大名としてよくやっている。
寝る時間すら犠牲にして、街のために動き回っているようだった。
決して職務怠慢ではない。
では何故ここまで治安が安定せず、泥沼化しているのか。
原因は地元の豪族にあると浦和は判断した。
芝氏、鳩ヶ谷氏、安行氏、神根氏、青木氏……など。
川口市の有力な豪族たちが、領主である川口に対して信じられないほど非協力的なのだ。
賊徒を見て見ぬふりし、あろうことか助長しているような素振りすら垣間見えた。
行政や領主への不満だけで、あそこまで足を引っ張るものだろうか。
不自然な反抗心が見え隠れしている。
水面下で何らかの力が働いている、そう浦和の鋭い直感が告げていた。
浦和軍の臨時宿舎として充てがわれた『川口総合文化センター・リリア』。
その1階エントランスに置かれたソファに座り、浦和はひとり思考を耽る。
モグラ叩きのように局地的に出現する賊を鎮圧し続けたところで、焼け石に水だ。
この悪循環を断ち切るには地元豪族の協力が必至。
川口は生真面目なところがある。
悠長に対話による説得や話し合いを重ねているようだが。
手っ取り早く反抗的な豪族の筆頭を二、三人叩き潰してやれば、残りの豪族は素直になるのではないか。
そんな極端な発想が脳裏をよぎり、浦和は自嘲気味に呟く。
「これじゃあ気に食わない者を片っ端から粛清するダ・サイタマ様と同じだな」
浦和は気持ちを改め、決意する。
川口市の混乱が収まり帝都さいたま市へ戻ったら、もう何度目になるか分からないがダ・サイタマに諫言しようと。
民を苦しめる苛烈な重税と過度な強権政治。
暴政の影響を受けている現場の現状というものを知ってもらわねば。
エントランスホールの扉が開き、浦和軍と川口をつなぐ連絡係が駆け込んできた。
「浦和様、川口様より応援要請です! 『アリオ川口』をはじめ、複数の商業施設に賊徒の集団が出現! 暴れ回って窃盗を繰り広げております!」
浦和は軽やかに立ち上がった。
「おっしゃ、任せとけ! 民の安全を脅かす輩には容赦なくお灸を据えてやるぜ!」
そう言って浦和は兵たちに出撃の準備を急がせるのだった。




