クロードの悪夢
主人公登場します
──クロード高原は地獄と化していた。
仲間たちの屍。逃げ惑う人間たち。そして死んでいく者たちの断末魔。──奇妙なことにそれらは、全て同じ見た目、同じ動き、同じ声色をしていた。
奇妙というべきか。当然というべきか。
ここではやはり、当然と言うべきなのだろう。
──なぜなら彼らは、全て同じ「個人」なのだから。
全と一。矛盾する2つの言葉。
この矛盾は科学技術の発展によって埋められた。
──それはすなわち、クローン技術の完成である。
そして、今この場所で血を流し、命を落とす彼らは全て同じ「人間」である。
クローン技術の完成。それは戦争下にある軍の悲願の完遂でもあった。
曰く、「兵士を無尽蔵に量産すること」。
そうして量産された108000体のクローン兵──通称「i」たちは戦場へと身を投じることになる。
兵士を無尽蔵に量産できることは彼らの命が軽いことを意味し、彼らの命が軽いことは捨て駒にされることを意味する。
そして──捨て駒にされることは、「玉砕覚悟を前提とされる」ということを意味していた。
かくして、捨て駒とされたクローン兵たちは『絶対に勝ち目がない』とされる戦いに身を投じることを強いられた。そしてその戦場は──ここ、クロード高原は──文字通り死屍累々の地獄絵図と化したのだ。
「クソッ!!」
彼──75319番目の『i』はこの現状に毒づいた。
辺りを見渡しても、見れるのは『敵』と死んでいく仲間たちだけ。
──戦況は絶望的だった。
否、因果関係が逆だ。彼らが投入された戦場が絶望的なのではない。絶望的な戦場にiたちが送り込まれたのだ。
それが量産型兵士こと、彼らの『使い方』であり、理論的かつ理想的な戦略だからだ。
司令官から『i』たちに伝えられたのは一つだけ。
──「死んでこい」
それが彼らフィナリエント帝国軍のスタンスであり、絶対的な『命令』だった。
血煙の向こうにいる『敵』から実を守るため、彼は足元に転がっていた仲間の屍を盾にする。
盾にされた仲間も、そして彼自身も、そのことに眉をしかめたりはしないだろう。まともな情緒では、この戦場に見を置くことすらできはしない。
「クッッ!!」
仲間の屍を貫いて巨大な『爪』が彼の体を掠る。が、逃げることも諦めることも降伏することも許されない。それが彼ら──iと呼ばれた兵士たちだ。
血煙の向こうから突進し、『i』の一人の死体を貫いた『敵』がようやくその全身を見せる。
「きらびやかな装甲が返り血で台無しだな──機械獣」
機械獣。それは『i』たちを量産したフィナリエント帝国と千年もの間戦争を続ける国──サエリオン共和国連邦の殺戮兵器であり、フィナリエント帝国が『i』たちを、そして『能力』を開発したのに対する技術で生み出された存在──機械生命体の通称である。
「モデルは狼か?ったく…ギラギラと鬱陶しく目を輝かせやがって」
機械獣はその用途に別れて様々なタイプが存在する。眼の前で大量の『i』を殺戮したこの機械獣はそのうちの一つ、狼のモデルだった。
「おうおう、馬鹿みたいに鋭い爪と牙だなワン公。スクラップにして粗大ごみにしてやろうかァ?」
「………」
機械獣は言葉を発さない。そのように『設定』されているからだ。
が、身振り手振りで挑発が伝わったようだ。その体勢を、獲物を狩るものへとシフトチェンジする。
圧倒的な威圧感。
絶対的な存在感。
それらを肌で感じつつも、彼は戦いを放棄しない。否、できない。死ぬまで戦うことを命令された『i』はそれを前提に戦場に赴く。
なぜなら彼らもまた機械獣と同じく、そう『設定』されているから。
「嫌になるお国柄だぜ全くよォ…」
そう独りごつ。『自分』たちの屍に立ちながら。
粗野やなあ…この主人公…




