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クローン兵は斃れない   作者: 雨麗亭四迷
序章  生き残ったクローン兵
3/26

機械獣:モデル『ウルフ』

続きです。

 シュッッ!!


 鋼鉄製の巨大な爪が振るわれる。


「ハッ。予備動作が大仰だなァ。感謝する!」


 彼──75319番目の『i』は不敵に笑うと、爪による斬撃を躱してみせた。紙一重すら生ぬるい、ギリギリのラインであったが。


「強がるには強すぎるよな…」


 なるほど眼前の機械獣(ビースト)は確かに動作こそ大仰で予測しやすくはあったが、それを補って余りあるスピードを正確さを兼ね備えていた。

 そもそも彼と同じ技術や『能力』を持つはずの『i』達が足元で屍と化しているのも、そのスピードに対応しきれなかったが故のことだ。


 シュッッ!シュッッ!シュバァッッ!


 目で追いきれず、予備動作からの予測と勘でギリギリ躱せるレベル。

 掠っただけで致命傷となりうる一撃だということは、命を落とした同胞たちの死に様で実証済みだ。


「おいおい、少しは手加減ってもんを弁えろよォ」


 強がって軽口を叩くが、既に肩で息をしている。

 

「楽しそうだなァワン公…。いや嬉しそう──か?」


 無論、殺戮用機械生命体である機械獣(ビースト)に感情はない。しかし、彼は爪をギリギリで躱しながらも話し続ける。


「任務を達成できそうで嬉しいかよ。こっちはキレそうだ…お互いに任務達成出来そうなのによォ」


 それはそうだろう。彼、いや全『i』たちに出された任務は唯一つ。


──「死んでこい」


 己の命を以って足止めをしろ。それが彼らに下された指令であった。


「そんな顔すんなよ犬っころ。俺だって逃げ出したいんだよ。──ほら、見てみろよ周りを」


 まさか言う通り周りを見渡したりしなかったけれど、この機械獣(ビースト)も理解しているだろう。辺りの惨状(・・)を。


 全滅。

 投入された108000体のクローン兵全ては、同じく投入された同数の機械獣(ビースト)の前に殲滅戦を演じることになった。無論、殲滅される側である。


iたち(俺ら)だって散々機械獣(お前ら)を殺したからなァ。心中察するに余りある。──だがな」


 彼はついに膝をつく。

 迫りくるのは巨大な爪。

 次いで手をつくのは屍の上。


「俺は生にしがみつく………!たとえ仲間が全滅しても」


 そうでなければ死んでいった『自分』たちに合わせる顔がない。

 独りよがりかもしれないけれど。

 それだけが────彼が生きていていい(・・・・・・・)理由なのだから。

 命令とは違った意味で。

 宿命とは違った意味で。


 そう言って『彼』が取った行動は、まともな倫理観の持ち主なら選択肢にも挙げないものだった。

 それはあまりに非人道的で。

 それはあまりに非倫理的で。

 けれど、どうしようもなく論理的な。

 そんな残酷な一手。

 そんな酷薄な一手。


「オラァッッ!!」


 彼は渾身の力を込めて────仲間の、否───『自分の』屍体を蹴り上げた。


「……………!」


 感情が『設定されていない』はずの機械獣(ビースト)に驚きが浮かぶ。それは警戒しただけなのかも知れないが、少なくとも明確な()()()

 機械獣(ビースト)の演算能力を酷使しても読めなかった一手にして意図。

 彼を、彼の行動を───測りかねる。

 行動を、次の行動を───図りかねる。


「赤い雨ってのも………乙なもんだな」


 そんな───狂気的で、見方によっては猟奇的な言葉を吐きながら。


 彼が蹴り上げたのは胴が両断された『i』の屍体だった。

 血が──赤い雨が──辺りに撒き散らされる。

 そしてそれは、機械獣(ビースト)の装甲も赤く紅く染め上げる。


「来い、不良品。ご自慢の爪はお荷物かよ」


 そう言って足元に積み重なる屍体を更に蹴り飛ばす。


 ドガッ ドガッ ドガッ


 腕を。足を。胴を。頭を。

 いくつもの屍体が宙を舞い、真紅の鮮血で戦場を塗りつぶす。


 シュヴァァァァッッッ!


 一閃。

 冷たい刃と表現するにはあまりに血で汚れすぎたその爪が、屍体の山を両断する。

 当然の如く、屍山血河を地で行く光景が展開される。

 即ち───血の海。

 またの名を───地獄絵図。


「いい画だ…お前もそう思うだろ…なァ?スクラップ」

「…………」


 当たり前に、機械獣(ビースト)は無言。

 無言に、無感情に、大きな爪を振りかぶる。

 冷静に、冷酷に、腰を落として構えを取る。


「来い………」


 機械獣(ビースト)が地面を蹴る。

 目にも止まらぬ圧倒的な速度。

 知覚すら許さぬ絶対的な速度。


 鋭く研ぎ澄まされた鉄の刃が彼に触れる。超弩級の速度と冗談級の質量を乗せて。


 ズガアァァァァッッッ!!

もし……もしッッ面白いと思っていただけたら!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 目が!目が離せないのですよぉ!!ウオオオオアアアア\( ´°ω°)/アアアアアッッッッ!!!!! そして……周囲の現実ときたら!互いに同じ数だけ死ぬ自分たち。そんな中で彼がとる想定外の行…
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