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第3話:さいたま四天王の円卓会談

「暗い顔をしてるね、御二方」


不意にかけられた声に、大宮と浦和は反射的に顔を上げた。


しまった。見られたか。

変装が破られた可能性が、脳裏をよぎった。

だが声をかけてきた人物に目をやると、驚きは安堵へ変わる。


与野よの岩槻いわつき!? どうしてここに?」


大宮と浦和の座っていた円卓席の傍らに立っていたのは、見慣れた二人。

大宮と浦和と同じ帝都さいたま市を支える重鎮、

さいたま四天王の“与野”と“岩槻”だった。

大宮と浦和が表舞台で軍事面を担当するのに対し、与野と岩槻は裏舞台で行政を担当していた。


二人とも大宮と浦和のような変装をしていない。

護衛も、供も引き連れていない。

国家の中枢人物として、あまりに無防備なのでは。

大宮と浦和が眉をひそめる。


「何故このような場所に? しかも二人とも自ら」


「食材の買い出しであれば、従者に任せれば良いじゃねーか?」


一拍置いて、与野と岩槻は同時に肩をすくめる。


「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」


「我々も民の暮らしを、肌で感じるために来たのだ」


言葉は柔らかいが、どこか含みがある。


「どっこいしょ」


そうして与野と岩槻は、空いていた円卓席に腰を下ろした。



こうして――

ヤオコーのイートインコーナー、その片隅の円卓に

大宮、浦和、与野、岩槻。

帝都さいたま市の四天王が、期せずして一堂に会した。



与野が苦笑した。


「ね? 我々が変装してなくても周囲の誰も気づかないでしょ? 実際、町を歩いても声をかけられることはまずないから」


岩槻も続く。


「大宮や浦和ほど、民を騒がせる存在ではないのでね」


嫌味ではない。

確かに、知名度には差がある。

それでも大宮と浦和は顔を見合わせて――


「しかし与野と岩槻は、この国の骨格を水面下から支える参謀だ。ふたりの働きがなければ埼玉は成り立たない」


「そうだぜ。俺や大宮よりもダ・サイタマ様に近いところで仕事をしている。その苦労を思うと、頭が上がらねぇ」


謙遜ではない。

大宮も浦和も本気でそう思っていた。

その言葉に、岩槻がわずかに目を細める。


「買いかぶりすぎだな」


対して与野はニッコリと笑い、まんざらでもなさそうだ。


しばらくの世間話。

軽い談笑が飛び交うも、その奥では互いの実力と立場を正確に理解している。

各々、違う戦場で戦っているのだ。

さいたま四天王は互いを慮り、結束していた。



やがて会話が一区切りしたあと、岩槻が神妙な顔になって切り出した。


「彩の国歴においても、これほど危うい時代はあるまいて」


その声音は抑えられているが、言葉の重みは隠しきれない。

大宮がすぐに応じる。


「私もそう思う。この国は恐怖によって支配されている。恐怖で保たれた治世は、はたして安定と呼べるのだろうか」


与野が浦和が買った惣菜のおはぎに箸を伸ばし、口に運んで頬張る。


「あ、与野! 取っておいたのに。自分で買ってくれよ!」


「ヤオコーの惣菜って美味しいよね。さいたま市民はまだ良いんだ。気軽に買える。でも地方の市町村では、定価で買えない民が増えているんだって。値下げ品に群れをなして奪い合う光景が日常茶飯時だって、報告が入っているよ」


「それは俺も聞いたぜ。飢えが出ているってのもな。余裕があるのは帝都だけ。ダ・サイタマ様はさいたま市ばかり優遇してるからな」


またひとつ、与野が今度は大宮の買ってきた惣菜の唐揚げを摘んで頬張る。


「食べ物にも満足にありつけず、生活保護すら撤廃された埼玉国では、国が守ってくれないことに民は失望してるよ。みんな粛清を恐れて口にしないけどね。埼玉への郷土愛を裏切る罪悪感を抱きながら、しかたなく賊徒に落ちぶれる者たちも確認されてる」


岩槻が沈痛な面持ちを浮かべた。


「地方の悲惨さには言葉も出ない。善良な埼玉国民は耐える。時に限界を越えてまで、自覚もなく。気づいた時にはもう遅いことだってある。“手遅れ”というものがいつ来るか……その境界線が見えぬのが厄介だ。既にその一線を越えてしまったのかもしれん」


大宮と浦和と与野が小さく頷いて同意した。


すべては悪逆非道の暴君ダ・サイタマのせい。

口にしなくても分かりきったことだった。


だが奴は、埼玉の三種の神器(埼器)を手中に収めている。


所持する者が、埼玉を統べる。


神話の時代から続く、この国の絶対的な正統であり掟である。

埼玉の民なら誰もが知っていることだった。


『埼玉の三種の神器(埼器)』


埼の玉(さいたまオーブ)

埼玉国民の忠誠を結集する。


彩の宝剣(サイ・カリバー)

市町村の“埼の力”を制御管理する。


そして――


斉の鏡(ミラージュ・サイ)

埼玉の王たる正当者を映し出す鏡。

鏡は、ダ・サイタマを映し出した。

だから奴は王になった。


前王のコバトンは退き、名誉職的なポジションで、今は実権を持たない『帝』となっている。

それでさいたま市は王都ではなく、帝都と名乗っているのだ。


大宮たち、さいたま四天王は、その立場と規則ゆえに、『絶対に』現王を裏切ることは出来ない。

埼玉の王をいかなる場合でも、担ぎ上げなければならない宿命を背負っている。




「あれっ? 大宮様と浦和様だ!!」


弾けるような声。


イートインコーナーの一角。

デザートを囲んでいた子どもたちの集団が、四天王の座る円卓席へと駆け寄ってきた。

幼いその眼差しは、羨望のときめきで満ち溢れている。


「バレちまったな」


浦和は小さく息をつき、大宮は人差し指を立てる。


「しーっ! 子どもたち、お願いだからあまり騒がないように」


その一言で子どもたちは一斉に口を押さえる。

それでも、抑えきれない興奮が身体中に滲み出ていた。


「大宮様、すげえ本物だ!」


「浦和様も、かっこいい!」


子どもたちは与野と岩槻には目もくれない。

二人が大宮と浦和と同じ、埼玉国の重鎮であることに気づいていないようだ。


「写真、撮ってもいいですか!?」


「サインくださいっ!!」


子どもたちは目を輝かせ、大宮と浦和を取り囲む。


伸ばされる幼い手は、ためらいを知らない。

そこにあるのは、純粋な憧れだった。


「……あはは、困ったな」


「やれやれ……少しだけだぜ」


子どもたちと交流する大宮と浦和。

その様子を、与野と岩槻が見守る。


大宮が気づいて、手招きしたが。


「どうぞ、我らにお構いなく~」


与野が頬杖しながらそう言い、岩槻も口元を緩めてからかう。


写真撮影やサインの対応に追われる、大宮と浦和。

満足げな子どもたち。


「写真ありがとうございます! 友だちに自慢します!」


「このサイン、一生の宝物にします!」


「ぼくたちも、大宮様や浦和様のような立派な埼玉人になります!」


「お仕事頑張ってください! 応援してます!」


明るい声、ハツラツとした無邪気な笑み。

そんな光景を見ながら、与野がぽつりと呟く。


「子どもは良いね。疑いも、恐れもない」


岩槻も頷いた。


「うむ……守りたいものだ。あの子らが安心して大人になれる埼玉を」

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