近接戦闘
「───殺すか」
そういう前に身体は動き出していた。
前にではない─────横に。
「殺す?君が俺を?冗談は休み休みに言いなよ」
「ハハッ…良いセリフだなァ!そうさ、俺はお前殺す」
駆ける。
ジークの周りを疾走する。
変則的に駆け回る。
変速的に駆け回る。
「無駄だって─────ッ!」
ジークが手をかざしたのと同時に、再びあの衝撃が合を襲う。
まるで全身が焼かれるような感覚。
けれど─────
「思った通りだ………!」
───合は倒れなかった。
その凄惨な笑みをますます濃くしただけで。
「馬鹿なっ!」
「ハハッ!そんなもんかよテメエの能力はァ!」
床を蹴る。今度は真っ直ぐと。ジークへ向けて、突き進む。
まるで獣のような前傾姿勢。狩人のような攻撃体勢。
防御も回避もかなぐり捨てて、ただ相手を斃すことのみに意識を向けた疾走。
「っ………!」
気圧されたように合から距離を取ろうとするジーク。
後ろへ下がりつつその「能力」を合へ向けて放つ。
あの感覚が、あの衝撃が、再び合の身体を襲う。
飛び散る鮮血。舞い散る鮮血。
「痛ッ……………ハハッ!」
けれど────合は止まらない。
相変わらず嘲笑を浮かべたまま、ジークとの距離を詰め続ける。
「なぜ倒れない!?俺の『能力』を喰らい続けて……!」
「甘いんだよォ!その能力があれば一撃ケーオーできるとでも思ったか!?テメエの能力なんざァとっくに掌握済みなんだよなァ!」
迫る────目と鼻の先まで、迫りくる。
「最初の違和感は開始直後に喰らった衝撃だ。その前にテメエの能力を喰らったときは死ぬかと思ったが………さっきの衝撃にはそれほどの威力は感じなかったなァ?」
「それが………どうした………っ!」
後ろへ下がりつつ連続して掌を突き出すジーク。
絶え間なく身体を襲う衝撃。けれど最早それは合の足止めにすらならない。
「ハッハーァ!どうしたどうしたァ?どんどん威力が落ちてるじゃねェか……ッ!」
ヴァァァァッッッ!
灼けつくような感覚に、瞼が切れたのがわかる。
滲む視界。霞む意識。
だが────
「どうやら痛みのお陰で鮮明な意識保てるみたいだ。お前にも感謝しないとな?」
迫る。
数メートルまで。
到る。
間合いの内側まで。
「こないだの借りを返さないとなァ!熨斗とおまけ付きの過剰包装でお返ししようか…………!」
軽く跳ねる。
ただの突きでは心もとない威力を、体重を乗せることで底上げする。
目を見開くジーク。
戦慄のあまり、その瞳には誰もが初めて目にする彼の感情────恐怖が滲んでいる。
「死ねェェェェッッッ!!!」
全速力と全体重を乗せた拳が、ジークの顔面に炸裂した。
「上手いね、いや────巧いと言うべきかな。なかなかの試合巧者ぶりを見せてくれるね」
レアリスの隣に立ち画面を見つめる青年───千文字夜泉はそういった。
「こないだの一撃。それから今日の初撃。あれだけでジークの能力を大方看破したみたいだ」
能力の看破。
それは能力者同士の戦いで最も重要とも言われる要素だ。
能力は身体機能。それだけに決して万能ではない。ならば戦闘においてその不完全性を利用しない手はない。
それを可能にするのが能力の看破だ。敵がどんな能力を持つのかを推理する。
それが弱者が強者に勝つための最適解。
それが軍人としての勝利への最短経路。
「実は私にはまだ良くわかってないんですが、どうして前回はあそこまで傷を負ったのに今回は何度も喰らってまだ経っていられるんですか?」
「アハハ。まあ良い着眼点だよ。でもタネが割れちゃうと拍子抜けするくらい簡単なんだよね」
だけどさー、と不満げな言葉を繋げて夜泉は言う。
「あれでもジークくんって割と強力な戦力なんだよね。だから僕がべらべら喋っちゃうと〜、なんていうか黎明とかノーアとかに怒られちゃうんだよ」
能力の看破が重要?
ならば圧倒的強者がすることは一つだ───極秘化。
逆に言えば能力の機密性が得られて初めて、強者は強者に成り得ると言える。
例えばレアリスも普段は陽炎で刀を極力隠しているしそもそも合との戦闘でも最初は炎を見せなかった。そのくらい、強者にとって能力の機密性はいっそ死活問題と言っていいほどの重要性を持つのだ。
「だからそこはレアリスが自分で当ててよ。まあ心配することはないよ。だって僕の経験から言うと───」
そう言って夜泉は笑みを深めた。
その視線の先には、勝ち誇った合の姿が映し出されていた。
「看破した能力は口に出した方が効果的だからね」
プレッシャー。
コールドリーディングでもホットリーディングでも共通することだが、人は自分の事を言い当てられると本能的に畏怖を抱く。
もしくは心理的圧迫を。
つまり、看破した能力を語ることは相手に心理的圧力をかけることに繋がるのだ。
『ハハッ!掌握したって言っただろ?テメエの能力くらいなァ!」




