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クローン兵は斃れない   作者: 雨麗亭四迷
第一章  海の向こうの殺意
22/26

チェックメイト

「クハハハッ!歪んだ顔も似合うじゃねェかよエリート殿ォ!」


 合は笑いながら拳を作り、次々と繰り出していく。

 合の渾身の力を込めた拳の数々が、矢継ぎ早にジークの急所に突き刺さる。

 同じ土俵。

 この戦闘が始まって以来初めての、互角の勝負。

 が、現実には合が圧倒的に有利な状況が形成されていた。


 無論、言うまでも無く、(あげつら)うまでも無く、ジーク・ウルフィートは格闘術も修めている。

 高級将校として。そして実働部隊の戦士として。

 彼が習得した格闘技は、修得した格闘術は、並の軍人のそれなら軽く凌駕する。

 そう────()()()()()()()()()()


 けれど、彼は─────空集合は違う。


 ジークの繰り出す正拳突き。鍛え抜かれた鋭さの、教科書通りの優秀な突き。

 通常なら真っ先に回避を選択するであろう、順当な強度の打突。

 けれど────合はそれに拳で応えた。

 ジークの拳に、自身の拳骨を合わせるように。


「ぐっ……」

「痛ッ…………………てぇなァッ!」


 予想外。

 理解不能。

 常軌を逸した対処法だ。少なくともジークの受けた教えでは初めから想定されていない方法。


「貴様……そんな目茶苦茶な闘い方、どこで覚えた?」

「どこ?んなこと決まってんだろ……戦場だァ!」


 合は────否、『i』達は、戦闘訓練を受けていない。

 無制限に量産できる『i』の一体一体に、そこまでの時間をかける意味も必要もないからだ。

 だから合は必然的に覚えた────戦場での生き方を。

 普遍的に扱えるように研究された軍隊格闘術ではなく。

 何万もの『i』たちが殺されていく中で発見した、自分が死なない生き方(・・・・・・・・・・)を。


「なァジーク…お前は今までの戦闘でどれだけの数、命を掛けて闘った?」

「あ?」


 ジークが放つ、首を叩き切るような足刀。

 その動きに合わせて、腓骨にエルボーを叩き込む。刈り取るような足刀を、迅雷とも表現すべきスピードで、空中へ弾き返す。


「グッ……!」


 腓骨。いわゆる弁慶の泣き所。人体の中で最も弱い部分とも言われる部位。人体の中で最も折れやすいと言われる骨。


 そこへ喰らう、猛烈で鮮烈で痛烈な肘打ち。

 足を駆け巡る痛覚に、思わず顔を歪めるジーク。


「クハハッ!ご自慢の顔が歪んじまったなァ!いい眺めだッ!」

「貴様ッ………!」


 ジークは合へ向けて手を振りかざす。彼の『能力』────合程度なら一撃で命を奪える『能力』を。


「発動………!」

「────遅えよ」


 パチン────!


 ジークの背後で、そっと、消えてしまいそうなほど微かな音を立てて─────泡沫が割れた。


「っ───────!?」

「じゃあな、高級将校…………詰み(チェックメイト)ってやつだ」


 グルッ───…………

 ………グルグルグルグル……………


 視界が回る。

 視界が廻る。

 合の言葉と共に─────ジーク・ウルフィートの視界は暗転する。


「クハハッ………そういえばお前、なんで俺の能力で発火したのか気になってたよなァ……」


 足元に突っ伏したジークを見下ろして、合は言う。


「意識は無くなったみたいだから答えてやるよ。なんで俺の『能力』であんな事ができたのか───?」








「秘密は酸素……かな」


 夜泉は相変わらずの笑顔を浮かべてそういった。


「酸素……ですか?」

「そう。そしてそれが今、ジークが倒れている理由でもあるんだろうね」

「どういうことですか?」


 レアリスは怪訝な顔で問う。その柔和な横顔に。恐らく自分の数倍の数を斬ってきた、その残忍な横顔に。


「まずは最初の発火だ。あれがどんな風に引き起こされたのか分かるかい?」

「一つだけ、予想があります」

「重畳。話してみてよ」


 モニターに目を向ける。画面の先で笑う合に。


「─────()()()()()







「お前も知ってるだろうが、血ってのは酸素を運んでる。特に動脈………俺がドバドバ出血して撒き散らした動脈血には酸素が豊富に含まれている。それら酸素が出血なんかで外の空気に触れたらどうなるか?」






「豊富な酸素を含んだ血中成分────ヘモグロビンはその誠実に従って酸素を離す。いわゆる還元というやつです」

「それなら、戦場では常に大火事だね?」

「だからきっと血の還元程度ではそう大した酸素量は出ないのでしょう。────それをあいつは『能力』で補った」






「血が飛び散ったところに周りで常に小さい泡沫を作り続けるんだよ。そうやってじわじわと泡沫内の酸素濃度を高めておいた」






「そして、それらをジークの周りに漂わせて破裂させたんでしょう。そうやって、標的の周囲を高濃度の酸素で固めて火をつける」




「着火した火は────急激に燃え上がる。それこそ爆発的にな。そしてそれを次の一手に使ったんだよ」





「画面は赤く染まりました。つまり順当に考えるなら、あの場で起こった炎は()()()()()

「…………ってことはつまり…」

「ええ。()()()()()()()()()






「高濃度の酸素は一瞬で有毒の一酸化炭素に生まれ変わる。それを再び泡沫の中に閉じ込めて────もっかいテメエの周りで破裂させれば────チェックメイトだ」

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