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クローン兵は斃れない   作者: 雨麗亭四迷
第一章  海の向こうの殺意
21/26

赫灼

「ライター………今更そんな物を持ち出してどうするつもりだ?」


 ライター。

 合がその手に握る機器。参番隊隊長・千文字夜泉から渡された『秘密兵器』


「気づかねェとは気楽なことだなァ……見てみろよテメェの周囲を」


 パチン パチン パチン


 泡沫が弾ける音が木霊する────否、それは泡沫が()()()()()()()()()音。


「な────!?」


 ジークは思わず息を呑む。

 彼の周囲───死角となっていた空間。

 そこに幾多もの泡沫が浮かんでいたのだから。


「シャボン玉…………だと?」


 浮遊する無数の泡沫。そしてそれらは音を立てて破裂し続けている。


 パチッ パチッ パチパチッ


「ハハッ!振り向いてくれてありがとなァ!」

「────!」


 投擲。

 合はその『秘密兵器』を────渾身の力を持って、投げつける。

 それはコンマ数秒の差。

 ジークが振り向いて合に手をかざし───再び能力を発動する時間。

 合が────手に持っていたライターを投げつける時間。

 投擲されたライター。

 宙を舞う文字通りの灯火。

 ジークの能力発動のほうが僅かに早かった────しかしその投げつけられたライターにより作られた、コンマ数秒の時間差(タイムラグ)

 ライターに注意を逸らされたことから生じた、ほんの一瞬の時間差。

 この時間差が────明暗を分けた。


「燃え上がれ………!!」


 それは一瞬の出来事。

 合が投擲したライター。そこに灯されていた灯火が───


 パァァァンッッッ


 一瞬の破裂音とともに、勢いよく爆ぜたのだから。

 たった一瞬。けれども確実にその空間を───炎が蹂躙した。


「か─────ハッ!?」


 身体ごと壁に叩きつけられるジーク。

 鮮血がその口から零れ落ちる。

 爆炎をもろに喰らっての衝撃。

 炎に身を灼かれる激痛。


「グッ……引火だと!?まさか…そんな気体どこから……まさかそれがお前の『能力』か!?」

「引火?能力?違ェな。ただライターが燃えただけだ」


 笑う嗤う哂う嘲笑(わら)う───高らかに、嘲笑う。

 炎で焼けた腕を隠そうともせず、どこまでも高らかに。


「俺の『能力』なんて大したものじゃねェよ。シャボン玉を作り出す。それだけだ」


 それだけの『能力』の俺達を、軍部(お前ら)は戦場に投入したんだ。


 合は言う。


「何だ?告発のつもりか?」


 そういえば、この映像はどこかで中継されるんだったか。まあ機密に触れそうなところは勝手にカットしてくれるだろう。


「まさかそれで俺達を恨んでいるとか言わないよな。良いか?お前らはそのためだけに(・・・・・・・)造られたんだ。その役目を果たしただけじゃないか」


 プロジェクト『i』。

 軍の最高機密だ。

 隊長格のレアリスすら知らされていなかったほどの機密性。


「お前、随分と気に入られてるみたいだな」

「あ?」

「お前程度の階級で『i』の存在を知らされてるんだろ?正規軍人になって日が浅い俺でもわかる。次代のホープってやつか?」


 焼けた腕。身体中に広がった傷。それに上塗りされたような火傷の跡。

 序盤につけられた傷がある分、ジークよりもダメージを蓄積しているようにさえ見える。


「気にくわねェな」


 ダッッ


 合は地面を蹴る。

 即行。いや────速攻。

 壁際のジークヘ向けて、一直線に距離を詰める。


「気に食わねェんだよ、高級将校ォ!」


 その軍服すら焼け焦げたジークへ。彼もまた、爛れた肌。

 彼の火傷の最も重症箇所へ、その拳を叩きつける。


「グッ……!貴様………っ!!」

「次代のホープ?期待の新星?いちいち癇に障るなァ!?どうだエリート殿?捨て駒風情の策略に嵌った気分はァッッ!」


 もとより壁際。

 合の洞察通り。ジークの『能力』発動には一定以上の『間』が必要。

 十全の時間を費やした上での威力は文字通り殺人級。けれど逆にいえばそれは───秒単位での『間』ではそよ風程度の出力すら出せはしない。

 合の取った戦法は単純明快。

 殴る。

 ひたすら、絶え間なく、───殴打し続ける。


「舐めるなよ捨て駒風情がッッ!」


 それに対して、自然に当然に必然に、ジークの戦法も変えざるを得ない。合の闘いに、応えるを得なくなる。

 遠距離攻撃で常に敵を蹂躙し、『難攻不落』とまで言われた彼だけれど、エリート軍人として最低限の近接戦闘技術は身につけている。

 肉弾戦。

 圧倒的な火力を持つジーク。絶対的に火力を持たない合。

 そんな暴力的な戦力差の二人。

 けれど現在、その二人が取ったのは、拳の応酬という極めて対等な戦法(やり方)だった。

 そして。


「こんなものか!?高級将校殿よォッ!」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 策略では如何ともし難い、暴力的な戦力差。

 それを対等な勝負まで持ち込むために。

 同じ土俵まで、引き摺り下ろすために。

 合は数々の言葉で、煽り続けた。

 戦う以前の立ち位置の差を、強調し続けた。

 『高級将校』。『エリート殿』。『それだけの「能力」』。

 絶対的に強者にいながらも合に手こずり続けるジークを焦らし続けた。

 なぜお前ほどの強者が。才能でここまで来た人間が。

 自分程度に手こずっている。

 圧倒的に能力で優位に立てる相手に対して。

 焦らせ続ける。

 そして、格差なく戦える場を用意する。

 ジークは乗った。

 こうして、圧倒的な戦力差から始まった戦いは、対等な戦いへと変容した。

 戦略的に言えば、合の圧勝である。

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