第12話:コバトンの沈黙
帝都さいたま市北区にある盆栽美術館。
盆栽を愛する者にとって、聖地と呼ばれる場所である。
幹は力強く枝は細部まで整えられ、葉の煌めきが鮮やかだ。
豊かな生命力を一本一本から感じる。
堂々たる風格を漂わせる数々の盆栽を見て回りながら、感嘆する二足歩行の一羽の鳥。
埼玉国の前王であり、今は帝の位にあるコバトンだった。
同伴する侍従がその空気を乱さぬよう、少し距離を置いて後ろを歩く。
ふと、コバトンの背中へ目を向ける。
そこにチャックはついていない。
やはり着ぐるみではない。
本物の鳥だ。
侍従の視線に気づいたコバトンが振り返った。
侍従は慌てて目を逸らし、咄嗟に話題を振る。
「見事な盆栽ですね。コバトン様は植物がお好きなのですね」
コバトンは黙って頷いた。
盆栽とは、圧縮された技術の結晶だ。
芸術の極みと言って良い。
荒々しさも、逞しさも、勇猛さも、静けさも――
そして悠久さえも、全てがそこにある。
だが盆栽に癒されているはずのコバトンの瞳には、憂いも宿っていた。
まるで盆栽そのものが、埼玉の縮図に見えてしまう。
盆栽は自然のままではなく、人の手によって管理される。
それはまるで、国と同じではないか。
コバトンの耳にも、官僚たちから報告は届いていた。
ダ・サイタマによる新政体制。
専横と暴政、誰の目にも明らかな独裁政権だった。
コバトン自身が後継者としてダ・サイタマを推薦したわけではない。
三種の神器(埼器)のひとつ、斉の鏡が次代の王にダ・サイタマを映し出したのだ。
神話の時代から続く掟に従い、王位を退いただけ。
コバトンは何も悪くない。
しかし前王として、責任を感じずにはいられなかった。
退位したコバトンに実権はなく、帝として民の寵愛を受けるのみ。
政事に関わることはできない。
ただ沈黙して、国の行く末を見守ることしかできない立場にある。
コバトンは一本の黒松の前で足を止める。
伸びた枝は職人が剪定し、その形を美しく保つ。
埼玉もまた、洗練された盆栽のように統治できればいいのだが。
民それぞれが熱意と真心をバトンのように繋いで、美しい彩の国を築き上げていく。
それが理想なのに……。
ダ・サイタマの姿が頭をよぎった。
――奴は、枝を切りすぎる。




