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クローン兵は斃れない   作者: 雨麗亭四迷
第一章  海の向こうの殺意
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哄笑

 コロシアムで対峙する二人。

 けれどその二人はどうしようもなく、満身創痍の状態だった。

 一人はその全身に大小の細かい傷跡が。

 一人はその顎に───否、脳に明確な衝撃が。

 出血多量で意識朦朧。

 顎への拳打で脳が揺れた事による平衡感覚喪失。

 傷だらけの合。

 傷一つのジーク。

 しかし蓄積した疲労が、受けたダメージが、二人を戦闘へと移行させない。

 故に二人は息を切らして傷を押さえて、しばしの間睨み合う。


「ハハッ!殴られたのは初めてかい?気色悪ィ爽やかフェイスが少しはマシになったじゃねェか」

「どうして死なない…………?俺の『能力』を幾度となく喰らったはずなのに」


 顔の傷を押さえているため呻くような声。

 そんな問いかけに合が返したのは嘲笑だった。


「溜めが必要なんだろう?お前のその『能力』」

「─────っ!」

「図星か。思った通りだ」


 最早これは言葉の戦い。

 策を弄して虚言を紡いで、できるだけ戦闘を有利に運ぶ。


「お前のその能力───どうせ衝撃波みたいなもんだろう。掌をかざした方へ衝撃を与える、そんなとこだろ?」

「……………さあな」

「つれない答えだな高級将校。まァいいさ、そのうち吠え面かくんだからな。───最初におかしいと思ったのは今日の最初の一撃だ。あれはおかしい。明らかに()()()()

「……………………………」

「前回初めてお前の『能力』を喰らったときは正直戦慄した────あと数回()()を喰らったら死ぬってな。実際、俺はアレを喰らってしばらくは動けなかった」


 正直焦ったぜ、空集合はそう嘯く。


「……………………………」

「だがそれに比べて今日の一撃はなんだ?確かに派手に吹き飛ばされたが────それでも俺は直ぐに走り出せた」

「それは───」

「じゃあお前が手加減でもしてくれたのか?いいや違う。少なくともお前は油断していたかもしれねェが、お前は明確な殺気が漲っていた」


 威勢よく、血の滲んだ顔で、合は言葉を紡ぎ続ける。


「ハハッ!だったらお前は何かの理由があってその威力が減退してるって事だよなァ!?そこまで思い当たればテメェの弱点を見つけるなんざァ造作もねェ!あのときにあって今ない物は何だ?────それは『時間』だ」

「……………!」

「前回……お前は十分な準備をしてから俺らに話しかけた。しかし今回はどうだ?確かに最初の一発は少しばかり重かったが……数を重ねるごとに弱くなっていったよなァ。仕舞には何発喰らっても斃れねェ程度にまでなァ!」







「凄いね〜、彼。生き残ったクローン兵は伊達じゃないみたいだね」


 千文字夜泉はそう言って笑った。


「戦闘になるとハイになって妙に饒舌になるクセはあるみたいだけどね」

「ハイに……」


 レアリスはモニター越しに合を見る。確かに普段の気怠げな合からは考えられないくらい機嫌よく調子よく語っている。騙っている。


「そういえば君も彼と殺りあったんだっけ?その時もこんな感じだったの?」

「言われてみれば、確かにあのときもハイになってたような」

「ハイになっても頭は冷静なのが凄いよね。いつか……殺ってみたいな……」

「…………っ!」


 思わず夜泉に鋭い視線を向ける。その、どこまでも蔭のない笑顔に。


「嫌だな〜冗談だよ。僕がそんな事するわけないじゃん?」

「そうでしょうか」

「そうだよ、僕は誰に対しても優しいんだ。でもそれも考えものかなあ………この健闘を見てると、さっき合くんに()()()()を渡したのはフェアじゃなかったかなって思えてくるよ」

「秘密兵器?」


 思いがけず飛び出したそんな言葉。口ぶりからすると、合が少しでも戦えるように渡したようだ。けれど、そんなものを受け取っておきながら合は未だそれを使っていない、

 あの合が。

 あの─────生存本能の化け物が。


「と言っても僕の持ち物じゃないけどね。セレストくんの余り物だよ」







「さて………」


 空集合は立ち上がる。

 ジーク・ウルフィートも立ち上がる。


「そこまで俺の能力を暴いたなら自分の失敗も理解してるよな。空集合────お前の言う『溜める時間』とやらを、俺はもう確保できてしまったが?」


 勝ち誇った笑みを浮かべながら合へ向けて手をかざすジーク。

 そして対峙する合もまた────同種の笑みを浮かべていた。


「それは良かったなァ……じゃあさっさと─────死ね」


 合の手には一個のライターが握られていた。

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