追憶の終わり
あけましておめでとうございます。今年も何とか生きていく所存です
懐かしい夢を見ていた。
純粋に彼女に憧れた頃の夢を。
彼女を超えたいと願っていた頃の夢を。
「起きたのか?」
瞼を上げると、そこには見慣れたはずの少女が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
どうやらここは病室のようで、気が滅入るほど白い部屋に、ジークは死んだように横たわっていたらしい。
「レアリス…………?」
どうしてここに?
そう言おうとして思い出す。
あの模擬試合はどうなったのか─────と。
「俺は………………負けたのか?」
レアリスが顔を顰めたのを見て口に出したことを咄嗟に悔いる。そして同時に抱いた疑念が確信に変わる。
「そうか。負けたのか」
それで病室か。
そう納得して初めて身体に残る鈍痛に気付く。
「痛っ」
「大丈夫か?ナースコールしたほうがいいか?」
急に顔色を変えて慌てるレアリス。
あの頃ならば、こんな彼女を見ることはなかっただろうか。
彼女を追いかける資格を失った今になって、あの頃は見ることがなかった彼女の一面を垣間見ることができるとは。現実の皮肉さに、申し訳程度の笑みを漏らす。
「平気だ。心配するな」
そう言っておく。するとレアリスはちょっとだけ安心したように表情を崩した。少し前の彼女ならこんな表情を見せることはなかっただろう。特に師匠を手に掛けた後の彼女ならば。
やはり、あの男がレアリスを変えたのだろうか。
「クローン兵は?」
対戦相手の事を問う。おそらくは自分に勝った相手のことを。
「病室に来る前に別れた。ちょっと寄っておきたい所があるらしい」
「後遺症とかはないのか?」
自分に勝利したとはいえ、彼は彼でジークの『能力』を何度もその身で喰らっている。生きてはいるらしいが、これで彼が戦闘不能にでもなったら流石に申し訳が立たない。
「いや?ピンピンしてるぞ」
「そうか。ピンピンしてるか…………ははっ」
堪えきれず笑ってしまう。レアリスが不思議そうな顔で見てきたが、ジークは笑いを止めることができなかった。
「なんて奴だ。俺はこんなにボロボロだってのに。───完敗だな」
そう呟いてジークはまた笑った。
「むう。よくわからんが、良かったのか?」
「あぁ。─────満足だよ」
と──────おもむろに扉が開き、気怠げな少年が顔を覗かせた。
ジークは彼と目を合わせる。
少年は目元だけで笑ってみせた。
「よぉ。……っんだよ、元気そうじゃねえか」
持ってきて損したな。
そう言って、片手に持ったフルーツバスケットに目を落とす少年。
「元気に見えるか?」
「コレが食える程度にはな。ったく、お前の寝顔を見ながら食べようと思ってたのに」
「食べればいいだろ。別に俺は気にしない」
「俺の性格が悪いみたいじゃねえか」
善くはないだろ。
ジークはそう笑って、少年から見舞いの品を受け取った。
「もしかして合、さっき言ってた寄る所って…」
「違ぇーよ。別件だ。こんなもんついでに決まってんだろ」
少年─────合はぞんざいに答えながら近くにあった椅子に腰掛けた。
「なあ、お前────合だったか?変な名前だな」
「ほっとけ。別にお気に入りの名前じゃねェ」
虚数の次は空集合だぜ?
どんだけ無き者にしてぇんだよ。
そんな皮肉めいたことを言って合は笑った。
「なあ合────お前、いつから俺の『能力』を看破していた?」
「…………………」
「最後の作戦。感覚的に一酸化炭素を利用したんだろう。だが、もし空気ごと弾かれていたらどうするつもりだったんだ?」
「何がいいたい?」
「どうしてお前は、俺にそれができないと分かったんだ?」
ジークの『能力』。
明らかなのは対象を衝撃が襲うことのみ。
もしその対象が空気にも拡張できたら?
それを確かめずにあの策を取るのはあまりに危険な賭けだろう。
「最初は衝撃波を出す能力かと思った。そして焦ったよ。だったら、そもそも近寄れねェ俺に勝機はないってな。大量の物量で攻めようとも、一切合切薙ぎ払われたんじゃ打つ手はねェ」
「どうして違うと思った?」
「最初に疑問に思ったのは初めにお前の『能力』を喰らったときだ。
あれだけの衝撃にも関わらず、俺に死を覚悟させるだけのダメージを与えているのに関わらず、服が破れていなかった」
「ほお………?」
「そして例の模擬試合。序盤に数回、お前の『能力』を喰らってみて、俺の疑念は確信に変わったよ。
まず、お前の能力は強力なものになればなるほど溜めが必要になる。これを知れたのは重要だったな。お陰で何発か喰らってみて確信できたんだからな」
そして、合はジークを指さした。
勝ち誇るように。確かめるように。
「お前の『能力』──────相手を拒絶する能力ってところか?」
「……………」
「俺の服、つまり俺の外側にあるものに傷をつけずそれに守られている俺だけを傷つけた。そのことから推察するに、あの衝撃が襲うのは対象のみで、その周りにあるものや自分と対象の間にあるものにお前の『能力』は適応されない。俺の服や、お前自身に付着した血が何の影響も受けていないのはそういうわけなんだろ?
だとしたら一度に全方位の対象を弾くのは難しいだろうって踏んだんだよ」
その回答に。
その解答に。
「は……ははっ………………」
ジークは再び、堪えきれないというふうに笑みを漏らした。
「──────完敗だ」




