第27話:秩父地方は埼玉のオアシス
秩父地方が、税の納入を渋るようになった。
さいたま新都心の庁舎最上階、王座の間にて、埼玉国の王ダ・サイタマは、四天王の与野が携えてきた各市町村の納税報告書に目を通していた。
「あの、僻地のド田舎め!」
報告書を叩きつけ、口汚く悪態をつくダ・サイタマ。
玉座に腰掛けるその足は激しく貧乏揺すりしており、隠しきれない怒りを露わにしている。
ダ・サイタマは与野を睨みつけた。
「先の鴻巣による反逆といい、やはり埼の玉に入ったヒビの影響が出ているのではないか?」
埼の玉は、埼玉国民の忠誠心を結集させる、埼玉国三種の神器(埼器)のひとつである。
与野は一瞬考え込み、言葉を選ぶように返答する。
「秩父地方は険しい山岳地帯です。この帝都さいたま市から最も遠く離れていることもあり、ダ・サイタマ様の威光と埼の玉の影響力が届きにくいのかもしれません」
与野の心中も穏やかではなかった。
埼の玉の機能そのものは失われていないはずなのだが……。
今後、自我の強い市町村大名たちがどうなるか、怪しいかもしれない。
ダ・サイタマの頭痛の種は、それだけに留まらない。
昨日、埼玉三種の神器(埼器)が安置されている武蔵一宮氷川神社の神官から、報せが届いた。
彩の宝剣にヒビが入った、と。
埼玉国に存在する全市町村の埼力の潜在能力を制御・管理する、超重要な聖剣である。
前回の埼の玉の時と同じように、埼玉全土のホームセンターから最も強力で目立たない透明タイプの瞬間接着剤を取り寄せて塗布させたのだが。
果たして大丈夫なのだろうか……。
先日反乱を起こした鴻巣が“埼玉術式奥義”を展開したという、大宮からの報告もある。
ここ最近、ダ・サイタマの悩みは尽きない。
「とにかく秩父地方が調子に乗っているな。与野よ、帝都が誇る最も優秀な官僚をかの地へ派遣させろ。内情を暴く調査の専門家であり、我が帝都絶対主義を叩き込む教育担当がいたはずだ」
「はい。北辰テストで見事全教科満点を叩き出した、あの彼ですね。すぐに手配いたしましょう」
「うむ。直ちに秩父市へ送り込み、内情を探らせろ。そして帝都に素直に従うよう、指導してやるのだ。先の鴻巣のような国賊となれば、どういう目に遭うかしっかりと分からせてやれ」
与野が一礼して、王座の間を退出した後。
ダ・サイタマは自身の聖人君子ぶりに酔いしれる。
「……吾輩は実に慈悲深い王だな。即座に武力で仕置きすることも出来るが、こうして改心の猶予を与えてやるのだから」
一週間後。
秩父市へ派遣した官僚から、王座の間へ一通の手紙が届けられた。
そこにしたためられていたのは、以下の文章である。
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拝啓
帝都さいたま市の、殺伐とした都会生活に疲れ果てている皆様へ
秩父地方は、実に素晴らしい場所です。
風光明媚で、自然と共生する素晴らしさを深く痛感させてくれます。
人々の心も温かく優しいです。
私が忘れていた“大切な何か”を思い出させてくれました。
正直に申し上げますと、もう新都心の無機質な庁舎でギスギス働くのが馬鹿馬鹿しくなってしまいました。
通勤で満員電車に揺られることも、もう耐えられません。
私に必要なのは、華やかでなくとも心に余裕のある質素な暮らしです。
秩父市は山も川も美しく、食べ物も本当に美味しいですよ?
あと、早朝の雲海がそれはもう素敵でして……ふふっ。
この手紙は私の退職届だと思ってください。
私は官僚を辞職し、秩父市へ移住します。
実はさいたま市内に残していた家族も、密かに連れてきてしまいました。
今、秩父市は移住促進事業にとても力を入れています。
市から引っ越し費用や住居の確保などに対しての支援金が出るんですよ。
ダ・サイタマ様も、よろしければ王なんて辞めてこちらに来ませんか?
官僚の皆さんも、ふふ……まだ帝都さいたま市で消耗してるんですか?
まあ別に、私は一向に構いませんけど。
それでは、どうぞお元気で。
草々
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