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クローン兵は斃れない   作者: 雨麗亭四迷
第一章  海の向こうの殺意
18/26

能力と軍人

レアリスの不安の原因が明かされます

『───殺すか』


 彼は───空集合はそういった。

 レアリス・シャードバースはそんな彼を、不安げに見つめる。

 場所は控室。そこではカメラを通じて『コロシアム』の映像を見ることができる仕組みとなっている。


「うわっ、誰だよこいつ。ジークさんに喧嘩売るなんて正気じゃねえだろ」


 軍人に限らず一般職員も利用できるこの控室では、珍しい対戦カードに見物人の山ができていた。


「やっぱジークさんは凄いよね、私たち若手のホープだよ。あの『炎刃』にも勝ったことがあるらしいし」


 そんな声が聞こえてきて唇を噛む。だから本部には来たくなかったのだ。いや、こんな陰口はまだマシな方か。あの話題(・・・・)ではない以上。


「でもよ、その『炎刃』だって俺達と同期だろ?なんかやり切れないよな、ジークさんでさえあの『炎刃』より階級が低いって言うのが」

「仕方ないだろ、『炎刃』は()()シャードバース家出身だぞ。能力開発当時からある軍人一族。正直、軍幹部になるために生まれてきたようなもんだしなー」

「ほんとそれ、見てよあの澄ました顔。自分は私達とは違う世界の生き物、みたいな」

「ムカつくよね」

「シャードバース家がそんなに偉いのかって話だよ」

「でもでも、聞いた話じゃあそのシャードバース家からも追放されたらしいよ」

「まじ?」「まじまじ」「だっせー」「いろいろ切り売りして出世してきて?」「シャードバース家からも見放されたのか」「じゃあもうプライド高いだけの無能じゃん」「そもそも漆番隊って隊員一人なんでしょ?」「え?そんなに少ないの?」「やっぱ滲み出るんだろうね」「ていうか親しくなっちゃうと死んじゃうからでしょ」「仲間切り売りして………ていうか切り捨てて必死に出世してきたのに」「同胞殺しのレアリス・シャードバース」「仲間殺しの『炎刃』」「噂だとお世話になった師匠も殺したんだろ?」「そうそう、それで漆番隊隊長の座を奪い取ったとか」「最低だな」「そんな奴が高級将校なんて世の中理不尽っつーか」「不条理だよ〜」「なんであんな奴が」「同胞殺し」「仲間殺し」「師匠殺し」「味方を踏み出しにして成り上がって」「味方の死体を切り売りして」「師匠すら手にかけて」「敵よりも味方を殺す『炎刃』」「あんなのが人の上に立ったら」「皆殺されちゃうよ」「ただ能力と家柄に恵まれただけのくせに」「出世のためだけに何人殺したんだか」「人殺し」「殺人鬼」「殺戮者」「敵方のスパイだったりして」「なにそれウケる♪でもマジの話あるかもね」「シャードバース家だったから総隊長も手が出せなかったけど、これからは厳しくなるんじゃない?」「あんな澄ました顔なのも今のうちだって」「てかもういっそ粛清されちゃえばいいのに」「ジークさんに?」「アハハッ良いねそれ」「最高じゃん」「やっぱ同期代表としてジークさんでしょ」「いやいやそこはうちの隊長に殺ってもらいたいもんだよ」「裏切り者には死を、ってね」「そうでなくともあんなに味方殺してるんだからもう粛清で良いんじゃない?」「公開処刑を望むなー、できれば本部のエントランスで」「ヤバッ!一般人にも晒されるじゃん。最高!」「シャードバース家にも責任取らせたほうが良いんじゃない?」「どーせ『炎刃』なんて切り捨てられるっしょ」「今まで散々切り捨ててきた報いだな」「さっさとシャードバース家が責任取って粛清すれば良いんじゃない?」「あんな危険人物を出した責任で?」「そうそう」「なにそれウケる♪」「それで決まりだな」


 聞こえてんだよ、そう胸の内で呟く。

 本人たちの楽しげな声が、愉快な声が、どうしょうもなく心をえぐる。


「仲間殺しのレアリス・シャードバース」「もう死んじゃえよ」「殺されとけ」「死んでしまえ」「今までの報いで」「因果応報」「悪因悪果」「自業自得」「殺されても文句言えないよね」「これ以上軍部にいないでほしいんだけど」「危ないんだよね」「私達一般軍人のことも考えてほしい」「巻き添えになりたくないっていうか」「あ!ひょっとしてジークさんの闘い方を研究してるとか?」「リベンジのために?」「模擬戦で負けた腹いせに?」「怖っ」「恨み買っちゃたかな、ジークさん」「闇討ちでもするつもりなのかな」「ほんとに裏切るつもりじゃない?あの殺人鬼」「明らかにジークさんの勝ちなのに」「しつこく復讐でもするつもりなのかな」「雪辱でも晴らそうとしてるとか」「だっせー」「頭おかしくなっちゃったのかな」「復讐に取り憑かれてるんだよ」「やばいよ危険危険!さっさと始末したほうがいいって」「ジークさんにお願いする?」「良いねそれ」「早く死ねばいいのに」「殺されればいいのに」「殉死しないかな」「戦死しないかな」「死なないかな」


「浮かない顔してるねー、レアリス?」


 周囲を顧みない、爽やかな声。 

 参番隊隊長、千文字夜泉がそこに立っていた。


「そんなに俯いてちゃあ、必死に闘ってる合くんが可哀相だよ?顔を上げて見てあげないと」

「……………」


 そう言われて初めて、自分が目を逸らしていたことを思い知る。


「それにほら、今良いところだし」


 夜泉は映像を指し示す。

 そこには────


『死ねェッッッ!!!』


─────ジークの顔面に拳を叩き込む、合の姿が写っていた。

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