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クローン兵は斃れない   作者: 雨麗亭四迷
第一章  海の向こうの殺意
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出張任務

「なあレアリス。お前に言っておかなきゃならない事がある」


 ジークの病室を後にした後、合はレアリスの名を呼んだ。


「どうした?」

「さっき俺が言った別件の事だ」

「照れ隠しじゃなかったのか」

「どうして俺が」


 半目を向けて言葉を繋ぐ。


黎明(総隊長殿)から見舞いが終わったら執務室に来るようにことづけられていてな」

「総隊長に会ったのか?」

「先の模擬試合の報告させられてたんだよ。ついでに言うと見舞いの品買ったのも奴から言われたからだ」


 確かにそうかもしれない。

 黎明の執務室に足を向ける合の背中を見ながら、レアリスは納得する。

 確かに、つい先日まで戦場以外を知らなかった合が自分から見舞いの品を買うとは考えにくい。そもそも見舞いの品はおろかフルーツバスケットだって知らない可能性が高いのだ。


「合、果物って知ってるか?」

「お前……バカにしてんのか?」


 急にどうした。

 そう言って呆れたような目を向ける合。


「見舞いくらい知ってるよ。戦場でだって何度か目にしたさ。──────『i』(俺ら)に宛てられたものじゃなかったけどな」


 黎明の執務室。その重厚な黒い扉をノックする。


「漆番隊隊長。レアリス・シャードバースです」

「漆番隊所属。空集合だ」


 ドアノブを回す。

 ギィ…と重々しい音が鳴り、中の簡素な内装が目に入る。

 殆ど何の調度品もない部屋。その奥にある、内装の簡素さからは異常とすら思えてしまうほど一目で高級品とわかるデスク。そこに巨大な窓を背にして男が座っている。

 伸び放題になった手入れのされていない銀髪。閉じられた瞼と目元に残る濃い隈。ゆったりとした、それでいて皺のついた軍服。それらのことは男に何処かだらしない印象を与えていた。


「起きて下さい、黎明総隊長」


 レアリスの言葉に、黎明総隊長と呼ばれた男は億劫そうに瞼を開けた。


 フィナリエント帝国軍対機械獣機動隊総隊長。

 永久戦争で多大な戦果をあげた通称『八大英雄』の一角。

 『絶対』の名を持つ雨龍家の現当主にして当代最強とまで謳われる軍人。

──────雨龍・月之丞・黎明が、そこにいた。


「ふぁあ………………来たのか」

「相変わらず可愛い欠伸だな。総隊長殿」

「仕方ないだろ。連日の任務で疲れ切ってんだよ」


 そう言って、もう一度大きな欠伸をする黎明。


「それで俺達に何の用だ?」


 黎明と対峙する。二人の視線が交錯した。


「お前らに新しい任務を与える」


 単刀直入。何の導入部も前置きもなく、黎明はそう切り出した。


「新しい任務ですか。というと?」


 レアリスが一歩前に出た。隊員が二人しかいない漆番隊ではあるものの、漆番隊の隊長はあくまでレアリスであり、故に黎明が話を通すべきは合ではなくレアリスである。否、『通す』などという行為は軍には存在しない。上官の命令をひたすら『受ける』のみ。それが唯一にして絶対の軍の規律だ。


 (ったく………堅苦しくて嫌になるな)


 合は内心だけで毒づいた。無理もない。その『軍の規律』によって製造(・・)され、自分以外の107999人が命を落としたのだ。好きになれと言うのが無理な話である。


「お前ら漆番隊には、学園都市エドゥアールへ向かって貰う」

「……………!」


 ───────何かに殴られたような衝撃が合を襲った


 それは知らないはずの名前だ。学園都市エドゥアール。生を受けて以来人生のすべてを戦場で過ごしてきた合にとって、自らと最も縁遠い学園都市など、知る必要も知るきっかけも知らされる理由もない。

 それなのに、何故だろうか。

 エドゥアール。

 その言葉が、響きが、合の記憶を強く揺さぶる。


「エドゥアールだと?」

「知っているのか?」


 そう問うてきたレアリスに小さく首を振る。

 知っているはずがない。つい先日まで帝都すら知らなかったのだ。そんな合が帝国の学園都市など知っているはずがない。


「いや…………。気の所為だと思う」


 レアリスへ答えながら、ふと視線に気付いて横を見る。

 黎明が一切の感情を排除して合を見つめていた。


「そうか。気の所為か」


 俯きがちにそう答えた黎明は、顔を上げるといつもの眠たげな顔に戻っていた。


「お前らにエドゥアールへ向かって貰う理由は1つだ。レアリス、お前が倒したヘビの機械獣。─────あの解析結果が出た」

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